著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Animals

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:薬用植物の副産物を家畜の飼料に生かせるか

牛や羊などの反芻動物の生産では、農産物や加工の副産物を価値の高い飼料に変える取り組みが注目されています。その方法の一つが、きのこなどの菌類を固形の材料の上で育てる「固体発酵」です。菌類が分泌する酵素が、植物の硬い繊維成分(リグニンやセルロース)を分解し、栄養の組成や性質を変えると考えられています。

研究チームが注目したのは、きのこの一種であるカワラタケ(Trametes versicolor)と、漢方の生薬や健康食品の原料に使われる太子参(Pseudostellaria heterophylla)の塊根です。カワラタケはラッカーゼなどの酵素を分泌し、繊維成分を分解する力があるとされます。太子参には多糖類や環状ペプチドなどの成分が含まれ、その根の副産物にはアルギニンなどのアミノ酸やミネラルが含まれると報告されています。

著者らは、太子参の細い根や尾根を材料にカワラタケで発酵させた「カワラタケ・太子参発酵基質」を作りました。菌が生薬の成分を変化させ、生薬の成分が菌の代謝に影響するという、双方向の発酵です。先行研究では、この発酵基質の栄養組成などに好ましい変化が報告されていました。一方、反芻動物での効果はまだ報告されていませんでした。そこで、カザフ羊の子羊の飼料に加え、成長、ルーメンの働き、肉質への影響を調べました。ルーメンは反芻動物の第一胃で、微生物が飼料を発酵・分解する場所です。

どのように調べたか

発酵基質は、トウモロコシの穂軸59%、太子参10%、ふすま29%などを混ぜた培地で作りました。この培地にカワラタケを接種し、25℃で10日間発酵させたあと、乾燥・粉砕しています。発酵基質のエネルギー量は1キログラムあたり16.90メガジュール、粗タンパク質は16.55%でした。糖ペプチドや多糖類、ポリフェノールなどの成分も含まれていました。

試験では、発酵基質を与えない対照群と、1日あたり0.1キログラム、0.2キログラム、0.3キログラムを与える3群を比べました。調べた項目は、体重と増体、枝肉の重さ、血液の生化学・抗酸化・免疫の指標です。ほかに、ルーメン液の発酵産物、ルーメン微生物の構成、背中のロース部位(胸最長筋)の肉の色・脂肪・においに関わる成分も測りました。ルーメン微生物は遺伝子配列の解析で調べています。

主な結果:成長には差がなく、微生物と肉質の一部に変化

発酵基質を与えても、最終体重や1日あたりの増体量に統計的に意味のある差は見られませんでした。一方、枝肉の重さは、給与量が増えるほど直線的に減る関係を示しました。血液の抗酸化の指標や、免疫グロブリン・サイトカインなどの免疫の指標にも有意な差はありませんでした。ルーメン液のpHや酢酸・プロピオン酸、揮発性脂肪酸の総量、アンモニア態窒素にも有意な影響はありませんでした。酪酸の濃度だけは、給与量に応じていったん上がってから下がる曲線的な変化を示しました。

ルーメン微生物には変化が見られました。0.2キログラム群では、微生物の種類の豊かさを表す多様性の指標が対照群より有意に低くなりました。一方、群どうしの群集全体の構成の違いには有意差がありませんでした。発酵基質を与えた群では、バクテロイデス門の細菌の割合が増え、フィルミクテス門が減りました。0.2キログラム群と0.3キログラム群では、繊維の分解に関わるとされるプレボテラ属の割合が高くなっていました。著者らは、多様性の低下は細菌が無秩序に減ったことを示すものではないと解釈しています。繊維を分解する細菌が選択的に増えたことを反映している、という見方です。

肉質では、0.3キログラム群の肉で、と畜24時間後の明るさの値が対照群より有意に高くなりました。また、筋肉中の粗脂肪の含量も有意に増えました。0.2キログラム群では、と畜45分後の肉の黄色みの値が有意に高くなりました。肉のpHや硬さ(せん断力)には有意な差がありませんでした。においの分析では、0.1キログラム群の生肉で一部のセンサーの反応が有意に高くなりましたが、ほかの量では有意な影響はありませんでした。

この研究が示すこと

著者らは、1日0.3キログラムの給与がルーメンの繊維分解菌に影響を与え、筋肉内の脂肪の蓄積と肉色の改善につながり、肉質を高めたと結論づけています。その一方で、成長、抗酸化能、免疫の状態には有意な効果が見られなかったことも明記しています。成長に効果が出なかった理由として、著者らはいくつかの可能性を挙げています。発酵基質に占める太子参の割合が10%と少なかったこと、有効成分がルーメン微生物に分解された可能性があること、などです。

この研究は、実際の生産現場に近い形で発酵基質を飼料に直接加えた予備的な試験です。そのため、エネルギーやタンパク質の量をそろえた飼料は作られていません。また、発酵させていない太子参を与える比較群もありません。著者らは、観察された変化が太子参の成分、カワラタケによる発酵、菌の代謝産物のどれによるものかは区別できないとしています。薬用植物の副産物を発酵させて飼料に使う試みについて、効果が見られた項目と見られなかった項目の両方を示した報告といえます。

原著論文の著者・所属:Changzhao Jin(Research Center for Biological Feed and Animal Gut Health, College of Animal Science, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Ayiguli Abudoukelimu(Xinjiang Han Ziran Biotechnology Co., Ltd., Changji 831199, China)、Zainafuguli Aishanjiang(Research Center for Biological Feed and Animal Gut Health, College of Animal Science, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Yong Chen(Research Center for Biological Feed and Animal Gut Health, College of Animal Science, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Jiancheng Liu(Research Center for Biological Feed and Animal Gut Health, College of Animal Science, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Changzhao Jin, Ayiguli Abudoukelimu, Zainafuguli Aishanjiang, et al. Effects of Trametes versicolor-Pseudostellaria heterophylla Fermented Substrate on Growth Performance, Rumen Function and Meat Quality of Kazakh Lambs. Animals 2026-09-05. DOI: 10.3390/ani16172792. 原著ライセンス:CC BY.