著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Environmental Research Letters
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
世界の食生活をどう変えていくかには、二つの課題が重なっています。すべての人が必要な栄養をとれるようにする「栄養の公平性」と、地球環境への負荷を抑える「持続可能性」です。食べ過ぎの国がある一方で、栄養が足りない国もあり、一律に食料消費を減らせばよいわけではありません。
研究チームは、各国の食事ガイドラインにそった食生活へ移行した場合に、食料に由来する温室効果ガスの排出がどう変わるかを試算しました。あわせて、その排出量がパリ協定の気温目標(産業革命前からの気温上昇を2℃、または1.5℃に抑える目標)と整合するかを検討しました。
三つの食生活シナリオを比較
著者らは181か国を対象に、それぞれの国の食事ガイドラインを土台とする三つのシナリオを設定しました。現在の食事パターンを基にしたCP、低排出の食品への置き換えを想定したLP、高排出の食品を選ぶ場合を想定したHPです。LPの例として、牛や羊などの反すう動物の肉を鶏肉に置き換えることが挙げられています。
比較の基準には、現在の傾向がそのまま続く「なりゆき」のケース(BAU)を用いました。2020年から2100年までに食料関連で排出される温室効果ガスの累積量を、二酸化炭素に換算した値(CO2e)で求めています。
主な結果
論文によると、なりゆきのBAUでは、2020〜2100年の食料関連の累積排出量は1768ギガトン(Gt、10億トン)CO2eに達しました。CPでは1411Gt CO2eに減りましたが、2℃目標とはかろうじて整合する程度にとどまりました。LPでは1113Gt CO2eとなり、37%減少しました。著者らは、この経路は2℃目標と十分に両立すると報告しています。一方、HPの排出量はBAUをも上回りました。
研究チームはLPの経路の中心として、排出削減の義務と排出の許容枠を国ごとに割り振る、公平性を重視した配分の枠組みを提案しています。基準は、各国の実際の摂取量が自国の食事ガイドラインからどれだけずれているかです。
この枠組みでは、動物性食品などをとり過ぎている国に厳しい削減義務が割り当てられます。論文が示す例は、米国が58.85Gt CO2e、中国が131.10Gt CO2eです。反対に、栄養摂取が不足している国には、人口規模に応じて排出の許容枠が守られるように割り当てられます。例はナイジェリアが25.63Gt CO2e、エチオピアが24.94Gt CO2eです。著者らは、これを人々が栄養をとる権利を守るための配慮と位置づけています。
ただし、この最適化した経路でも、食料以外の部門に残される排出枠は407〜818Gt CO2eの狭い範囲に限られると報告されています。
研究が示す意味
この研究は、低排出の食品へ置き換えながら各国の食事ガイドラインに近づけることで、食料由来の排出を大きく減らせる可能性を試算で示しました。同時に、食生活の転換だけでは1.5℃目標の達成は困難だという見通しも示しています。著者らは、栄養の公平性に配慮した政策と、食料以外の部門も含めた分野横断の脱炭素化を組み合わせる必要性を強調しています。
原著論文の著者・所属:Yaling Li(Anhui Agricultural University)、Fujin Yi(Zhejiang University)、Xiaoxi Wang(MAgPIE-China Research Group; Zhejiang University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yaling Li, Fujin Yi, Xiaoxi Wang. Equity-centered dietary transitions: food-related GHG emissions and climate target alignment. Environmental Research Letters 2026-08-05. DOI: 10.1088/1748-9326/ae9563. 原著ライセンス:CC BY.