体内でつくれず、食事から摂るしかない「不可欠アミノ酸」が9種類あります。リシン(リジン)はその一つで、ヒスチジンイソロイシントリプトファンなどと並ぶ必須アミノ酸の仲間です。体をつくるたんぱく質の材料となる成分ですが、日本人の食事摂取基準では個別の推奨量や目安量は設けられていません。だからこそ「どの食品にどれだけ含まれているか」を数字で見ていくと、意外な顔ぶれが見えてきます。

100gあたりのリシン含有量が多い食品の上位6品を並べると、面白いことに気づきます。1位のとびうお 煮干しと2位のカゼインを除く4品が、サケ節・かつお節・さば節・削り節と続きます。魚の身をそのまま食べる料理ではなく、鍋の底で出汁をとるための脇役たちが、リシンの数値表ではそろって主役級に並んでいるのです。

上位6食品を読み解く

1位・2位:煮干しとカゼイン、系統の異なる高濃度組

とびうお 煮干しはリシン7400mg、325kcal。カルシウムも1200mgと豊富で、これは女性30〜49歳の推奨量650mg/日の約185%にあたります。ただしこれは推奨量に対する割合であり、耐容上限量の基準ではありません。煮干しは乾物として少量ずつ使う食品なので、通常の使い方であれば心配はいらない数字です。

2位のカゼインはリシン7200mgで、牛乳のたんぱく質の約80%を占める成分です。含まれるアミノ酸の顔ぶれは他の上位食品と異なり、グルタミン酸が19000mgと際立って多くなっています。だし系の魚介がそろう中で、カゼインだけが乳由来という異色の存在です。

3位〜5位タイ:削り節・だし素材が続く

3位はサケ節 削り節でリシン6900mg(推定値)。4位はかつお節でリシン6700mgです。かつお節は1パックあたり約5gが目安量とされており、100gあたりの数字を換算すると、1パックに含まれるリシンは335mgほどになります。7000mg近い数字を見た直後だと、実際に口にする量とのギャップに驚くかもしれません。

5位はさば節と削り節がリシン6600mgで同率です。同じ数値なので優劣はつきませんが、それぞれ持ち味は異なります。さば節はヒスチジン4700mg(推定値)やメチオニン2500mg(推定値)といったアミノ酸も含みます。削り節は1カップ=10gが目安量で、換算するとリシンは660mgほどです。1パック分・1カップ分という現実的な量に置き換えると、100gあたりの数字がいかに濃縮された姿だったかがわかります。

だしは少量でも名を連ねる

リシン上位6食品を並べてみると、そこに貫く糸は「乾燥・濃縮された、だし素材」という共通項でした。生の魚の切り身ではなく、水分を飛ばして旨みを凝縮した削り節やだし用の煮干しだからこそ、100gあたりの数値が押し上げられていたのです。カゼインだけがその流れから外れる異色の存在で、乳由来のたんぱく質としてグルタミン酸の多さが際立っていました。

だしをとるときに使うのは数g〜十数g程度ですから、100gあたりの数字をそのまま「たくさん摂れる」と捉えるのは早合点です。それでも、少量だからといって侮れないのがだしの面白さで、毎日のみそ汁や煮物に使う一杯のだしが、意外なアミノ酸供給源になっているという事実は、知っておくと食卓の見方が少し変わりそうです。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準