著者の所属・活動拠点の国は、オーストリアです。

掲載誌:Wiener klinische Wochenschrift

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

ダウン症は21番染色体が1本多いことによって起こり、知的障害を伴う染色体の違いとして最もよく見られるものです。論文によると、ダウン症のある成人は一般の人々や他の原因による知的障害のある人と比べて、過体重や肥満の割合がかなり高いと報告されています。そのため、インスリンが効きにくくなる状態(インスリン抵抗性)、血中脂質の異常、脂肪肝、2型糖尿病などのリスクが高まります。

肥満の背景には、筋肉の張りの弱さ、ホルモンの異常、安静時に消費するエネルギーの少なさといった体の要因があります。さらに、食習慣、運動の機会の少なさ、食事の選択や準備を介助者に頼っている状況なども重なります。著者らは、食事・運動・行動面の支援と介助者の参加を組み合わせた取り組みが重要と考えられている一方で、ダウン症のある成人に特化した生活習慣介入の研究はまだ少ないと指摘しています。

そこで研究チームは、オーストリア・ウィーンにあるダウン症専門外来で実施された、栄養療法を含む多職種の生活習慣プログラムの結果を振り返って評価しました。対象は過体重または肥満のある成人です。

どのようなプログラムを調べたか

この研究は、過去の診療記録やプログラムの記録を後からまとめて分析する「後ろ向き観察研究」です。2016年10月から2017年10月にこの外来を受診した人のうち、18歳以上で、遺伝学的にダウン症と確認され、BMI(体重と身長から計算する体格の指標)が25を超え、プログラムに参加できると判断された人が対象になりました。

プログラムの期間は10か月です。管理栄養士による個別の食事相談と、90分の栄養講座8回を中心に構成されました。講座では健康的な食べ方、水分補給、砂糖を控えること、食品表示の読み方、1回に食べる量、献立の立て方などを扱いました。ほかに、プロの料理人と管理栄養士が指導する料理教室12回とスーパーマーケットでの買い物実習、専門の療法士による60分の運動セッション16回、臨床心理士による食行動や体のイメージに関するグループセッション8回もありました。介助者も4回の会合に参加しました。理解を助けるため、目で見て分かる教材や体験型の学習が取り入れられました。

評価は開始時、5か月後、10か月後の3回行われました。主に注目したのは体重の変化です。加えて、体組成(脂肪量や除脂肪量など)、食事記録から見た摂取量、血液検査、本人の自己申告による生活習慣の変化も調べました。体重が開始時より5%を超えて減った場合を、臨床的に意味のある減量としました。

主な結果

条件を満たしたのは9人で、プログラムと評価を最後まで終えた5人が分析の対象になりました。内訳は女性4人と男性1人、年齢は19〜30歳です。全員が開始時に肥満の状態で、平均BMIは36.0でした。残りの4人が完了できなかった理由は、主に日程の重なりや家庭の事情など、運営面・生活面のものだったと報告されています。

平均体重は開始時の81.5kgから終了時には78.9kgに減りました。BMIや脂肪量にも同じような減少が見られましたが、いずれも統計的に意味のある差には至りませんでした。個人ごとに見ると、5人中3人が5%を超える減量を達成しました。この3人では脂肪量や内臓脂肪が減り、除脂肪量はおおむね保たれていました。一方で、体重が6.7kg(8.6%)増えた参加者も1人いました。著者らは、この人が実家から共同生活の住まいへ移り、食べ物を自分で選ぶ機会が増えた時期と重なっていたと記しています。

食事記録による1日のエネルギー摂取量は、平均で2020kcalから1593kcalに減りましたが、この差も統計的に意味のある水準には達しませんでした。終了時に自由回答で尋ねた生活習慣の変化では、甘い飲み物や食べ物を減らしたこと、より健康的な食品の選び方や調理法、栄養への意識や水分摂取の向上、食べ方や量の調整が多く挙げられました。今後の目標としては、体重管理や運動を増やすことが多く挙がりました。

この研究が示すこと

著者らは、統計的に意味のある変化は確認できなかったものの、体重や食行動、健康への意識に改善の可能性がうかがえたと述べています。ただし、参加者が少なく、比較対象となるグループもない後ろ向き研究であるため、プログラムが変化の原因だと結論づけることはできません。食事の自己記録には過少申告が起こりやすいことや、体組成の測定方法に限界があることも、論文の中で注意点として挙げられています。

それでも、ダウン症と肥満のある成人が、専門外来という日常の診療の場で、栄養・調理・運動・心理面の支援と介助者の関わりを組み合わせた10か月のプログラムに取り組めることを示した点に、この研究の意義があります。論文は、こうした個別に合わせた生活習慣支援について、初期の臨床経験を伝える報告と位置づけられています。

原著論文の著者・所属:Barbara Bauer(Outpatient clinic for individuals with Down syndrome at Klinik Landstraße, Vienna, Austria)、Alexandra Thajer(Department of Pediatrics and Adolescent Medicine, Division of Pediatric Pulmonology, Allergology and Endocrinology, Medical University of Vienna, Comprehensive Center for Pediatrics, Waehringer Guertel 18-20, 1090, Vienna, Austria. [email protected])

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Barbara Bauer, Alexandra Thajer. Outcomes of a multidisciplinary lifestyle intervention in adults with Down syndrome. Wiener klinische Wochenschrift 2026-09-09. DOI: 10.1007/s00508-026-02814-9. 原著ライセンス:CC BY.