著者の所属・活動拠点の国は、クロアチア、セルビアです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

トマトの搾りかすを資源として生かす

トマトを加工すると、皮や種、果肉の残りなどの残渣が出ます。論文によると、その量は加工方法や製品により原料トマトの約2〜10%にあたり、世界全体では年間数百万トン規模になります。現在は主に家畜の飼料や土壌改良材、肥料、エネルギー用途などに使われていますが、処理には費用がかかり、環境への負担にもつながると指摘されています。

この残渣にはリコペンやβ-カロテンといったカロテノイド(トマトの赤やオレンジの色のもとになる色素成分)が多く含まれており、食品や化粧品などの原料としての利用が検討されています。研究チームは、こうした成分を環境負荷の少ない方法で回収することを目指し、溶媒(成分を溶かし出す液体)の選定、マイクロ波を使った抽出条件の検討、そして環境影響の評価を組み合わせて調べました。

溶媒を比べ、マイクロ波抽出の条件を探る

研究チームはまず、一般に安全とみなされる成分から選んだ溶媒を比較しました。候補はオリーブ油、ひまわり油、柑橘類の香り成分であるリモネン、そして複数の成分を特定の割合で混ぜて作る「深共晶溶媒」と呼ばれる液体(メントールとチモール、メントールと乳酸、脂肪酸のカプリン酸とラウリン酸の組み合わせ)です。これらを使い、電子レンジと同じ原理でマイクロ波により試料を加熱する「マイクロ波支援抽出」を、低出力で長時間と高出力で短時間の2通りの条件で行いました。

低出力・長時間の条件では、ひまわり油、カプリン酸とラウリン酸からなる深共晶溶媒、オリーブ油の3つが高い収量を示し、それらの間に統計的に意味のある差はありませんでした。一方、リモネンはリコペンをまったく抽出できず、最も適さない溶媒とされました。

この結果をもとに、ひまわり油と、カプリン酸・ラウリン酸の深共晶溶媒の2つについて、抽出時間とマイクロ波出力を変えながら、リコペンとβ-カロテンの収量、および消費電力を指標に条件を絞り込みました。著者らは、ここで選んだ条件は検討した範囲内で最も成績のよかった条件であり、統計モデルから導いた全体の最適値ではないと説明しています。

溶媒によって最適な条件は大きく異なった

ひまわり油では、条件が極端になると両方の色素の収量が下がりました。研究チームは収量と消費電力の釣り合いを考慮して、217ワットで4分間という条件を選び、乾燥残渣100グラムあたりリコペン3.57ミリグラム、β-カロテン2.82ミリグラムを得ました。消費電力は0.014キロワット時でした。

対照的に、深共晶溶媒では当初の検討範囲の上限でも収量が下がらなかったため、より強い条件まで範囲を広げました。その結果、1800ワットで13分間という最も強い条件で、リコペン9.80ミリグラム、β-カロテン5.29ミリグラムと最も高い収量が得られました。ただし消費電力は0.390キロワット時と多くなりました。著者らは、この深共晶溶媒はひまわり油よりも厳しい抽出条件に耐えられることを強く示していると述べています。

残渣を振動式の装置で細かく粉砕する効果も調べられました。ひまわり油を使った穏やかな条件では収量が向上した一方、深共晶溶媒を使った強い条件では逆に収量が減りました。研究チームは、細胞の構造をより壊すと、過度な熱にさらされた場合に色素の分解が進みうることを示していると解釈しています。

さらに、最適化したマイクロ波抽出を、ヘキサンとアセトンの混合液などを使ってかき混ぜる従来型の抽出法や、超音波を使う抽出法と比べたところ、深共晶溶媒を使ったマイクロ波抽出が両方の色素で最も高い回収量を示しました。

「グリーン」かどうかは数値で確かめる必要がある

研究チームは、製品やプロセスが環境に与える影響を総合的に見積もる「ライフサイクルアセスメント」の考え方を用い、7通りの抽出法について、気候変動、酸性化、富栄養化、毒性、資源消費などの観点から環境負荷を比較しました。ただし評価の範囲は抽出工程の部分に限られ、残渣の生産や輸送、溶媒の回収、製品の精製、規模拡大は含まれていません。

ひまわり油を使う方法の中ではマイクロ波抽出が全項目で最も負荷が小さく、深共晶溶媒を使う方法の中では従来型の抽出が多くの項目で最も良好でした。一方、回収できたカロテノイドの量と合わせて評価すると、深共晶溶媒によるマイクロ波抽出が抽出効率と環境性能のバランスで最も優れ、次いでヘキサンとアセトンによる従来型抽出が続きました。

著者らは、食品にも使われる溶媒や新しい抽出技術を使ったからといって、それだけで環境にやさしいとはいえず、回収できる成分の量と合わせてライフサイクルの視点から定量的に評価する必要があると結論づけています。なお、実験は実験室規模で、限られた産地・年のトマト残渣を用いたものであることも、研究の限界として示されています。

原著論文の著者・所属:Tea Petković(Department of Nutrition and Dietetics, University of Zagreb Faculty of Pharmacy and Biochemistry, Ante Kovačića 1, 10000 Zagreb, Croatia)、Nikolina Golub(Department of Nutrition and Dietetics, University of Zagreb Faculty of Pharmacy and Biochemistry, Ante Kovačića 1, 10000 Zagreb, Croatia)、Emerik Galić(Department of Nutrition and Dietetics, University of Zagreb Faculty of Pharmacy and Biochemistry, Ante Kovačića 1, 10000 Zagreb, Croatia)、Kristina Radić(Department of Nutrition and Dietetics, University of Zagreb Faculty of Pharmacy and Biochemistry, Ante Kovačića 1, 10000 Zagreb, Croatia)、Mario Jug(Department of Pharmaceutical Technology, University of Zagreb Faculty of Pharmacy and Biochemistry, Ante Kovačića 1, 10000 Zagreb, Croatia)、Nada Smigic(Department of Food Safety and Quality Management, University of Belgrade Faculty of Agriculture, Nemanjina Street 6, 11080 Belgrade, Serbia)、Ilija Djekić(Department of Food Safety and Quality Management, University of Belgrade Faculty of Agriculture, Nemanjina Street 6, 11080 Belgrade, Serbia)、Dubravka Vitali Čepo(Department of Nutrition and Dietetics, University of Zagreb Faculty of Pharmacy and Biochemistry, Ante Kovačića 1, 10000 Zagreb, Croatia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tea Petković, Nikolina Golub, Emerik Galić, et al. Tomato Pomace Valorization: Green Solvent Evaluation, Microwave-Assisted Extraction Optimization, and Life-Cycle Assessment for Carotenoid Recovery. Foods 2026-10-18. DOI: 10.3390/foods15203710. 原著ライセンス:CC BY.