著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。

掲載誌:Agronomy

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的

イネは開花期のような生育の重要な時期に水が不足すると、体内の生理的・生化学的な働きが乱れ、収量が大きく落ちることがあります。雨水に頼って畑で育てる陸稲は特に乾燥の影響を受けやすく、ブラジルでは深刻で長引く干ばつが増えており、今後さらに強まると予測されています。

研究チームは、微量元素のセレンを葉に散布すると、陸稲の開花期の水不足による害を和らげられるかを調べました。あわせて、収量、植物が活性酸素から身を守る抗酸化の仕組み、葉や玄米に含まれる元素の量、そして炊いた後に消化の過程でミネラルがどれだけ溶け出すか(バイオアクセシビリティ)への影響も検討しました。

どのように調べたか

実験はブラジルのラブラス連邦大学の温室で、陸稲品種「CMG 1590」を用いて行われました。1鉢(容量5立方デシメートル)に2株を植え、セレン酸ナトリウムとしてのセレンを1鉢あたり0、1、2、3、5ミリグラムの5段階で葉に散布しました。総量は2回に分け、開花の始まりと、その20日後の登熟期(穂の中で米が実っていく時期)に散布しています。

水の条件は、十分に水を与える区と水不足の区の2通りです。水不足の区では、植物がしおれて回復しなくなる目安とされる水準まで土壌を乾かし、その状態を4日間続けた後、再び十分に水やりをしました。開花期を選んだのは、収量が決まるうえで最も重要な時期だと著者らが考えたためです。

収量や光合成、葉緑素のほか、細胞膜の傷みの指標となるマロンジアルデヒド(MDA)、過酸化水素、抗酸化酵素の働きを測定しました。さらに玄米を粉にしたものと、粒のまま炊いたものを、胃と腸の消化を試験管内で模した液で処理し、セレン、鉄、マンガン、亜鉛、リン、硫黄、カリウムがどれだけ溶け出すかを比べました。

主な結果

今回の条件では、水不足はどのセレン量でも収量を下げませんでした。十分に水を与えた区では、1、3、5ミリグラムの方が0や2ミリグラムより収量が高くなりました。水不足の区ではセレン量による差は見られませんでした。2ミリグラムでは水不足の区の収量が十分に水を与えた区より11%高く、論文はこれを、同じ量で水を十分に与えた区の収量が低かったことを反映したものと説明しています。

光合成速度は水の条件だけに左右され、水不足で低下しました。葉緑素bと葉緑素の総量も、セレン量にかかわらず水不足で少なくなりました。MDAは2ミリグラムと5ミリグラムで低下しました。ただし、これらの量で抗酸化酵素の働きが高まったわけではないと著者らは報告しています。

玄米のセレン濃度は散布量に応じて3ミリグラムまで高まり、3ミリグラムと5ミリグラムの間に差はありませんでした。葉のセレン濃度は2ミリグラム以上で高まりましたが、水不足の区では十分に水を与えた区より低くなりました。また、セレンの散布量を増やすと葉の硫黄濃度が下がり、玄米では銅、鉄、マンガンが増える傾向が報告されています。一方、亜鉛は1ミリグラムと2ミリグラムで対照より低くなりました。

消化を模した試験では、粉にした玄米に比べて粒のまま炊いた米の方が、ミネラルが溶け出しにくい結果でした。セレンは約33%、鉄は約52%、マンガンは約75%、亜鉛は約81%、リンは約93%、カリウムは約91%、硫黄は約99%低くなりました。ただし著者らは、この差には加熱の影響だけでなく、粉砕で組織が壊れているかどうかの違いも含まれており、両者を切り分けられないため慎重に解釈すべきだとしています。また、この試験は実際に体内で吸収される量を示すものではないとしています。

研究が示すこと

著者らは、セレンの葉面散布によって玄米のセレン含量を効果的に高められたと結論づけています。水不足のもとでの収量の維持と細胞膜の傷みの減少が同時に見られたことから、セレンがストレスへの耐性を支える可能性も示しています。

一方で、温室で育てた玄米のミネラル濃度、特にセレン濃度は、畑で通常報告される値より高く、この米の安全な食べ方を直接勧めることはできないと著者らは述べています。さらに、精米によってセレンなどが減る可能性もあります。米のミネラルを強化する取り組みでは、穀粒に含まれる総量だけでなく、加工や調理の方法、ミネラルと結びついて吸収を妨げる成分も考慮し、実際に溶け出す量を確かめる必要があるというのが、この研究の示す視点です。

原著論文の著者・所属:Leônidas Canuto dos Santos(Department of Soil Science, School of Agricultural Sciences, Federal University of Lavras (UFLA), Lavras 37200-900, MG, Brazil)、Gabryel Silva Martins(Department of Soil Science, School of Agricultural Sciences, Federal University of Lavras (UFLA), Lavras 37200-900, MG, Brazil)、Pedro Antônio Namorato Benevenute(Department of Soil Science, School of Agricultural Sciences, Federal University of Lavras (UFLA), Lavras 37200-900, MG, Brazil)、Jucelino de Sousa Lima(Department of Biology, Institute of Natural Sciences, Federal University of Lavras (UFLA), Lavras 37200-900, MG, Brazil)、Fernanda Ribeiro dos Santos(Department of Soil Science, School of Agricultural Sciences, Federal University of Lavras (UFLA), Lavras 37200-900, MG, Brazil)、Indira Pereira de Oliveira(Department of Agriculture, School of Agricultural Sciences, Federal University of Lavras (UFLA), Lavras 37200-900, MG, Brazil)、Fábio Aurélio Dias Martins(Experimental Field of Lavras, Minas Gerais Agricultural Research Agency (EPAMIG), Lavras 37200-900, MG, Brazil)、Josinaldo Lopes Araújo Rocha(Center for Technology and Natural Resources, Federal University of Campina Grande (UFCG), Campina Grande 58429-900, PB, Brazil)、Luiz Roberto Guimarães Guilherme(Department of Soil Science, School of Agricultural Sciences, Federal University of Lavras (UFLA), Lavras 37200-900, MG, Brazil)、Guilherme Lopes(Department of Soil Science, School of Agricultural Sciences, Federal University of Lavras (UFLA), Lavras 37200-900, MG, Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Leônidas Canuto dos Santos, Gabryel Silva Martins, Pedro Antônio Namorato Benevenute, et al. Foliar Selenium Application Modulates Grain Yield, Antioxidant Responses, and Mineral Bioaccessibility in Rice Under Water Deficit. Agronomy 2026-10-29. DOI: 10.3390/agronomy16212126. 原著ライセンス:CC BY.