著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:オリーブ油づくりの副産物を羊の飼料に
オリーブ油を作ると大量の副産物が出ます。論文によれば、オリーブ1000kgを加工すると約800kgの廃棄物が生じ、十分に活用されないまま環境上の問題になることもあります。研究チームが注目したのは、搾りかすから種(核)の一部を取り除いた「部分脱核オリーブケーキ」です。核を減らすと消化しにくい成分のリグニンが少なくなり、従来の搾りかすより家畜が消化しやすくなるとされています。
オリーブの副産物を牛や羊などの反芻動物に与える研究はこれまでにもありました。ただし、多くは乳そのものや熟成期間の短いチーズを対象にしており、放牧された羊の乳から作る長期熟成の伝統チーズについての情報は限られていました。そこで研究チームは、イタリア・シチリアの原産地呼称保護(PDO)チーズ「ペコリーノ・シチリアーノ」を6か月熟成させ、飼料の違いが最終製品に残るかどうかを調べました。チーズ製造で出るホエイ(乳清)から作るリコッタも調査対象に含めています。研究チームは、この副産物を使っても伝統乳製品の製造適性、微生物面、栄養面、風味を損なわずに済むかを確かめることも目的に挙げています。
どのように調べたか
実験には、シチリアの在来種であるヴァッレ・デル・ベリーチェ種の泌乳中の雌羊124頭を用いました。出産回数、分娩後の日数、1日の乳量がそろうように62頭ずつ2群に分けています。両群とも同じ牧草地で放牧し、午後4時に配合飼料を1頭あたり0.5kg与えました。対照群の配合飼料にはオリーブケーキを含めず、試験群の配合飼料には安定化処理した部分脱核オリーブケーキを17%(給与時の重量ベース)配合しました。2種類の配合飼料は、エネルギー量がほぼ同じになるよう設計されています。
試験期間は、2週間の慣らし期間を含めて14週間です。青草が最も豊富な4〜6月に2週間ごとに各群の乳を別々に集め、伝統的な製法でペコリーノとリコッタを計6回作りました。研究チームはそれぞれについて、乳の成分と凝固のしやすさ、チーズの成分・色・硬さ、ポリフェノール量、脂質の酸化の程度、脂肪酸の構成を分析しました。さらに、木製の桶から熟成後のチーズまでの各段階で微生物を調べ、遺伝子解析で細菌群集の構成も確認しています。
論文は、試験群の配合飼料ではオリーブケーキの影響で粗たんぱく質、脂肪、繊維なども対照と異なっていたと述べています。そのため、結果は複数の成分変化が合わさったものとして解釈する必要があるとしています。また、オリーブケーキの安定化に使われた塩酸処理の詳しい条件は製造者の非公開情報で、研究の限界の一つだと記しています。
主な結果:品質は保たれ、脂肪酸の変化は限られた
乳の成分は2群で差がありませんでした。一方、試験群の乳では凝乳(カード)が固くなるまでの時間が短く、カードも固くなりました。研究チームは、熟成チーズづくりに向いた性質の可能性があるとしています。乳中の体細胞数は試験群で多くなりましたが、論文はこの値が健康状態や飼育管理などさまざまな要因に左右されるため、飼料だけが原因とは言えないとしています。
6か月熟成したペコリーノとリコッタの成分、ペコリーノの酸度、色、硬さには、飼料による差は見られませんでした。チーズのポリフェノール量と脂質酸化の指標にも差はありませんでした。研究チームは、放牧が中心で配合飼料の割合が小さかったため、チーズに移るほどのポリフェノールが供給されなかった可能性を挙げています。なお、リコッタのポリフェノール量は予想に反して対照群のほうが多い結果でした。
脂肪酸の変化は一部にとどまりました。熟成ペコリーノでは、試験群で中鎖の不飽和脂肪酸が減り、一価不飽和脂肪酸と中鎖脂肪酸の合計も少なくなりました。また、試験群ではリノール酸が増え、共役リノール酸の一種であるルーメン酸はペコリーノとリコッタの両方で減りました。オレイン酸や飽和脂肪酸の合計は変わりませんでした。過去の研究ほど明確な変化が出なかった理由について、研究チームは、牧草の割合が高いこと、牧草自体に不飽和脂肪酸が多いこと、熟成期間が長いことが関わっている可能性を考察しています。ただし、これらの条件を比べる実験は行っていません。
微生物については、搾った直後の生乳で、試験群のほうが中温性の微生物全体や乳酸菌が約10倍多くなりました。しかし、伝統的な木製の桶に入れた後は差がなくなり、できたてのチーズでも熟成後のチーズでも両群の微生物構成は同程度でした。研究チームは、桶の表面にすみ着いた微生物が乳の微生物をそろえる働きをしたと考えています。リステリア菌やサルモネラ菌など乳製品で問題になる病原菌は、全工程のどの試料からも検出されませんでした。
この研究が示すこと
この研究は、放牧中心の飼い方で配合飼料の一部をオリーブ油製造の副産物に置き換えても、今回の試験条件では伝統的な長期熟成チーズの成分、物理的な性質、微生物面の安全性が損なわれなかったことを報告しています。一方、チーズの脂肪酸組成への影響は限られていました。その理由として飼い方や熟成期間などが挙げられていますが、これは研究チームが可能性として考察したものです。論文は題名で、品質を保ちながら官能特性(風味の感じ方)に変化が見られたとしています。地域の副産物を伝統的な乳製品づくりに生かす方法を考えるうえで、参考になる報告です。
原著論文の著者・所属:Mahmood Ul Hassan(Department of Agricultural, Food and Forestry Science (SAAF), Università di Palermo, Viale delle Scienze 13, 90128 Palermo, Italy)、Riccardo Gannuscio(Department of Agricultural, Food and Forestry Science (SAAF), Università di Palermo, Viale delle Scienze 13, 90128 Palermo, Italy)、Giuseppe Maniaci(Department of Agricultural, Food and Forestry Science (SAAF), Università di Palermo, Viale delle Scienze 13, 90128 Palermo, Italy)、Gabriele Busetta(Department of Agricultural, Food and Forestry Science (SAAF), Università di Palermo, Viale delle Scienze 13, 90128 Palermo, Italy)、Marco Alabiso(Department of Agricultural, Food and Forestry Science (SAAF), Università di Palermo, Viale delle Scienze 13, 90128 Palermo, Italy)、Elena Franciosi(Research and Innovation Centre, Fondazione Edmund Mach (FEM), Via E. Mach 1, 38098 San Michele All’Adige, Italy)、Luca Settanni(Department of Agricultural, Food and Forestry Science (SAAF), Università di Palermo, Viale delle Scienze 13, 90128 Palermo, Italy)、Raimondo Gaglio(Department of Agricultural, Food and Forestry Science (SAAF), Università di Palermo, Viale delle Scienze 13, 90128 Palermo, Italy)、Massimo Todaro(Department of Agricultural, Food and Forestry Science (SAAF), Università di Palermo, Viale delle Scienze 13, 90128 Palermo, Italy)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mahmood Ul Hassan, Riccardo Gannuscio, Giuseppe Maniaci, et al. Dietary Inclusion of Stabilized Partially Destoned Olive Cake in Grazing Dairy Ewes Preserves Cheese Quality While Modulating the Sensory Profile of Pecorino Siciliano PDO Cheese. Foods 2026-09-09. DOI: 10.3390/foods15183186. 原著ライセンス:CC BY.