著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
捨てられがちな「残り身」を食品素材として見直す
カラフトマスは北太平洋のサケ漁業で主要な魚種で、多くはフィレ(切り身)に加工されます。研究チームによると、フィレを取る工程では原料の約4分の1が副産物になり、その中には骨や皮に付いたまま残る身も多く含まれます。こうした副産物は栄養価があるにもかかわらず、付加価値の低い用途に回されることが多いとされています。
著者らは、この残り身をかまぼこのような練り製品(すり身製品)に加工できないかに注目しました。練り製品では、加熱すると筋肉のたんぱく質がつながり合い、弾力のある網目状の構造(ゲル)を作ります。ただしカラフトマスの副産物の身には、ゲル化を妨げる水溶性たんぱく質、色素、脂質も多く含まれます。たんぱく質を抽出して使う方法は手間と費用がかかるため、研究チームはより簡単な方法として、安価で広く使われているでんぷんを加える方法を検討しました。
研究の目的は二つです。一つは副産物の身の栄養組成、たんぱく質の質、脂肪酸の構成を明らかにすること。もう一つは、性質の異なる8種類のでんぷんを加えたときに、ゲルの食感、保水性、加熱による重量減少、色、微細構造、消化されやすさがどう変わるかを体系的に調べることです。
副産物の身の栄養組成
材料は、頭と内臓を除いた状態で輸入されたカラフトマスのフィレ加工後に残った骨と皮から、機械的に分離した身です。身の付いていない骨や皮そのものは対象に含まれていません。
分析の結果、この身の水分は約83.8%で、論文が比較に挙げたサケのフィレより高い値でした。著者らは主な原因を機械分離の工程に求めています。たんぱく質は生の重量当たり約10.0%とフィレより低かったものの、水分を除いた乾燥重量当たりでは約61.6%に達しました。脂質は約3.7%で、カラフトマスのフィレの約4倍でした。一方、アトランティックサーモンやベニザケのフィレよりはかなり低い値でした。
アミノ酸は17種類が検出され、そのうち8種類は体内で作れない必須アミノ酸でした。全アミノ酸に占める必須アミノ酸の割合は約45.8%で、FAO/WHOが推奨する35%を上回りました。リシンもFAO/WHOの基準パターンを超えていました。リシンは穀物のたんぱく質に不足しがちなアミノ酸であるため、著者らは植物性たんぱく質を補う素材になりうると述べています。
脂肪酸は20種類が同定されました。多価不飽和脂肪酸の量は、比較に用いたアトランティックサーモンの報告値を上回り、その中心はEPAとDHAでした。n-3系とn-6系の比は1.34で、心血管の健康の観点から推奨される範囲(1.0〜4.0)に収まっていました。動脈硬化や血栓のなりやすさを脂肪酸組成から見積もる指標も、牛肉、豚肉、牛乳の報告値よりかなり低い値でした。
でんぷんの種類でゲルの性質はどう変わったか
研究チームは、副産物の身に食塩や植物油などを加えて練り、蒸して練り製品風のゲルを作りました。比較したのは、でんぷんを加えない対照群と、8種類のでんぷんをそれぞれ8%加えた群です。でんぷんは、未加工のでんぷん4種(ジャガイモ、小麦、タピオカ、トウモロコシ)と、化学的に加工した「加工でんぷん」4種です。加工でんぷんには、リン酸化タピオカでんぷん、ヒドロキシプロピル化タピオカでんぷん、タピオカ由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋でんぷん(HDP)、トウモロコシ由来のアセチル化リン酸架橋でんぷんが含まれます。
でんぷんを加えないゲルは柔らかく、弾力も乏しいものでした。電子顕微鏡で見ると大きな空洞が目立ち、つながりの悪い構造でした。でんぷんを加えると食感は変化しましたが、改善の程度はでんぷんの原料と加工方法によって異なりました。硬さなど多くの食感指標で最も高い値を示したのはリン酸化タピオカでんぷんで、次いでヒドロキシプロピル化タピオカでんぷん、HDPの順でした。未加工のでんぷんではタピオカの効果が最も大きく、小麦とトウモロコシは改善がわずかでした。この2種では、かみごたえを示す指標が対照より低くなりました。
保水性では、HDPとトウモロコシ由来の加工でんぷんが、それぞれ同じ原料の未加工でんぷんより高い値を示しました。冷凍したゲルを再加熱したときの重量減少は、でんぷんを加えたすべての群で対照より少なく、なかでもHDPが最も少なく、トウモロコシでんぷんが最も多い結果でした。微細構造の観察では、加工でんぷん、特にHDPを加えたゲルが均一で緻密な網目を作っていました。著者らは、構造の緻密さが食感や保水性の結果と対応していたと報告しています。
