著者の所属・活動拠点の国は、カザフスタンです。

掲載誌:Processes

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:発酵で回復できない冷凍生地

焼く前の生地を冷凍しておく冷凍生地は、生地づくりと焼成を別の場所や時間で行えるため、製パン業で広く使われています。ただし、凍結と解凍を経ると氷の結晶ができたり水分が移動したりして、生地の骨格であるグルテン(小麦のたんぱく質がつくる網目)とデンプンの構造が弱まり、パンの品質が下がりやすいことが課題とされています。

研究チームが取り上げたのは、イーストを使わず、機械で泡立てて空気を含ませる生地です。イーストを使う生地なら、解凍後の発酵で気泡をある程度つくり直せます。一方、泡立て生地は凍結前に取り込んだ気泡がそのまま残るかどうかに品質が左右されるため、凍結と解凍による傷みを特に受けやすいと著者らは説明しています。

そこで著者らは、水を抱え込みやすいペクチンなどの食物繊維を含むリンゴ粉末を生地に加えることと、泡立て・凍結・解凍の条件を同時に調整することで、生地とパンの品質がどう変わるかを調べ、最適な条件を探ることを目的としました。

何をどのように調べたか

リンゴ粉末は、カザフスタン・アルマトイ地方で収穫したゴールデンデリシャス種のリンゴを乾燥させ、細かく粉砕してつくられました。生地は、リンゴ粉末を加えない対照と、小麦粉950グラムに対してリンゴ粉末を50、100、150グラム加えた3種類が用意されました。

加工条件としては、泡立ての速さ(毎分450〜900回転)、泡立て時間(3〜7分)、凍結温度(マイナス14〜マイナス38度)、電子レンジによる解凍時間(4〜8分)が検討されました。これらの組み合わせは、少ない実験回数で複数の条件の効果や相互の影響を数式で表す「応答曲面法」と呼ばれる実験計画の手法に基づいて、計18通りが設定されました。

解凍した生地については、加熱と冷却をしながら生地の抵抗の変化を測る装置(Mixolab)や、押しつぶしたときの変形と戻り具合を測る試験で性質を評価しました。焼き上げたパンについては、体積、内部の気泡の状態、水分や酸度、栄養成分、アミノ酸組成、微生物面の安全性を調べ、訓練を受けた12人のパネルによる官能評価(見た目・香り・味・食感などの評価)も行いました。

主な結果

著者らが作成した回帰式(条件と品質の関係を表す数式)は、加工条件が生地の品質に与える影響をよく説明できたと報告されています(決定係数R²は0.95超)。条件のなかでは、マイナス38度で急速に凍結し、電子レンジで4分間解凍する組み合わせが、凍結と解凍による生地構造の劣化を最も抑え、生地の安定性を高めました。

生地の評価では、リンゴ粉末を加えない対照は押されると変形したまま戻りにくい性質が目立ちました。これに対し、リンゴ粉末を加えた生地のいくつかでは弾力的に戻る割合が大きくなりました。また、押しつぶし試験で弾力性が最も高かった試料と、加熱時の抵抗が最も高かった試料は一致しませんでした。このことから著者らは、生地の品質は一つの指標ではなく、複数の指標を合わせて判断する必要があると述べています。

パンの栄養面では、リンゴ粉末を加えることで食物繊維(4.8〜7.3%)、カリウム(100グラムあたり125.6〜156.7ミリグラム)、鉄(同2.45〜3.20ミリグラム)、ビタミンC(同0〜2.2ミリグラム)の含有量が高まったと報告されています。ただし、リンゴ粉末を最も多い150グラム加えた場合は、栄養成分の上乗せは最大だったものの、生地の安定性が下がり、パン内部の気泡の状態も不均一になりました。

これらを総合し、研究チームは、リンゴ粉末100グラム、泡立て速度毎分900回転、泡立て時間7分、マイナス38度での凍結、電子レンジ解凍4分の組み合わせが、生地の安定性、凍結・解凍への強さ、パンの品質、栄養成分の向上、微生物面の安定性、官能評価のバランスが最もよい条件だったと結論づけています。

この研究が示すこと

この研究は、発酵による回復が見込めない泡立て式の冷凍生地では、材料の配合と加工条件を別々にではなく一緒に調整することが品質向上に有効だと示しています。リンゴ粉末は多ければよいわけではなく、栄養面の上乗せと生地やパンの構造の安定性とのあいだで釣り合いをとる必要があることも、結果から読み取れます。

原著論文の著者・所属:Sholpan Tursunbayeva(Faculty of Food Technology, Almaty Technological University, Almaty 050012, Kazakhstan)、Auyelbek Iztayev(Faculty of Food Technology, Almaty Technological University, Almaty 050012, Kazakhstan)、Zhuldyz Nurgozhina(Faculty of Food Technology, Almaty Technological University, Almaty 050012, Kazakhstan)、Madina Yakiyayeva(Faculty of Food Technology, Almaty Technological University, Almaty 050012, Kazakhstan)、Bauyrzhan Iztayev(Faculty of Food Technology, Almaty Technological University, Almaty 050012, Kazakhstan)、Bayan Muldabekova(Faculty of Food Technology, Almaty Technological University, Almaty 050012, Kazakhstan)、Maxat Mamyrayev(Faculty of Food Technology, Almaty Technological University, Almaty 050012, Kazakhstan)、Diana Abdraimova(Faculty of Food Technology, Almaty Technological University, Almaty 050012, Kazakhstan)、Fatima Yermetaeva(Faculty of Food Technology, Almaty Technological University, Almaty 050012, Kazakhstan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sholpan Tursunbayeva, Auyelbek Iztayev, Zhuldyz Nurgozhina, et al. Response Surface Optimization of Apple Powder Incorporation and Processing Conditions for Improving the Quality of Whipped Yeast-Free Frozen Dough and Bread. Processes 2026-08-04. DOI: 10.3390/pr14152500. 原著ライセンス:CC BY.