日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:European Journal of Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

偏った食事は、がんや心臓病などの非感染性疾患につながる予防可能な危険因子として最も大きなものとされています。多くの国では、どの食品をどれだけ食べるとよいかを示す「食品ベースの食事指針」が作られており、近年はこれに環境への配慮を組み込む国が増えています。食料の生産や流通が、温室効果ガスの排出、土地利用の変化、水の消費などに大きく関わっているためです。

日本では、若い世代で脂質や糖分のとりすぎと果物・野菜の不足、若い女性のやせやカルシウム・鉄の不足、男性の肥満の増加、そして性別や年齢を問わない食塩のとりすぎなどが課題として挙げられています。栄養素ごとの基準である「日本人の食事摂取基準」はあるものの、食品のレベルで包括的に示した指針はなく、料理を単位とした既存の「食事バランスガイド」も20年以上大きく更新されておらず、環境面の視点も含んでいません。

研究チームは、全国規模の食事調査のデータを用いて、日本人の成人が実際に食べている食事をもとに、より栄養的に優れ、環境負荷が小さく、費用面でも無理のない食事パターンを年齢層別に見つけ出すことを目指しました。あわせて、そうした食事が食事摂取基準をどの程度満たすかも評価しています。

どのように調べたか

使われたのは、全国32都道府県で行われたMINNADE調査のデータです。参加者は春・夏・秋・冬の各季節に連続しない2日ずつ、計8日間、口にした食品や飲み物をすべてデジタルスケールで量って記録しました。今回の分析対象は、18〜49歳の若年層(男性711人、女性734人)と50〜74歳の高年層(男性565人、女性605人)です。比較しやすくするため、食事の量は男性2500キロカロリー、女性2000キロカロリーにそろえて計算されました。

食事の栄養の質は、とりたい栄養素9種ととりすぎを避けたい栄養素3種のバランスから算出する「NRF9.3」という指標で評価されました。環境負荷は、日本の食品に関する環境データベースを使い、温室効果ガス排出量、富栄養化、酸性化、土地利用の変化、水資源の消費という5つの指標で見積もられました。費用は、全国の小売価格調査などをもとに推計されています。

最適化には「包絡分析法(DEA)」に基づく手法が用いられました。まず、果物、野菜、豆類、魚、全粒穀物など増やしたい食品群と、赤肉・加工肉、食塩、甘い飲み物、酒類など減らしたい食品群のバランスが、他の参加者と比べて相対的に優れている「効率的な食事」を選び出します。そのうえで、それ以外の参加者一人ひとりについて、効率的な食事を組み合わせて新しい食事パターンを作ります。実在する食事を組み合わせるため、現実的で文化的にも受け入れやすい食事になりやすいという利点があります。

組み合わせ方は3通りです。栄養の質を最大にする「MaxNRF」、温室効果ガス排出量を最小にする「MinGHGE」、そして両者を同時に考慮する「OPT2G」です。いずれの場合も、エネルギー量は元の食事と同じにし、食事の費用は元の費用の105%以下に収めるなどの条件が課されました。

主な結果

効率的な食事と判定されたのは、若年男性の18%、高年男性の23%、若年女性の11%、高年女性の22%でした。それ以外の参加者のうち、条件を満たす解が得られた人について元の食事と最適化した食事が比較されました。

最適化した食事はいずれのモデルでも、元の食事に比べて果物、精製していない穀物、豆類、乳製品が多く、赤肉・加工肉、酒類、甘い飲み物が少なくなる傾向がありました。変化の大きさは若年層で目立ち、重量で50%を超える変更が必要な食品群は、若年層では7〜9群、高年層では3〜6群でした。

栄養の質を示すNRF9.3のスコアは、3つのモデルすべて、すべての性・年齢層で13.5〜35.9%高くなりました。若年層ではおおむね30%を超える上昇でしたが、高年層ではどのモデルでも約15%にとどまりました。著者らは、高年層はもともと若年層より健康的な食習慣を持っていたことを示唆するものとしています。

