著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 4.0 確認元: 雑誌の掲載方針

研究の目的:手に入りやすい栄養データで高血圧リスクを捉えられるか

中国では過去数十年のあいだに、穀物中心の食事から脂肪の多い食事へと移り変わる「栄養転換」が進みました。食事調査では、たんぱく質・脂質・炭水化物という三大栄養素の摂取量が比較的そろえやすい情報として記録されます。しかし、こうした三大栄養素の情報だけで、その後に高血圧になる人のリスクを捉えられるのかは、はっきりしていませんでした。

著者らは、食事が血圧に影響するかどうかそのものを検証したのではないと断っています。血圧に深く関わるナトリウム(食塩)、カリウム、食品の種類といった情報が含まれていないためです。研究チームが問うたのは、手に入りやすい三大栄養素の情報が、高血圧の発症リスクを把握する目的に適しているかどうかでした。

何を調べたか:20年以上にわたる長期追跡データ

研究チームは、1989年に始まり、中国の複数の省で個人や世帯を繰り返し調べてきた中国健康栄養調査(CHNS)のデータを用いました。食事は連続3日間、前日24時間に食べたものを思い出してもらう聞き取りと、世帯の食品や調味料の計量によって調べられています。三大栄養素の情報は1991年から2011年まで利用できました。

分析では、三大栄養素から得られるエネルギーのうち、たんぱく質・脂質・炭水化物がそれぞれ何%を占めるかを計算しました。そのうえで、総エネルギー量をそろえた条件で、炭水化物の一部をたんぱく質や脂質に置き換えた比率の違いと、高血圧の発症との関連を調べました。あわせて、中国の食事摂取基準が年齢別に示す望ましい比率の範囲(AMDR)に、三つの栄養素のうちいくつが収まっているかを0〜3で数えた指標も検討しました。

高血圧は、測定した血圧の平均が上140mmHg以上または下90mmHg以上の場合、あるいは医師から診断されたとの申告や降圧薬の使用がある場合と定義しました。調査開始時点で高血圧のない成人14,384人を追跡したところ、追跡期間の中央値7.0年のあいだに5,234人(36.4%)が高血圧を発症しました。研究チームは、年齢・性別・地域・学歴・所得・喫煙・飲酒などの影響を統計的に調整して分析しました。さらに補助的な確認として、機械学習を使い、6年以内の発症の予測に食事の情報が役立つかも調べました。

主な結果:三大栄養素の比率と高血圧発症の間に明確な関連はみられなかった

まず食生活の変化として、1991年から2011年にかけて、三大栄養素由来のエネルギーに占める脂質の割合は平均21.8%から32.5%へ増えました。炭水化物は66.4%から54.3%へ減り、たんぱく質は11.9%から13.1%へ増えています。研究チームは、これまで報告されてきた中国の栄養転換が再現されたとしています。

主要な分析では、炭水化物をたんぱく質や脂質に置き換えた比率の違いと、高血圧の発症との間に明確な関連は認められませんでした。ハザード比はある時点での発症のしやすさを比べる指標で、1なら差がないことを表します。比率が5ポイント高いごとのハザード比は、たんぱく質で0.986、脂質で0.986でした。望ましい範囲に収まる栄養素が一つ増えるごとのハザード比は1.007でした。いずれも統計的な誤差の幅に1を含んでいました。分析方法を変えても、結果はおおむね同じでした。

集団全体の推移をみると、年齢構成などをそろえた比較で、望ましい範囲に収まる栄養素の数は平均1.37から1.53へ増えました。一方、高血圧の割合も17.4%から22.6%へ上昇しました。ただし著者らは、これは集団の傾向を並べた記述にすぎず、因果関係を示すものではないと述べています。

機械学習による予測の検証では、6年後の状態が確認できた9,284人を対象としました。年齢・血圧・体格といった従来の予測因子に食事の情報を加えても、予測の精度はほとんど向上しませんでした。予測に強く寄与していたのは、年齢、調査開始時の血圧、BMIでした。

なお、繰り返し測定した食事の平均を用いた追加の分析では、炭水化物を脂質に置き換えた比率が高いほど発症が少ないという関連がみられました。ただし著者らは、これは探索的な結果であり、食事の助言の根拠にはならないとしています。

研究が示すこと

著者らは、ある1時点で測った三大栄養素の大まかな比率だけでは、高血圧の発症について個人のリスクを知る手がかりが乏しいと結論づけています。同じ脂質や炭水化物の比率でも、食塩の量や、脂質・炭水化物の質、選ぶ食品は大きく異なりえます。比率の指標では、その違いが平均化されてしまいます。

そのため研究チームは、高血圧に関わる食事のモニタリングには、ナトリウム、カリウム、食物繊維、脂質の質、食品群の情報が引き続き必要だと指摘しています。この研究は、記録しやすい栄養データがどこまで役に立ち、どこから先の情報が欠かせないのかを、大規模な長期データで具体的に示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Kun Xiang(Research Center of Machine Learning and Public Health, China Three Gorges University, Yichang, China)、Xiangbo Zhu(School of Construction Engineering, Shenzhen Polytechnic University, Shenzhen, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kun Xiang, Xiangbo Zhu. Macronutrient composition and incident hypertension during China's nutrition transition: a longitudinal cohort analysis of the China Health and Nutrition Survey. Frontiers in Nutrition 2026-11-01. DOI: 10.3389/fnut.2026.1924089. 原著ライセンス:CC BY.