日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:果糖を好む乳酸菌は肥満に影響するか

肥満は糖尿病や高血圧、脂肪肝などの生活習慣病と関連するとされ、世界的な課題になっています。近年は、腸内細菌の構成と肥満との関連を示す研究が数多く報告されています。乳酸菌を生きた状態で摂る「プロバイオティクス」だけでなく、加熱などで殺菌した菌体を利用する「ポストバイオティクス」も、安定性が高く保存や取り扱いがしやすいことから注目されています。ただし、その働きは菌株ごとに大きく異なります。

研究チームが着目したのは、果糖(フルクトース)を好んで利用する「果糖好性乳酸菌(FLAB)」です。花や果物、昆虫の消化管など果糖の多い環境にすむ乳酸菌の仲間で、生態や代謝の特徴は調べられてきましたが、宿主の体にどう働くかはほとんど分かっていませんでした。特に、加熱殺菌した菌体として与えた場合の作用は不明でした。

今回の研究で用いられたのは、野菜などを高い糖濃度で自然発酵させた日本の伝統的な発酵液「酵素(こうそ)」から見つかった乳酸菌、アピラクトバチルス・コウソイ(Apilactobacillus kosoi)です。この菌については、これまでに免疫を刺激する作用や、腸の免疫組織で抗体の一種であるIgAの産生を強く促す作用が報告されていました。一方、肥満や代謝との関わりはまだ調べられていませんでした。著者らは、加熱殺菌したこの菌が宿主の代謝と腸内環境に働きかけ、肥満を和らげるのではないかという仮説を立て、マウスで検証しました。

どのように調べたか

実験には雄のマウスを用い、通常の脂肪量の餌を与える群、高脂肪食を与える群、高脂肪食に加えて加熱殺菌したA. kosoiを与える群の3群に分けました。菌体は培養後に生理食塩水で3回洗い、菌の外に出た代謝物をおおむね取り除いたうえで、80℃で30分加熱して殺菌し、乾燥させたものです。これを体重1キログラムあたり1日600ミリグラムの量で、8週間毎日、口から投与しました。ほかの2群には同じ量の水だけを与えています。

研究チームは、体重、体脂肪率、摂取エネルギー量を毎週記録したほか、血液の生化学検査、内臓脂肪や肝臓の重さ、肝臓で脂質代謝に関わる遺伝子の働き具合、腸内細菌の構成、便に含まれる短鎖脂肪酸の量を調べました。短鎖脂肪酸とは、腸内細菌が食物繊維などを発酵させて作る酢酸や酪酸などの小さな脂肪酸で、腸の健康や代謝との関わりが知られている物質です。

主な結果:体重増加の抑制と腸内環境の変化

高脂肪食を与えたマウスは、通常食のマウスより明らかに体重が増えました。実験終了時の体重の増加率は、通常食群が約9.5%、高脂肪食群が約20.4%でした。これに対し、菌体を与えた群は約14.1%で、両者の中間にとどまりました。菌体を与えた群では、2〜7週目に高脂肪食群と比べて体重増加が統計的に意味のある差をもって抑えられ、体脂肪率も5週目以降、高脂肪食群より低くなりました。また、菌体を与えた群は実験期間の大半で高脂肪食群より摂取エネルギーが少なく、論文では、食べる量が減ったことが効果の少なくとも一部に寄与した可能性があると述べています。

一方で、実験終了時に個別に量った内臓脂肪の重さには、高脂肪食群との間で統計的な差は見られませんでした。著者らは、体脂肪率と特定部位の脂肪重量は体組成の異なる側面を測っているため、必ずしも同じように変化するとは限らないと説明しています。血液検査では、中性脂肪や、脂肪組織から出るホルモンであるレプチンが低めになる傾向が見られましたが、統計的に意味のある差には至りませんでした。また、検査値に目立った悪い変化は認められなかったと報告されています。

