この研究は、イラクの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Kufa Journal for Agricultural Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ブドウは世界で広く栽培され、生食のほかジュースやワイン、干しブドウとしても消費される果実です。著者らは、ブドウの商品価値を左右する要素として、果実の成熟、粒の大きさ、色、味の組み合わせを挙げています。とくに有色の食用ブドウでは果皮の着色が品質の目安となり、色づきが不足したり色がぼやけたりすることが生産者の抱える問題になると説明されています。論文によれば、イラクで広く栽培されている「ハラワニ」種でも、この着色不足のばらつきが見られるとされています。
この研究は、メラトニンの葉面散布によって「ハラワニ」種の果実品質と色を改善できるかを調べる目的で行われました。あわせて、医薬的に重要とされる二次代謝産物(植物が生育の主要な経路とは別に作り出す成分で、色や香り、味に関わるもの)の生成をメラトニンが促すかどうかも検討されています。メラトニンはヒトでは睡眠の調節に関わるホルモンとして知られていますが、植物では成長調節物質としてはたらき、果実の成熟にも関与すると論文は紹介しています。
何を調べたか
試験は2022年と2023年の生育期に、イラク・バビロン県の民間果樹園で実施されました。対象は樹齢10年の「ハラワニ」種のブドウで、27本を選び、1月中旬に冬季剪定を行っています。12月中旬に有機質肥料を、3月初めにNPK肥料を施用したうえで、乱塊法に基づいて試験を組み立てたと記されています。
メラトニンは市販品を用い、0(無散布の対照)、3、6 mg/Lの3濃度で、30日間隔で計3回葉面散布されました。1回目は開花期にあたる時期(2022年は4月15日、2023年は4月20日)、2回目は着粒の終わり、3回目は成熟期です。収穫した果実については、可溶性固形分(TSS、果汁に溶けている成分の総量で糖度の指標とされます)、総酸度、全糖、糖酸比、アントシアニン(赤から青の果実色をもたらす水溶性の色素)、総フェノール、フラボノイド、レスベラトロールなどを、果肉と種子に分けて測定しています。メラトニンとレスベラトロールの定量には高速液体クロマトグラフィーが用いられました。結果の比較には分散分析とダンカンの多重範囲検定(p≤0.05)が使われています。
主な報告結果
著者らは、メラトニン散布がブドウの化学的品質の多くに有意な影響を与えたと報告しています。とくに6 mg/L区が最も効果的で、果実のTSSが最も高くなり、全糖と糖酸比も低濃度区および対照区より有意に高い値を示しました。一方、総酸度については、無散布の対照区が最も高い値(0.57%と0.56%)となっており、散布によって酸度は下がる方向に動いています。
6 mg/L区では、果実のアントシアニン含量が対照区や3 mg/L区より高く、2年分でそれぞれ16.61%と16.99%の増加として報告されています。果肉と種子のメラトニン含量も、6 mg/L区が最も高く、次いで3 mg/L区、対照区の順でした。総フェノールは果肉で6.37%と6.31%の増加、フラボノイドは果肉で16.64%と16.15%、種子で7.16%と6.63%の増加が示されています。レスベラトロールについては、6 mg/L区で果肉が10.07%と9.99%、種子では60.44%と62.61%の増加が報告され、対照区が最も低い値でした。
考察の中で著者らは、糖の増加と有機酸の減少が同時に進む傾向はリンゴやモモ、オウトウ、スモモでの先行報告と一致すると述べています。糖やTSSが増えた背景として、メラトニンが葉の葉緑素量を増やして光合成の効率を高める可能性や、糖代謝に関わる遺伝子の調節に関連する可能性を、他の研究を引きながら挙げています。ただしこれらは推定として示された説明であり、この試験で機構そのものを確かめたわけではありません。
この報告が示すこと
この研究は、ブドウ「ハラワニ」種にメラトニンを葉面散布した2シーズンの試験で、果実と種子の糖、アントシアニン、フェノール、フラボノイド、レスベラトロールといった成分含量が、6 mg/Lの濃度で対照区より高くなったことを報告しています。著者らは結論として、ブドウ栽培でのメラトニン利用が二次代謝産物の量と質を高める見込みがあり、果実全体の価値の向上につながりうると述べています。
同時に著者らは、メラトニンと生体活性成分の複雑な関係を十分に理解するにはさらなる研究が必要であり、実用的で効率のよい散布方法の開発や、この相互作用の機構とブドウおよびワインの品質への影響の全体像の解明も残された課題だとしています。色づきという見た目の品質と、成分という内容の品質を同じ処理で捉えようとした点が、この報告の視点を示しています。
著者:Khalid A-A. Albyrmany(Department of Horticulture and Landscape, Faculty of Agriculture, University of Kufa)、Muslim A. A. Abdulhussein(Department of Horticulture and Landscape, Faculty of Agriculture, University of Kufa)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Khalid A-A. Albyrmany, Muslim A. A. Abdulhussein. Melatonin for improving grapes quality of “Halawani” cultivar. Kufa Journal for Agricultural Sciences 2026-09-23. DOI: 10.36077/kjas/2026/v18i3.25559. 原著ライセンス:CC BY.