著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
脂質異常症は、血液中の総コレステロール、中性脂肪、いわゆる悪玉のLDLコレステロールが高くなり、善玉のHDLコレステロールが低くなる状態で、心血管疾患の主な危険因子の一つとされています。薬や生活習慣の改善による対策はありますが、治療や管理が十分に行き届いていないことや、食事や運動の改善を長く続けにくいことが課題になっています。
研究チームは、こうした課題に対し、発酵乳製品に着目しました。発酵乳には、乳そのものの成分、発酵に使う微生物、発酵で生じる物質が含まれます。なかでも馬乳は、たんぱく質の構成が牛乳よりヒトの母乳に近く、多価不飽和脂肪酸や乳糖、オリゴ糖を多く含むと紹介されています。一方で、発酵馬乳が脂質代謝に与える影響を調べた研究は、牛の発酵乳に比べて限られているといいます。
研究チームは以前、新疆の伝統的な発酵馬乳から、胆汁に強く、試験管内でコレステロールを減らす働きが高い乳酸菌(ラクチプランチバチルス・プランタルム)4株を分離していました。今回の研究では、この4株を等量混ぜて馬乳を発酵させた製品を一つの食品として扱い、高脂肪食で脂質異常を起こしたラットで、血中脂質への影響と、腸と肝臓で起きる変化を調べました。
どのように調べたか
実験には雄のラット60匹を使い、10匹ずつ6群に分けました。通常の餌を与える群、高脂肪食だけを与える群、脂質を下げる薬シンバスタチンを与える群、そして発酵馬乳を体重1kgあたり10mL、8mL、6mLの3段階で与える群です。通常食の群以外には、脂肪40%、果糖20%、コレステロール2%を含む高脂肪食を与えました。3週間で脂質異常が生じたことを確かめた後、7週間にわたり、それぞれの試料を1日1回、管で胃に直接投与しました。
研究チームは、血液中の脂質や肝臓の障害を示す酵素、肝臓に含まれる脂質の量、肝臓の組織の様子を調べました。さらに、ふんに含まれる腸内細菌の遺伝子を解析して菌の構成を調べ、ふんと肝臓に含まれる多数の代謝物(体内で作られたり変換されたりする物質)を網羅的に測定しました。肝臓では、どの遺伝子がどの程度働いているかを全体的に調べ、重要と考えた遺伝子とたんぱく質については別の方法でも確認しました。
主な結果
論文によると、発酵馬乳を与えたラットでは、高脂肪食だけの群と比べて、血液中の総コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロールが有意に低下しました。HDLコレステロールは増える傾向にとどまりました。最も多い量を与えた群では、肝臓の中性脂肪も有意に減りました。一方、肝臓のコレステロール量に有意な差はありませんでした。体重の推移にも、群による有意な差はみられませんでした。
肝臓の組織を観察すると、高脂肪食だけの群では脂肪の蓄積や炎症がみられましたが、発酵馬乳を与えた群ではこれらが軽く、投与量が多いほど改善が大きかったと報告されています。ただし、肝臓の障害を示す血中の酵素(ASTとALT)は低めであったものの、有意な差ではありませんでした。著者らは、この期間では肝細胞の障害を十分に和らげたとはいえないと述べています。
最も改善が大きかった高用量群について詳しく調べたところ、高脂肪食で減った腸内細菌の多様性が回復しました。乳酸桿菌(ラクトバチルス)やロゼブリアが増え、アッカーマンシアや短鎖脂肪酸を作る細菌も回復したと報告されています。ふんの代謝物の全体像は通常食の群とほぼ重なるまで近づきました。肝臓の代謝物も通常食の群に近づく傾向を示しました。変化した代謝物は、胆汁酸の合成や胆汁の分泌に関わる経路に多く含まれていました。
肝臓の遺伝子解析では、脂質代謝の調節に関わるPPARという仕組みや、胆汁の分泌に関わる経路で変化がみられました。PPARαと、脂肪酸を燃焼に回すCPT1aの働きが高まっていました。コレステロールを胆汁酸に変えるCYP7A1と、コレステロールや胆汁関連物質を肝細胞の外へ運び出すABCG5/G8およびMRP2の働きも高まっていました。これらの上昇は、遺伝子とたんぱく質の両方の測定で確認されたと報告されています。
この研究が示すこと
著者らは、この発酵馬乳が、高脂肪食を与えたラットで血中と肝臓の脂質を減らしたと結論づけています。あわせて、腸内細菌、腸と肝臓の代謝物、肝臓での脂肪酸の燃焼やコレステロールから胆汁酸への変換に関わる遺伝子が、そろって変化していたことを報告しています。ただし、これらの分子レベルの変化は効果に伴って観察されたもので、効果の原因であると確定されたわけではありません。
また、発酵させていない馬乳や、乳酸菌だけを与える比較群は設けられていませんでした。そのため、効果が馬乳そのものによるのか、発酵の過程によるのか、乳酸菌によるのかは区別できず、どの成分が働いたのかも特定されていません。著者らは、今回の効果を発酵馬乳という製品全体によるものとして扱うべきだとしています。今回の研究は、ラットの実験で、発酵馬乳全体として脂質への影響と腸・肝臓の連動した変化を示したものと位置づけられます。
原著論文の著者・所属:Zhang R(School of Pharmacy, Xinjiang Medical University, Urumqi 830017, China.)、Yin C(School of Pharmacy, Xinjiang Medical University, Urumqi 830017, China.)、Paerhati N(School of Pharmacy, Xinjiang Medical University, Urumqi 830017, China.)、Ma J(School of Nursing, Xinjiang Medical University, Urumqi 830017, China.)、Zainiding N(School of Pharmacy, Xinjiang Medical University, Urumqi 830017, China.)、Batuer S(School of Pharmacy, Xinjiang Medical University, Urumqi 830017, China.)、Kawuli G(School of Pharmacy, Xinjiang Medical University, Urumqi 830017, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zhang R, Yin C, Paerhati N, et al. Probiotic-Fermented Mare's Milk Ameliorates High-Fat Diet-Induced Dyslipidemia Through Coordinated Gut-Liver Metabolic Remodeling. Foods (Basel, Switzerland) 2026-10-16. DOI: 10.3390/foods15203680. 原著ライセンス:CC BY.