著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。
掲載誌:Applied Sciences
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的:オレンジの皮をどう生かすかを総合的に比べる
オレンジ果汁をつくると、皮などの搾りかすが大量に出ます。著者らはこれを「オレンジピール廃棄物」と呼び、資源として生かす方法を評価する枠組みをつくりました。対象としたのは、資源を使い捨てにせず循環させる「循環経済」の考え方です。
研究チームは、環境への影響だけでなく、技術、経済、社会、資源の循環性といった複数の側面から、処理技術を比べられる評価方法を目指しました。適用事例には、イタリア企業クリル・デザイン社のバイオ複合材を選んでいます。この素材は、果汁製造で出るオレンジの皮と、微生物がつくる生分解性プラスチックの一種「PHA(ポリヒドロキシアルカン酸)」を混ぜたものです。
三つの段階を組み合わせた評価方法
著者らはまず、オレンジの皮の活用に関する既存研究を調べました。データベース検索で見つかった47件の研究を条件に沿って選別しています。その結果、最も多く使われていた方法は、微生物の働きで有機物を分解してガスを得る「嫌気性消化」で、事例の26%を占めました。次いで焼却が21%、熱分解などの熱化学的処理が11%でした。この調査をもとに、普及が進んだ技術として嫌気性消化、焼却、家畜飼料化の三つを選び、クリル・デザイン社の技術と比べる対象にしました。
評価は三段階で進められました。第一段階の「ホリスティック診断」では、文献調査や現地調査を通じて生産システム全体の関係を整理し、「複雑性マップ」として描き出しました。第二段階では「ライフサイクルアセスメント(LCA)」を用いました。LCAは、製品が環境に与える影響を工程ごとに数量化する手法です。今回は原料の調達から粒状の素材(ペレット)ができるまでを範囲としました。第三段階では、複数の評価基準を重みづけして総合判断する「多基準意思決定分析」を行いました。
比較に使う指標の選定にも段階を踏んでいます。文献から集めた指標を、循環性の測定に関する国際規格ISO 59020に照らして見直し、27の指標に整理しました。さらに、オレンジの皮を加工するイタリアの中小企業4社に聞き取りを行いました。各指標について「技術の循環性を測るうえで重要か」「自社にデータがあるか」を尋ね、最終的に14の指標を選んでいます。最終評価では、指標を均等に重みづけする方法と、専門家が定めた重みを用いる方法の両方を試みました。
主な結果:季節性の課題と、PHA製造に集中する環境負荷
ホリスティック診断では、原料に関する課題が浮かび上がりました。オレンジの皮がどれだけ手に入るかは、オレンジの生産や加工の季節に大きく左右されます。市場面の課題としては、消費者が素材の利点をよく知らないことが挙げられました。生分解性や耐久性についての誤解、有機廃棄物を使うことへの否定的な反応、PHAの価格上昇も懸念として指摘されています。一方で、大手のプラスチック企業や食品企業との協力は可能性として示されました。
LCAでは、オレンジの皮25%、PHA75%の複合材について環境負荷を見積もっています。オレンジの皮はもともと副産物のため、発生するまでの環境負荷はゼロとみなされました。1日30キログラムを製造すると、温室効果ガスの排出は二酸化炭素換算で97.2キログラム、水の消費は2.42立方メートルと算出されました。ペレット1キログラムあたりでは、排出量3.24キログラム、水消費0.08立方メートルにあたります。
負荷の大部分はPHAの製造から生じていました。排出量3.24キログラムのうち約3.22キログラムがPHAの製造に由来し、なかでもPHAを取り出す抽出工程だけで約2.86キログラム、全体の約88%を占めました。混合、押し出し成形、冷却といった後の工程は、合計をほとんど増やしていません。水の消費でもPHAの製造が主な要因でした。ただし、乾燥工程で処理水の一部、0.114立方メートルを回収するため、最終的な正味の消費量は抑えられています。
論文の要旨によると、環境面の結果は、新たな原料の代わりに農業・食品の残さを使うと環境影響が減ることを確かめるものでした。その効果は特に、廃棄処分を避けられる点と資源の消耗を抑えられる点で表れています。また、条件を変えて結果の変化を調べる感度分析も行われました。その結果、工場で使う電力の発電構成を低炭素なものにすることと、素材に占めるオレンジの皮の割合を高めることが、排出削減に重要だと示されています。
研究が示す意味
著者らは結論で、農業廃棄物の活用には技術の性能だけでなく、環境評価や地域の事情も合わせて考える学際的な取り組みが必要だと述べています。この研究の主な貢献は、定性的な診断、環境評価、意思決定支援を一つにつなげ、異なる活用方法を筋道立てて比べられる枠組みを示した点にあるとしています。
著者らは、今回のデータが特定の事例に基づくこと、LCAに前提条件が含まれること、工業規模への拡大について詳しい技術・経済評価をしていないことを限界として挙げています。そのうえでこの研究は、オレンジの皮という身近な副産物をめぐって、どの活用方法がよいかを一つの物差しではなく複数の視点から判断する手がかりを示しています。
原著論文の著者・所属:Ilaria Orlandella(Department of Engineering for Environment, Land and Infrastructure (DIATI), Politecnico di Torino, Corso Duca degli Abruzzi 24, 10129 Torino, Italy)、Fabiana Rovera(Department of Architecture and Design (DAD), Politecnico di Torino, Viale Pier Andrea Mattioli 39, 10125 Torino, Italy)、Elena Todella(Department of Engineering and Architecture (DIA), University of Parma, Parco Area delle Scienze 181/A, 43124 Parma, Italy)、Silvia Barbero(Department of Architecture and Design (DAD), Politecnico di Torino, Viale Pier Andrea Mattioli 39, 10125 Torino, Italy)、Silvia Fiore(Department of Engineering for Environment, Land and Infrastructure (DIATI), Politecnico di Torino, Corso Duca degli Abruzzi 24, 10129 Torino, Italy)、Tonia Tommasi(Department of Applied Science and Technology (DISAT), Politecnico di Torino, Corso Duca degli Abruzzi 24, 10129 Torino, Italy)、Patrizia Lombardi(Interuniversity Department of Regional and Urban Studies and Planning (DIST), Politecnico di Torino, Viale Mattioli 39, 10125 Torino, Italy)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ilaria Orlandella, Fabiana Rovera, Elena Todella, et al. A Multi-Dimensional Approach to Orange Peel Waste Management in the Circular Economy Perspective. Applied Sciences 2026-10-15. DOI: 10.3390/app162010226. 原著ライセンス:CC BY.