著者の所属・活動拠点の国は、タイです。

掲載誌:Frontiers in Bioengineering and Biotechnology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

陸にすむミミズは栄養や医薬の素材として注目を集めるようになり、その体から得られる天然の生理活性物質が研究者の関心を集めています。研究チームは、タイ北東部で確認されたミミズの一種アミンタス・アレヌルス(Amynthas arenulus)に着目しました。このミミズのたんぱく質を酵素で分解して得られるペプチド(アミノ酸が短くつながったもの)について、これまで詳しく調べた研究は限られていたためです。

著者らは、たんぱく質を効率よく分解する条件を探したうえで、得られたペプチドに、細胞を傷つける活性酸素などを打ち消す抗酸化作用があるか、また培養したヒトの大腸がん細胞(HT-29)と肝がん細胞(HepG2)の増殖や移動に影響するかを調べました。

どのように調べたか

研究チームはまず、ミミズの粉末からたんぱく質を取り出し、アルカラーゼという細菌由来のたんぱく質分解酵素で分解しました。酵素の量と分解時間の組み合わせを変えた実験を統計的に設計し、結果から最適条件を予測する「応答曲面法」という手法を使って、分解がもっともよく進む条件を探りました。分解の進み具合は、大きなたんぱく質を沈殿させた後に溶けたまま残る小さなペプチドの割合として間接的に評価しています。

次に、得られた分解物を、胃と腸での消化をまねた試験管内の消化処理にかけ、それぞれの段階で回収できた溶けている成分の重さを測りました。その後、膜を使って分子の大きさ別に3つの画分(10〜30キロダルトン、30〜50キロダルトン、50キロダルトン超)に分け、抗酸化作用、がん細胞の増殖への影響、正常な細胞への毒性、細胞の形の変化、細胞の移動などを調べました。

主な結果

論文によると、酵素の量が1.5%、分解時間が2時間のときに分解の度合いが最大となり、その値は61.25%でした。試験管内の消化処理では、胃の段階で56.83%、腸の段階で90.10%の成分が回収されました。著者らは、これらの値は溶けた成分全体の重さの回収率であり、個々のペプチドが壊れずに残った割合を示すものではないと説明しています。

抗酸化作用の試験では、10〜30キロダルトンの画分で、作用が50%に達する濃度(IC50、値が小さいほど作用が強いことを示す)が、DPPHという試験で1ミリリットルあたり3.18ミリグラム、ABTSという試験で0.79ミリグラムと報告されました。なおDPPH試験では50キロダルトン超の画分の値がもっとも小さく、ABTS試験では10〜30キロダルトンの画分がもっとも小さい値でした。鉄イオンを還元する力を調べるFRAP試験では、3つの画分はいずれも同程度の反応を示しました。

がん細胞を使った試験では、10〜30キロダルトンの画分が、細胞の生存を半分に減らす濃度として大腸がん細胞で0.634ミリグラム、肝がん細胞で0.761ミリグラム(いずれも1ミリリットルあたり)を示し、研究チームはこの画分を以降の実験に選びました。同じ濃度でマウス由来の正常な線維芽細胞(L929)に加えたところ、細胞は高い生存率を保ったと報告されています。

この画分で処理したがん細胞では、細胞の縮みや丸まり、細胞膜の膨らみ、DNAの断片化など、細胞が自ら死ぬ仕組みである「アポトーシス」に伴う変化が、顕微鏡観察や染色、電気泳動などで確認されました。また、細胞の層に傷をつけて埋まり方を見る試験では、何も加えない場合を100%としたとき、細胞の移動の値が大腸がん細胞で67.34%、肝がん細胞で70.29%でした。ただし著者らは、この試験は増殖を抑える濃度で行ったため、増殖への影響と移動への影響が合わさった結果である可能性があり、移動を特異的に抑える証拠とは解釈していないと述べています。

研究が示すこと

この研究は、あまり調べられてこなかったミミズの一種から、酵素分解の条件を整えてペプチドを得て、その一部の画分が試験管内で抗酸化作用を示し、培養がん細胞の増殖を抑えてアポトーシスに伴う変化を起こしたことを報告したものです。結果はいずれも試験管や培養細胞での観察であり、著者らはこのペプチド画分が医療や栄養補助食品、生物素材の加工といった分野での利用を検討する対象になりうると述べています。

著者:Pimphan Wasunan(Program in Biotechnology, Faculty of Science, Maejo University)、Mongkol Thirabunyanon(Program in Biotechnology, Faculty of Science, Maejo University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Pimphan Wasunan, Mongkol Thirabunyanon. Enzymatic optimization for enhancing earthworm peptide yields and biological activities on antioxidant, cytotoxic against HT-29 and HepG2 cancer cells, and antimigration. Frontiers in Bioengineering and Biotechnology 2026-10-13. DOI: 10.3389/fbioe.2026.1957959. 原著ライセンス:CC BY.