チロシンは、体をつくるたんぱく質の材料となるアミノ酸の一種です。脳の中で情報をやり取りする神経伝達物質のもとになるとされる成分で、体内では必須アミノ酸のフェニルアラニンから作られます。この栄養素には日本人の食事摂取基準の推奨量や目安量は定められていません。個別のアミノ酸は基準の対象外になることが多いためで、基準がないからといって重要度が低いわけではありません。むしろ「どの食品に多いか」を数字で見ていくと、乳・卵・魚・大豆という由来のばらばらな食品が横並びで登場する、意外な景色が見えてきます。
上位5食品は動物性が先行し、大豆が僅差で続く
100gあたりのチロシン量で見ると、第1位はカゼインで5200mg。牛乳のたんぱく質の約8割を占める成分です。第2位は乾燥卵白で3900mg(推定値)、第3位はかずのこ(乾)で3700mg(推定値)。そして第4位タイとして分離大豆たんぱく(塩分調整タイプ)と分離大豆たんぱく(塩分無調整タイプ)がともに3500mg(塩分調整タイプは推定値)で並びます。乳製品・卵・魚卵という動物性が上位3つを占め、そのすぐ下に大豆加工品が並ぶ。由来がこれだけ違う食品が200mgの差に収まること自体、チロシンという成分の面白さです。ただし数字を眺めるだけでは終わりません。この5食品には、チロシンとセットで見えてくる「もう一つの顔」がそれぞれ隠れています。
カゼインが抱える、コラーゲンと似た顔ぶれ
カゼインで特に多いのはプロリン10000mgです。プロリンはコラーゲンに多く含まれるアミノ酸で、20種類のたんぱく質構成アミノ酸の中で唯一の環状イミノ酸として、たんぱく質の立体構造づくりに関わる成分とされています。さらにグルタミン酸も19000mgとうま味成分として豊富です。牛乳由来のたんぱく質というと真っ先にチロシンが浮かぶわけではありませんが、実際にはこうした構造系のアミノ酸のかたまりでもあるわけです。
乾燥卵白は「脂質ほぼゼロ」という数字の個性
ここで話が一段ひねられます。乾燥卵白は、ビタミンB2を100gあたり2.09mg含み、女性30〜49歳の推奨量1.2mg/日に対して約174%にあたります。ビタミンB2は多くの栄養素の代謝に関わり、皮膚や粘膜の健康維持を助けるとされる成分です。またフェニルアラニンも5100mg(推定値)と多く、これは体内でチロシンに変換される必須アミノ酸です。つまり乾燥卵白は「チロシンの素」まで一緒に含んでいる食品だといえます。そして最大の特徴は、脂質がほぼゼロだという点です。上位5食品のなかでこれが最も少なく、かずのこ(乾)の13.6gとは対照的です。ただしコレステロールは25mgあり、カゼインの26mgとほぼ変わりません(分離大豆たんぱくは0)。際立っているのはあくまで脂質の少なさです。数字だけを見て「チロシンが多いから」と選ぶと見落としがちな違いです。
かずのこの陰にはコレステロール
かずのこ(乾)にはコレステロールが100gあたり1000mg含まれています。コレステロールは細胞膜や各種ホルモン、胆汁酸を作る材料となる脂質で、体内でも合成される成分です。かずのこは乾燥品のため水分が少なく、成分が凝縮されている分、コレステロールの値も高めに出ています。おせち料理などで少量ずつ味わう分には気にしすぎる必要はありませんが、チロシンだけを見て「多く食べよう」とは考えにくい食品でもあります。
大豆たんぱくは、うま味の材料も豊富
塩分調整タイプの分離大豆たんぱくと塩分無調整タイプの分離大豆たんぱくは、チロシン量が3500mgで同率です。どちらもグルタミン酸が17000mg(塩分調整タイプは推定値)と豊富で、うま味成分としての存在感があります。塩分調整タイプにはさらにトリプトファンが1200mg(推定値)含まれており、これは体内では作れない不可欠アミノ酸です。動物性食品が上位を占めるすぐ下に大豆由来の加工品が僅差で続くのは、チロシンが特定の食品群に偏った成分ではないことの表れといえるでしょう。
※特定の食品の効果を示すものではありません。
チロシンの量だけで選ぶと、他の成分もついてくる
5つの上位食品を並べてみると、チロシンという一つの物差しの裏に、プロリン、ビタミンB2、コレステロール、グルタミン酸といった全く別の顔が隠れていることが分かります。中でも乾燥卵白は、チロシンが多いだけでなく脂質がほぼゼロという点で、他の上位食品とは一線を画す存在でした。チロシンが多い食品を選ぶときは、その数字だけでなく「一緒に何がついてくるか」まで見てみると、食品ごとの個性がより立体的に見えてきます。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準・食品安全委員会