著者の所属・活動拠点の国は、イラクです。
掲載誌:Tikrit Journal for Agricultural Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
魚は良質なたんぱく質や脂質、ミネラルの供給源です。一方で、動物性食品の中でも特に傷みやすい食品でもあります。水分が多く、脂質が酸化しやすいため、保存状態が悪いと微生物の増殖や酸化によって品質が落ちます。また、重金属などの汚染物質が体内に蓄積している場合もあります。冷凍は品質を保つ一般的な方法ですが、冷凍条件が不十分だったり保管期間が長くなったりすると、劣化が進むことがあります。
イラクでは輸入冷凍魚への依存が高まっています。ところが、地方都市の市場に出回る製品の安全性や品質については情報が限られていました。そこで研究チームは、イラク北部の都市ティクリートの市場でよく売られている輸入冷凍魚の切り身2種類を調べました。1つはパンガシウス(Pangasius bocourti)、もう1つは論文で「Latfish」と呼ばれるナイルパーチ(Lates niloticus)です。チームは、これらの成分、物理的な性質、劣化の指標、重金属濃度を評価し、消費者の安全や市場の管理に役立つ根拠を示すことを目指しました。
何をどう調べたか
研究チームは、市内の店で販売されている輸入冷凍切り身を魚種ごとに10検体集めました。検体は冷蔵庫でゆっくり解凍し、皮や余分な脂を取り除いてからひき肉状にし、分析しました。
調べた項目は次のとおりです。まず、水分・たんぱく質・脂肪・灰分(ミネラルの総量の目安)といった基本成分です。次に、身が水分を保つ力(保水性)、加熱したときに失われる重さの割合(加熱損失)、身の色に関わる色素ミオグロビンの量を測りました。劣化の指標としては、pH、脂肪が分解して生じる遊離脂肪酸、脂質酸化の初期段階を示す過酸化物価、酸化がさらに進んだ段階を示すTBA値、たんぱく質の分解で生じる揮発性塩基窒素(TVBN)を測定しました。さらに、コバルト・亜鉛・鉛・カドミウム・銅の濃度と、コレステロールおよびトリグリセリド(中性脂肪)の量も分析しました。
主な結果
基本成分では、パンガシウスの水分が78.17%で、ナイルパーチの75.21%より多いと報告されました。脂肪はナイルパーチが5.25%、パンガシウスが4.74%で、ナイルパーチの方が多くなりました。たんぱく質もナイルパーチが19.00%、パンガシウスが16.46%と、数値の上ではナイルパーチが上回りました。灰分には差がありませんでした。
物理的な性質では、ナイルパーチの方が保水性が高く(82.63%対78.30%)、加熱損失が小さく(21.48%対24.41%)、ミオグロビン量も多い(1グラムあたり3.57ミリグラム対1.61ミリグラム)という数値が示されました。著者らはこれらを、ナイルパーチの身の構造や色の安定性がよいことを示すものと解釈しています。
劣化の指標は2種でほぼ近い値でした。TVBNは100グラムあたり約21ミリグラムでした。著者らは、一般的な許容上限とされる25〜30ミリグラムに近づきつつあるものの、範囲内にあると述べています。TBA値は1キログラムあたり約1ミリグラムでした。これは、脂質の酸化が進んで油が傷んだような嫌な臭いや風味が生じる「酸敗」の限界とされる2ミリグラムを下回る値です。著者らは、いずれの指標も安全とされる範囲内にあり両魚種とも食用に適すると判断する一方、酸化や酵素による変化が始まりつつある兆しも見られたとしています。
重金属については、コバルトはナイルパーチ、亜鉛はパンガシウスの方が有意に多い結果でした。鉛とカドミウムは統計的な差はなかったものの、平均値はパンガシウスの方が高くなりました。著者らは、測定された重金属濃度は国際的な基準の範囲内にあるとしています。ただし、パンガシウスで鉛とカドミウムが比較的高めだった点については、より注意深い監視が必要だと指摘しています。脂質では、コレステロールに2種の有意差はなく、トリグリセリドはパンガシウスの方が有意に多いと報告されました。
研究が示すこと
この研究から、同じ市場で手に入る輸入冷凍魚でも、魚種によって成分や身の性質に違いがあることが分かります。また、調べた試料は安全とされる範囲内にあったものの、劣化の初期の兆しも捉えられていました。著者らは、冷凍・保管・表示の方法を適切に整えることと、化学的・微生物学的な品質や重金属を継続して確認することが、輸入冷凍魚の品質と消費者の健康を守るうえで重要だとまとめています。
原著論文の著者・所属:Mohammed Tahseen Al-Hamadani(Department of Food Science, College of Agriculture, Tikrit University, Tikrit, Iraq)、Tariq Khalid Albashr(Department of Food Science, College of Agriculture, Tikrit University, Tikrit, Iraq)、Yasser Salam Saber(Department of Food Science, College of Agriculture, Tikrit University, Tikrit, Iraq)、Nashmeel Jawhar Rashid(Quality Control & Food Science Dept., Halabja Technical College of Applied Sciences, Sulaimani Polytechnic University, Iraq)、Zaid Khalaf Khidhir(Department of Animal Science, College of Agricultural Engineering Sciences, Sulaimani University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mohammed Tahseen Al-Hamadani, Tariq Khalid Albashr, Yasser Salam Saber, et al. Quality Analysis of Imported Marine Fish Species Distributed in Local Markets of Tikrit. Tikrit Journal for Agricultural Sciences 2026-09-01. DOI: 10.25130/tjas.26.3.6. 原著ライセンス:CC BY.