環境負荷については、栄養の質だけを最大化したMaxNRFではほぼ変わりませんでした。一方、温室効果ガス排出量はMinGHGEで20.9〜32.7%、OPT2Gで12.6〜25.1%減り、酸性化の指標も減少しました。ただし富栄養化と土地利用の変化がはっきり減ったのは若年男性に限られ、著者らは、温室効果ガスを減らしても他の環境負荷が同じように大きく減るとは限らないと指摘しています。食事の費用はMaxNRFでほぼ同じか少し下がり、MinGHGEでは7.7〜20.6%、OPT2Gでは2.2〜13.5%下がりました。

栄養素の不足やとりすぎに該当する人の割合も、全体としては最適化した食事で減りました。ただし例外もあります。若年男性では温室効果ガスの削減を目標にしたモデルで、たんぱく質・脂質・炭水化物のバランスや、ビタミンA、ビタミンC、リボフラビン(ビタミンB2)の不足が元の食事より増えました。著者らは、肉などを大きく減らす一方で白米のような精製穀物が増え、野菜や果物があまり増えなかった食事が生じた可能性を挙げています。また、食塩のとりすぎに該当する人の割合はどの食事でも85〜91%と変わらず、女性の飽和脂肪酸のとりすぎも60%を超えたままでした。とりすぎが広く見られる栄養素は、実在する食事の組み合わせだけでは改善が難しいことを示しています。

研究が示すこと

この研究は、日本人が実際に食べている食事を土台にしても、費用を大きく増やさずに栄養の質を高め、温室効果ガス排出量などを減らせる食事パターンが見いだせることを示しました。性別や年齢層を問わず、酒類や甘い飲み物、赤肉・加工肉を減らし、全粒穀物、豆類、ナッツ類、果物を増やす方向が共通して示され、女性ではOPT2Gモデルが栄養面と温室効果ガスの両方を改善しうることも示されました。

一方で著者らは、調査対象が全国を代表する標本ではないこと、価格データが10年以上前のものであること、すべての栄養上の課題を解消できたわけではないことを挙げ、結果を慎重に解釈するよう求めています。ここで得られた食事パターンはそのまま推奨として使うものではなく、日本の今後の食事指針づくりに向けた予備的な手がかりとして位置づけられています。

著者:Minami Sugimoto(https://ror.org/02hcx7n63 grid.265050.4 0000 0000 9290 9879 Department of Environmental and Occupational Health, School of Medicine Toho University 5-21-16 Omori-Nishi 143-8540 Ota-Ku Tokyo Japan)、Hitomi Okubo(https://ror.org/057zh3y96 grid.26999.3d 0000 0001 2169 1048 Department of Nutritional Epidemiology and Behavioural Nutrition, Graduate School of Medicine The University of Tokyo 7-3-1 Hongo 113-0033 Bunkyo-ku Tokyo Japan)、Yasunori Kikuchi(https://ror.org/057zh3y96 grid.26999.3d 0000 0001 2169 1048 Institute for Future Initiatives University of Tokyo 7-3-1 Hongo 113-0033 Bunkyo-ku Tokyo Japan)、Sander Biesbroek(https://ror.org/04qw24q55 grid.4818.5 0000 0001 0791 5666 Division of Human Nutrition and Health Wageningen University & Research 6700 AA Wageningen The Netherlands)、Elisabeth H. M. Temme(https://ror.org/04qw24q55 grid.4818.5 0000 0001 0791 5666 Division of Human Nutrition and Health Wageningen University & Research 6700 AA Wageningen The Netherlands)、Ryoko Katagiri(https://ror.org/01hjzeq58 grid.136304.3 0000 0004 0370 1101 Faculty of Informatics, Graduate School of Informatics Chiba University 1-33, Yayoicho, Inage-ku 263-8522 Chiba-shi Chiba Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Minami Sugimoto, Hitomi Okubo, Yasunori Kikuchi, et al. Optimizing Japanese dietary patterns to improve nutritional quality, reduce environmental impact under affordability constraints in younger and older adults from the nationwide MINNADE study. European Journal of Nutrition 2026-10-13. DOI: 10.1007/s00394-026-04129-x. 原著ライセンス:CC BY.