この研究は、インドネシア、マレーシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Veterinary world

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

なぜアブラヤシの搾りかすに注目したのか

パーム油の生産量は世界の約82%をインドネシアとマレーシアが占めており、その過程で大量の副産物が生まれます。研究チームが取り上げたのは、アブラヤシの葉柄(オイルパームフロンド)、パーム核粕、そして搾油工程で出るデカンターケーキの3種類です。いずれも植物の細胞壁成分を多く含む資材で、反芻家畜(牛など)のエサとして使える可能性があります。

ただし、これらの副産物にはリグニンという硬い成分が多く含まれています。リグニンは繊維を取り囲んで守る役割を持つため、ルーメン(反芻胃)にいる微生物が繊維を分解しにくくなり、飼料としての価値が下がってしまいます。そこで注目されたのが、白色腐朽菌と呼ばれるキノコの仲間です。白色腐朽菌は細胞の外に酵素を出してリグニンを分解する性質を持ち、薬品を使う処理に比べて安全で環境負荷が小さいと考えられています。

研究チームは、リグニンペルオキシダーゼなどの酵素が強いファネロカエテ・クリソスポリウムと、ラッカーゼ活性が高いカワラタケ(トラメテス・ベルシカラー)という2種類の白色腐朽菌に着目しました。これまでの研究は単一の副産物に単一の菌を使うものが中心で、混合した副産物に対して単独の菌と2種を組み合わせた「コンソーシアム(菌の組み合わせ)」を同じ条件で比べた例はないと述べています。両者の酵素は互いに補い合う関係にあるため、組み合わせればより効果的ではないか――これが研究チームの立てた仮説でした。

何をどう調べたか

実験では、乾物あたり葉柄50%、パーム核粕25%、デカンターケーキ25%を混ぜた基本の資材を用意しました。この配合は複数の候補のなかで粗タンパク質が最も高く、粗繊維が最も低かったため選ばれています。

比較したのは5つの区分です。発酵させない対照区、菌を接種せずに発酵させた区、ファネロカエテ・クリソスポリウムのみを接種した区、カワラタケのみを接種した区、そして2種を半分ずつ接種したコンソーシアム区です。発酵はおよそ29℃・湿度67%の条件で28日間行われ、各区に5つの独立した反復が置かれました。

発酵後は、成分組成(タンパク質、繊維画分、リグニンなど)を分析するとともに、実験室内でルーメンの環境を再現する「in vitro(試験管内)」試験を行いました。食肉処理場で得た牛のルーメン液を使い、72時間にわたって発生するガスの量、pH、アンモニア態窒素、揮発性脂肪酸(微生物が繊維を分解してつくるエネルギー源)の組成、乾物や有機物の消化率を測定しています。メタン発生量は揮発性脂肪酸の組成から計算式で推定されました。さらに、ルーメン微生物の数をqPCR(特定の微生物のDNAを定量する手法)で調べています。なお、生きた動物を使った処置は行われていません。

報告された主な結果

まず成分については、発酵させたすべての区で粗タンパク質が対照区の10.17%から12.58〜13.71%へと有意に高まりました。一方でヘミセルロースは減少し、対照区の19.76%に対して菌を接種した3区ではいずれも12〜14%台まで下がっています。ここで注意が必要なのは、リグニンや酸性デタージェント繊維といった構造性の成分は、減るのではなく発酵によってむしろ増加したと報告されている点です。対照区のリグニン12.80%に対し、コンソーシアム区では18.31%でした。

人工ルーメンでの発酵性は、研究チームの当初の仮説とは異なる方向を示しました。累積ガス発生量は発酵区すべてで対照区を下回り、とくにコンソーシアム区で低い値となっています。乾物消化率は対照区の57.43%に対し、コンソーシアム区では27.35%と最も低く、推定された代謝エネルギーも同様の傾向でした。総揮発性脂肪酸の濃度も発酵区で低下しています。

メタンについては、推定値が対照区の23.96 mmol/Lに対し、菌を接種した3区では15.91〜17.59 mmol/Lへと有意に低下しました。水素回収率で補正した値でも同じ傾向が見られています。ただしこれは、全体の発酵活性そのものが下がった状況のなかで観察された値である点を押さえておく必要があります。pHとアンモニア態窒素には有意な差はなく、繊維分解菌であるフィブロバクター・スクシノゲネスとルミノコッカス・アルブスの菌数にも統計的な差は認められませんでした。

相関分析では、酸性デタージェント繊維とリグニンの濃度が高いほど、乾物消化率、総揮発性脂肪酸、代謝エネルギー、メタン発生量がいずれも低くなるという強い負の関係が示されました。

この結果が意味すること

白色腐朽菌による発酵は、混合したアブラヤシ副産物のタンパク質含量を高め、ヘミセルロースを減らすという変化をもたらしました。しかし同じ条件下で、繊維やリグニンの割合は増加し、試験管内での消化率・ガス発生量・エネルギー価は低下しています。2種の菌を組み合わせれば相乗効果が得られるという仮説は、この実験条件では支持されませんでした。

この研究が示しているのは、成分表の一部が改善したことと、実際に家畜が利用しやすくなることは必ずしも一致しない、という点です。リグニンと繊維の濃度が発酵性の指標と強く負に相関していたことは、その関係を裏づけています。豊富に存在する農業副産物を飼料として活かそうとするとき、処理の効果は栄養成分と発酵特性の両面から確かめる必要がある――研究チームの報告は、そうした評価の重要性を具体的なデータとともに示しています。

著者:Fhonna FA(Doctoral Program of Agricultural Science, Postgraduate School, Universitas Syiah Kuala, Banda Aceh 23111, Indonesia.)、Jayanegara A(Department of Nutrition and Feed Technology, Faculty of Animal Science, IPB University, Bogor 16680, Indonesia.)、Wajizah S(Department of Animal Husbandry, Faculty of Agriculture, Universitas Syiah Kuala, Banda Aceh 23111, Indonesia.; Research Center for Innovation and Feed Technology, Universitas Syiah Kuala, Banda Aceh 23111, Indonesia.)、Samsudin AA(Institute of Tropical Agriculture and Food Security, Universiti Putra Malaysia, Selangor 43400, Malaysia.)、Samadi S(Department of Animal Husbandry, Faculty of Agriculture, Universitas Syiah Kuala, Banda Aceh 23111, Indonesia.; Research Center for Innovation and Feed Technology, Universitas Syiah Kuala, Banda Aceh 23111, Indonesia.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Fhonna FA, Jayanegara A, Wajizah S, et al. Bioprocessing of mixed oil palm by-products with single and consortium white-rot fungi: Effects on nutritional quality, in vitro rumen fermentation, methane production, and rumen microbial populations. Veterinary world 2026-08-27. DOI: 10.14202/vetworld.2026.3774-3792. 原著ライセンス:CC BY.