著者の所属・活動拠点の国は、カザフスタン、スウェーデンです。
掲載誌:Agriculture & Food Security
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
家畜を食肉に加工すると、肉のほかに血液、骨、皮、内臓、脂肪などの「動物副産物」が大量に出ます。これらをどう扱うかは、食肉産業の経済性や環境への負荷、食料の安定供給に関わる問題です。欧州連合(EU)などでは規制と加工技術の整備により、こうした副産物のほぼすべてを価値ある製品に変えていると著者らは紹介しています。一方、カザフスタンを含む多くの発展途上の経済圏では、副産物の多くが十分に活用されず、経済的な機会の損失や、処分にかかる費用と環境負荷の増大につながっているといいます。
研究チームは、カザフスタンでの動物副産物の扱いの現状を「持続可能な食料システム」という考え方に沿って整理し、課題と、より価値の高い利用(論文では「価値化」と呼んでいます)に向けた機会を明らかにすることを目的としました。持続可能な食料システムとは、すべての人に食料と栄養を届けながら、将来の世代のために経済・社会・環境の基盤を守る食料システムを目指す枠組みです。
何をどのように調べたか
この論文は、既存の研究や報告を幅広く集めて読み解く「ナラティブ・レビュー(記述的総説)」です。著者らは2025年1月から8月にかけて、主要な学術データベースや政府報告、国際的な政策文書などを検索し、英語・カザフ語・ロシア語の資料を対象にしました。約180件の記録が見つかり、最終的に75件の資料が総説に用いられたと報告されています。
分析にあたっては、資源の循環で廃棄物を減らす「循環経済」、生物資源を食品や飼料、エネルギーなどに変えて活用する「バイオエコノミー」、資源から最大限の価値を引き出す「資源効率」という三つの考え方を組み合わせました。そのうえで、技術力、規制や政策、経済性と市場、社会・環境面の推進要因と障壁という四つの観点から現状を整理しています。さらに、EU、米国、中国、日本の取り組みとも比較しました。
主な報告内容
論文によると、カザフスタンの畜産部門からは年間80万トンを超える動物副産物が出ていますが、効果的な利用は限られています。特に大都市以外では加工施設が少なく、多くの副産物が捨てられるか、原皮の加工や従来型の家畜飼料といった付加価値の低い用途にとどまっているとされます。アルマトイやアクモラなど農工業が発達した地域は比較的インフラが整っている一方、遠隔地では輸送などの制約が大きいという地域差も指摘されています。家禽の分野では、羽毛や内臓などが大量に出るのに、費用対効果の高い再利用技術がないため活用が進んでいないといいます。
規制面では、カザフスタンの制度はまだ発展途上で、EUの動物副産物規則ほど包括的ではないと著者らは述べています。そのため、副産物を価値化する技術への投資が限られ、たんぱく質を分解して得る素材(たんぱく質加水分解物)やコラーゲン、バイオガスなどの市場も未発達です。副産物を資源ではなく処分すべき負担とみなす考え方が根強いことも、付加価値のある加工を妨げているとされます。一方で、政府の支援策の初期の効果として、2016年から2020年にかけて家禽副産物の生産が3倍以上に、副産物由来の缶詰や粉末製品の生産が2倍以上に増えたことも紹介されています。
国内の研究については一定の進展が報告されています。骨などの原料を酵素で分解し、機能性食品や栄養補助食品に使えるコラーゲン由来の製品をつくる研究、鶏のとさかや足などをソーセージやカツレツに加えて栄養価や食感を高める研究、内臓などを穀物と押出加工して輸入たんぱく原料の一部を置き換える飼料をつくる研究などです。ただし、多くは実験室や小規模な試験の段階にとどまり、経済性や規制への適合、工業化への道筋までは検討されていないことが共通の限界だと著者らは指摘しています。
こうした整理から、論文は、技術、規制、経済、社会文化の各面の障壁が重なって利用を妨げていると結論づけています。他国との比較からは、効果的な管理には規制の明確さ、技術インフラ、市場の育成が必要であることが示され、カザフスタンが取り入れうる例として、リスクに応じた副産物の分類(EU)、民間の副産物処理事業への誘因(米国)、近代化への投資(中国)が挙げられています。そのうえで著者らは、官民連携による処理施設の近代化、農村でのバイオエネルギー利用、飼料や肥料への活用拡大、啓発と研修の実施を提言しています。
この研究が示すこと
この総説は、カザフスタンでは動物副産物という大きな資源がありながら、それを価値ある製品へ変える仕組みがまだ整っていないことを、技術・制度・市場・社会の側面から一つの全体像として示しています。著者ら自身も、国内の査読済み研究や公的データが限られ、一部を政府報告などに頼っていることを限界として認めています。それでも、散らばった情報をまとめ、副産物を「捨てるもの」から「生かす資源」へ転換するうえで何が壁になっているかを見通しやすくした点に、この研究の意味があるといえます。
原著論文の著者・所属:Sholpan Baidildayevna Baytukenova(Department of Food Technology and Processing Products, S. Seifullin, Kazakh Agrotechnical Research University, Zhenis avenue, 62, Z11F9K, Astana, Kazakhstan)、Anel Talgatovna Kostanova(Department of Food Technology and Processing Products, S. Seifullin, Kazakh Agrotechnical Research University, Zhenis avenue, 62, Z11F9K, Astana, Kazakhstan)、Galia Zamaratskaia(Department of Molecular Sciences, Swedish University of Agricultural Sciences, Almas alle 5, Uppsala, 7015, 750 07, Sweden)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sholpan Baidildayevna Baytukenova, Anel Talgatovna Kostanova, Galia Zamaratskaia. Future directions in the utilization of animal by-products: case of Kazakhstan. Agriculture & Food Security 2026-10-23. DOI: 10.1186/s40066-026-00637-5. 原著ライセンス:CC BY.