著者の所属・活動拠点の国は、韓国です。

掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

コーヒーかすを微生物タンパク質の原料にする試み

コーヒーを淹れたあとに残るかす(使用済みコーヒーかす)は、世界で毎年数百万トン規模で出ています。有機物を多く含むため、燃料や素材、食品関連の原料などへの再利用が研究されてきました。ただし、多くの技術は実験室や初期の実証段階にとどまっています。特に小さな地域のコーヒー店から出るかすは、今も一般ごみとして捨てられることが多いと論文は指摘しています。

一方、環境負荷の少ない代替タンパク質として注目されているのが「単細胞タンパク質」です。微生物を培養して得られる、タンパク質を豊富に含む菌体を指します。研究チームが用いたのは、アミノ酸の生産菌として産業で広く使われているコリネバクテリウム・グルタミカムです。この菌の菌体からつくった単細胞タンパク質は、先行研究で栄養面の評価が進められてきました。

ただし、コーヒーかすには微生物がそのままでは利用しにくい成分が多く、カフェインなど増殖を妨げうる物質も残っています。そこで研究チームは二つの点を調べました。一つは、コーヒーかすを発酵させてつくった抽出液がこの菌の培養の栄養源になるかどうかです。もう一つは、こうして得た菌体を乳酸菌やビフィズス菌が利用して、乳酸(L-乳酸)や酢酸をつくれるかどうかです。

発酵のさせ方を変えて抽出液をつくる

研究チームは、地域のコーヒー店から集めたかすを乾燥させ、市販の微生物発酵資材を加えました。この資材は枯草菌を主体とした混合資材です。水分の少ない固体のまま発酵させる「固体発酵」で、かすを1日1回かき混ぜる期間と、密閉して静置する期間の組み合わせや順序を変え、5通りの条件を試しました。発酵後のかすからは熱水で成分を抽出し、乾燥させて抽出液の粉末を得ました。

発酵させた抽出液はいずれも、発酵させていないものに比べて、フェノール類の量の目安となる値が約40〜60%低くなりました。カフェインは、かき混ぜる期間を含む条件で約76〜92%減ったのに対し、静置だけの条件では約25%の減少にとどまりました。

続いて、各抽出液でコリネバクテリウム・グルタミカムの増え方を比べました。最もよく増えたのは、15日間毎日かき混ぜたあと30日間静置した条件の抽出液を5%の濃度で使った場合でした。研究チームはこれを菌体生産に用いています。なお論文は、この条件では仕込みの規模や容器も変えていたため、静置期間を延ばしたこと自体の効果は切り分けられていないと述べています。

菌体の生産量と、乳酸菌・ビフィズス菌による発酵

選んだ抽出液で培養すると、回収された菌体(乾燥重量)は培養液1リットルあたり4.91グラムでした。比較に用いた二つの培地では、合成の最少培地が4.76グラム、以前に大型試験向けに最適化された栄養豊富な培地が4.85グラムで、ほぼ同等の量が得られました。一方、加えた培地成分の重さあたりで見た収率は、抽出液が0.10と、ほかの培地(0.19と0.16)より低くなりました。論文は、抽出液の量や栄養バランスを今後の改善点として挙げています。

得られた菌体を酸で分解すると、ラムノース、アラビノースとガラクトース、マンノース、グルコースといった糖が検出されました。また、糖を蓄えておく物質であるグリコーゲンも確認されました。これらの糖は、菌の細胞を包む層の成分などに由来すると考えられています。抽出液で育てた菌体では、アラビノース/ガラクトースとマンノースの割合が、栄養豊富な培地で育てた菌体より高くなっていました。

次に研究チームは、乳酸菌とビフィズス菌の計22株を、この菌体を加えた培地で試験管内で培養しました。その結果、抽出液由来と培地由来のどちらの菌体でも、L-乳酸や酢酸がつくられました。つくられる量は菌株によって異なりました。22株をまとめて培養した実験では、酢酸の生成量が、培地由来の菌体で1ミリリットルあたり1.83ミリグラム、抽出液由来の菌体で2.28ミリグラムに達しました。どちらもグルコースを加えた比較条件より統計的に有意に多く、抽出液由来の菌体は培地由来の菌体よりも有意に多い結果でした。

廃棄物の活用と代替タンパク質生産をつなぐ

著者らはこの結果を、コーヒーかすの再資源化と単細胞タンパク質の生産を組み合わせられることを示す「概念実証」と位置づけています。発酵処理したコーヒーかすの抽出液は、一般的な培地と同程度の菌体量を支えました。さらに、そうして得た菌体は、乳酸菌やビフィズス菌が有機酸をつくる材料として利用できることが試験管内で確認されました。捨てられがちなコーヒーかすを、微生物を介してタンパク質源へとつなぐ一つの道筋を示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Sehyeon Park(Research Group of Novel Food Ingredients for Alternative Proteins, The Catholic University of Korea)、Taeyeon Kim(Research Group of Novel Food Ingredients for Alternative Proteins, The Catholic University of Korea)、Soyeon Lee(Research Group of Novel Food Ingredients for Alternative Proteins, The Catholic University of Korea)、Pil Kim(Department of Biotechnology, The Catholic University of Korea; Research Group of Novel Food Ingredients for Alternative Proteins, The Catholic University of Korea)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sehyeon Park, Taeyeon Kim, Soyeon Lee, et al. Corynebacterium glutamicum single-cell protein produced with fermented spent coffee grounds extract supports L-lactate and acetate production by lactic acid bacteria and bifidobacteria. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-10-26. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1961024. 原著ライセンス:CC BY.