色の面では課題も見つかりました。多くのでんぷん添加ゲルは対照より暗く、黄色みを帯びました。リン酸化タピオカでんぷんでは、見た目にもはっきり分かる大きな色の変化に分類されました。
消化されやすさと、研究が示すこと
研究チームは、総合的に最も改善が目立ったHDP添加ゲルを選び、消化されやすさを試験管内で調べました。口、胃、腸の消化を模した液と酵素を使い、乾物がどれだけ消化されたかを比較しています。原料の生の身は最も消化されにくく、胃の段階での消化率は3.89%でした。胃と腸のどちらの段階でも、ゲルにした試料より有意に低い値でした。著者らは、細かく刻む工程と加熱によってたんぱく質の元の構造が崩れ、酵素が働きやすくなったためと考えています。
一般に、緻密に架橋したたんぱく質ゲルは消化されにくいとされます。ところが今回は、HDPを加えたゲルが対照のゲルより緻密な構造でありながら、消化率は有意に高くなりました。著者らは、でんぷんがたんぱく質同士を強く結びつけるのではなく、主に隙間を埋める「充てん材」として働いたためではないかと説明しています。
この研究は、フィレ加工の副産物から得た身が良質なたんぱく質と多価不飽和脂肪酸を含む食品素材であることを示しました。あわせて、加えるでんぷんを選ぶこと、特にHDPを使うことで、練り製品としての品質を高められることも示しています。一方で、でんぷんを加えたゲルも色が暗い黄色にとどまり、一般的な市販すり身製品より柔らかいことから、消費者に受け入れられるにはさらなる改良が必要だと著者ら自身が指摘しています。
原著論文の著者・所属:Meng Li(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China; Dalian Key Laboratory of Marine Bioactive Substance Development and High Value Utilization, Dalian 116023, China; Liaoning Provincial Marine Healthy Food Engineering Research Centre, Dalian 116023, China)、Jia Wan(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China)、Wenxuan Guan(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China)、Bo Liu(Dalian Ruichi Food Co., Ltd., Dalian 116037, China)、Xinda Xu(Dalian Ruichi Food Co., Ltd., Dalian 116037, China)、Qiancheng Zhao(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China; Dalian Key Laboratory of Marine Bioactive Substance Development and High Value Utilization, Dalian 116023, China; Liaoning Provincial Marine Healthy Food Engineering Research Centre, Dalian 116023, China)、Xinru Fan(College of Food Science and Engineering, Dalian Ocean University, Dalian 116023, China; Dalian Key Laboratory of Marine Bioactive Substance Development and High Value Utilization, Dalian 116023, China; Liaoning Provincial Marine Healthy Food Engineering Research Centre, Dalian 116023, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Meng Li, Jia Wan, Wenxuan Guan, et al. Valorization of Pink Salmon (Oncorhynchus gorbuscha) Processing By-Products: Nutritional Composition, Starch-Modified Gel Quality and Digestibility. Foods 2026-09-15. DOI: 10.3390/foods15183259. 原著ライセンス:CC BY.