果物の栄養価や味を高めるための工夫として、育成中の作物に微量元素を「葉面散布」する方法が研究されています。今回紹介するのは、必須微量元素のひとつであるセレン(Se)を、中国で栽培される「魯麗(ルーリー)」というリンゴ品種の葉に散布し、その回数を変えることで果実の品質がどのように変化するかを調べた研究です。セレンは人の健康に関わる微量元素として知られていますが、この研究がテーマにしているのは「作物側の果実品質」であり、食べた人への健康効果を検証したものではない点に注意して読み進めてください。
研究チームは、セレン(100 mg/L濃度)の散布回数を1回(6月1日)、2回(6月1日・6月21日)、3回(6月1日・6月21日・7月11日)、4回(6月1日・6月21日・7月11日・7月31日)とし、水のみを散布した対照区と比較しました。それぞれ果実の硬さ、可溶性固形物量(糖度の指標とされる成分)、ビタミンC含量、果皮の色、糖・有機酸の組成、香り成分、フェノール化合物(植物由来の抗酸化物質などを含む成分群)への影響が調べられました。
研究でわかったこと
その結果、散布回数を増やすほど品質が良くなるという単純な関係ではなく、2回散布した「T2」処理区で果実の硬さ、可溶性固形物量、ビタミンC含量、果皮の色に関する指標が最も高い値を示したと報告されています。
糖の組成については、総糖量・ソルビトール・果糖の含量が、1回散布(T1)と2回散布(T2)の区で、3回散布(T3)や4回散布(T4)の区よりも有意に高かったとされています。一方、有機酸については逆の傾向が見られ、総有機酸量とリンゴ酸の含量は、セレンの散布回数が増えるにつれて徐々に減少したことが示されています。
香り成分に関しては、セレン処理によって香気成分の総量が有意に増加し、特にエステル類とケトン類の増加が顕著だったと report されています。また、フェノール化合物の含量は、散布回数の増加に伴っていったん増えたのちに減少するという、山型の変化を示したとされています。
これらすべての品質指標を統合的に評価する「メンバーシップ関数法」という手法を用いた総合評価では、品質の高い順に「T2(2回散布)>T3(3回散布)>T1(1回散布)>T4(4回散布)>対照区(水のみ)」という順位になったと報告されています。つまり、この研究の範囲では、生育期間中に2回セレンを散布した場合に果実の総合品質が最も優れており、散布回数を増やしすぎるとかえって品質低下につながる可能性が示唆されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、「魯麗」という特定のリンゴ品種を対象に、特定の濃度(100 mg/L)のセレン溶液を、特定の時期・回数の組み合わせで散布した条件下での結果です。他の品種や栽培環境、セレンの濃度が異なる場合に同じ傾向が得られるかどうかは、この要旨だけからは分かりません。また、この研究が扱っているのは果実の品質特性(糖・酸・香り・フェノール化合物など)であり、これを食べた人の健康への影響を検証したものではありません。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意してください。
まとめ
今回紹介した研究では、リンゴへのセレン葉面散布について、回数を増やせば増やすほど品質が良くなるわけではなく、生育期に2回(6月1日・6月21日)散布した場合に果実の硬さ、糖度、ビタミンC含量、香り成分などを含む総合品質が最も高くなったと報告されています。逆に散布回数が多すぎると品質がかえって低下する傾向も示されており、農業分野における微量元素の使い方を考えるうえで興味深い知見といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:葉面セレン散布頻度の違いが「魯麗」リンゴの果実品質、糖酸組成、香気成分、フェノール化合物に及ぼす影響(インターナショナル・ジャーナル・オブ・フルーツ・サイエンス・2026年07月)