腸内環境では、より明確な変化が見られました。高脂肪食によって便中の短鎖脂肪酸は減少しましたが、菌体を与えた群では、ギ酸、酪酸、イソ酪酸が高脂肪食群より有意に多くなっていました。腸内細菌の構成を見ると、高脂肪食ではバシロータ門(フィルミクテス門)の割合が約55.8%から約72.4%に増え、バクテロイドータ門(バクテロイデス門)が約36.1%から約15.4%に減りました。菌体を与えた群では、それぞれ約63.3%と約26.5%となり、高脂肪食による偏りが部分的に元に戻る方向へ変化していました。さらに、酪酸などを作ることで知られるラクノスピラ科やルミノコッカス科の細菌の割合も、高脂肪食群より高くなっていました。

肝臓の遺伝子解析では、コレステロールを作る酵素の遺伝子の働きが低めになり、コレステロールから胆汁酸を作る酵素の遺伝子の働きが高めになる傾向が見られました。ただし、これらは統計的に意味のある差ではありません。また、胆汁酸そのものは測定していないため、この解釈には慎重さが必要だと著者らは述べています。血液中のIgAは高脂肪食で減少し、菌体を与えた群ではその減少を和らげる方向の変化が見られましたが、こちらも統計的な差には至っていません。

研究が示すこと

研究チームは、加熱殺菌したA. kosoiが、高脂肪食を与えたマウスの体重増加を抑え、摂取エネルギーを減らすことを示しました。著者らは、果糖好性乳酸菌に由来するポストバイオティクスで抗肥満作用が報告されたのは初めてだとしています。菌体は洗浄して代謝物を除いてから使われていたため、作用は菌が分泌する物質ではなく、菌体そのものの成分による可能性が高いと考察しています。ただし、どの成分が働いているのかはまだ特定されていません。

また、腸内細菌の構成の変化とともに、酪酸だけでなくギ酸も回復していた点を著者らは強調しています。ギ酸はこれまで肥満研究であまり注目されてこなかった物質です。論文は、ギ酸が宿主の代謝調節に関わる、見過ごされてきた腸内細菌の代謝物かもしれないと指摘しています。これらの結果はマウスの実験で得られたものですが、果糖を好む乳酸菌が宿主の体に及ぼす働きについて、理解を広げる成果といえます。

原著論文の著者・所属:Shizuka Matsuyama(ARSOA Research & Development Center, Arsoa Keioh Group Corporation, Hokuto, 408-8522, Yamanashi, Japan)、Satsuki Moriyama(ARSOA Research & Development Center, Arsoa Keioh Group Corporation, Hokuto, 408-8522, Yamanashi, Japan)、Chiaki Matsuzaki(Research Institute for Bioresources and Biotechnology, Ishikawa Prefectural University, Nonoichi, 921-8836, Ishikawa, Japan)、Sachi Tanaka(Department of Agriculture, Shinshu University, Minamiminowa, Nagano, 399-4598, Japan)、Tsukasa Shiraishi(Department of Health and Nutrition, Faculty of Human Ecology, Wayo Women’s University, Ichikawa, 272-8533, Chiba, Japan)、Shin-ichi Yokota(Division of Microbiology, Department of Infectious Diseases, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, 060-8556, Hokkaido, Japan)、Kenji Yamamoto(Center for Innovative and Joint Research, Wakayama University, Wakayama, 640-8510, Japan)、Tomoya Takahashi(ARSOA Research & Development Center, Arsoa Keioh Group Corporation, Hokuto, 408-8522, Yamanashi, Japan)、Tai-Ying Chiou(Department of Biotechnology and Environmental Chemistry, Kitami Institute of Technology, Kitami, 090-8507, Hokkaido, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shizuka Matsuyama, Satsuki Moriyama, Chiaki Matsuzaki, et al. Anti-obesity effects of heat-killed Apilactobacillus kosoi, a FLAB-derived postbiotic, in high-fat diet-induced obese mice. Scientific Reports 2026-07-31. DOI: 10.1038/s41598-026-64379-x. 原著ライセンス:CC BY.