この研究は、ドイツの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ搾りかすに注目したのか

クランベリーはツツジ科スノキ属の低木になる果実で、北米で広く栽培されるアメリカンクランベリー(Vaccinium macrocarpon)と、北欧や中欧などに分布するヨーロッパ産のツルコケモモ(V. oxycoccos)が代表的です。著者らによれば、生果のまま食べられる割合は限られており、大半はジュースやソース、ドライフルーツ、粉末などに加工されます。このため加工の現場では、果皮・種子・果肉の残り・わずかな果梗からなる「ポマス(搾りかす)」が大量に生じます。

論文は、米国が世界のクランベリーのおよそ3分の2を生産し、カナダが第2位であるといった生産統計を挙げたうえで、搾りかすの発生量も相応に多いと述べています。これを廃棄物として扱えば処理の負担となりますが、循環型バイオエコノミーの枠組みで見れば、回収可能な植物化学成分や構造性の炭水化物、種子由来成分が濃縮された原料とみなせる、というのが著者らの出発点です。

重要なのは、搾りかすを「果実そのものの残り」と同一視できない点だと著者らは強調します。ジュース搾汁の過程で、糖や有機酸といった水に溶けやすい成分は果汁側へ多く移る一方、果皮・種子・細胞壁に結びついたポリフェノールは残渣側に留まります。したがって果実や果汁を調べた研究から搾りかすの性質を直接推し量ることはできません。そこで本総説は、搾りかすを独立した加工副産物として位置づけ、組成・安定化・抽出・生理活性・食品や包装への利用という観点から文献を整理しています。

どのように調べ、何が報告されたか

この研究は新たな実験ではなく、既存の研究を集めて比較検討する総説(レビュー)です。著者らはWeb of Science、Scopus、PubMed、Google Scholarを対象に、「cranberry pomace」「cranberry press cake」など複数の検索語で文献を収集し、搾りかすやそこから得た画分を扱った研究を選び出して、組成・安定化・抽出・生理活性・食品や包装への応用といった区分ごとに整理しました。果実や果汁、他のベリー類の搾りかすを扱った研究は、比較や作用機構の説明に必要な範囲でのみ参照したとしています。

組成について報告された内容をみると、乾燥させた搾りかす粉末では食物繊維が全体の大部分を占め、そのうち不溶性の繊維が多数を占めると報告されています。これは、搾りかすが細胞壁に富む残渣であることと整合する、と著者らは説明します。総ポリフェノール量については、試料の調製法や抽出法、測定法、表示の基準によって報告値の幅が大きいことが指摘されています。

ポリフェノールの内訳として、文献は一貫して四つの主要なグループ——アントシアニン(赤紫系の色素)、フラボノール、フラバン3オール類とプロアントシアニジン(PAC、縮合型タンニン)、フェノール酸——を挙げています。アントシアニンではシアニジン系とペオニジン系の配糖体が中心で、糖の種類としてはガラクトースやアラビノースが結合したものがグルコース結合型より多い、という傾向が繰り返し報告されています。フラボノールはケルセチン類が中心で、ミリセチン類がそれに次ぎます。フェノール酸は常に検出されるものの、量としては副次的な位置づけとされています。

著者らが搾りかすの特徴として重視するのが、A型プロアントシアニジンの存在です。クランベリーはA型プロシアニジンの食事由来源として際立っており、搾りかすには単量体から二量体・三量体、さらに高度に重合した形まで幅広い重合度のものが含まれると報告されています。アルカリ分解を行うと追加の構成単位が回収されることから、抽出されにくい形でマトリックスに結合したプロアントシアニジンも存在すると示唆されています。他の色付きベリーの搾りかすと比べたとき——ラズベリーはエラジタンニン、チョークベリーは高重合のB型プロシアニジンが特徴的といった具合に——クランベリー搾りかすはA型PACが優勢である点で区別される、と著者らは整理しています。

搾りかすの組成が加工条件に左右されることも報告されています。ある研究では、果実を丸ごと搾った場合と、あらかじめ破砕してから搾った場合とで比較し、破砕すると果汁収量が増えて搾りかすの量は減る一方、糖や有機酸は果汁側へより多く移ったと報告されました。ポリフェノールの搾りかす側への残存率はいずれの場合も高く保たれましたが、破砕した場合のほうがやや低くなっています。研究間で報告値が大きく食い違う例もあり、著者らはその理由として、実験室規模の圧搾か工業的な製造か、破砕の程度、凍結乾燥の有無、果皮の残り方の違いなどを挙げています。

炭水化物については、単なる「かさ」としての繊維にとどまらない構造的な多様性が報告されています。細胞壁材料ではペクチン質の多糖が大きな割合を占め、メチルエステル化の程度が異なるホモガラクツロナンや、アラビナン・ガラクタンなどの側鎖を持つ分岐構造が確認されています。グルコマンナン、キシラン、キシログルカンといったヘミセルロース系の多糖も相当量含まれます。酵素処理によって可溶性と不溶性の比率を変え、オリゴ糖を生成し、保水性や保油性、膨潤性、乳化安定性を高めたという報告も紹介されています。

脂質に関わる画分は量としては小さいものの、主に種子に由来する不飽和脂肪酸に富む油で、リノール酸、α‑リノレン酸、オレイン酸が主要な脂肪酸として報告されています。カロテノイド、トコフェロール類、植物ステロール、スクアレンといった微量成分も含まれます。さらに著者らは、ウルソール酸やオレアノール酸などの五環性トリテルペノイドが搾りかすに濃縮されている点を指摘しています。ある研究では、搾りかすのトリテルペノイド総量が、比較された果実そのものや果実加工品よりも高い水準で報告されました。これらの成分が果皮のろう質層に存在することと、搾汁後に果皮由来の材料が残渣側に留まることとが整合する、と説明されています。

加工前の処理についても知見が整理されています。搾りかすは水分が多く品質が劣化しやすいため乾燥による安定化が必要ですが、ある研究では、庫内での熱風乾燥と凍結乾燥を比較し、温度と積載量を調整した熱風乾燥でも総ポリフェノールやフラボノール、抗酸化能を凍結乾燥とおおむね同等の水準に保てたと報告されています。アントシアニンは比較的影響を受けやすく、高温かつ厚く積んだ条件で明確な低下がみられました。また、糸状菌を用いた固体発酵を前処理として試みた初期の研究群も紹介されていますが、著者らは、遊離型のフェノール成分を引き出す効果が報告される一方で、処理に要する期間が長く、乾燥と溶媒抽出を直接行う方法に比べて実用上の意義は限られる、と評価しています。

抽出については、目的とする画分に応じて手法を選ぶべきだと整理されています。ポリフェノールには含水アルコールや酸性化した溶媒、超音波を併用する方法や加圧溶媒を用いる方法、種子の脂質には超臨界二酸化炭素、ペクチンや細胞壁多糖には熱水・酸・アルカリ・マイクロ波・酵素を用いる方法が挙げられます。エタノールを用いた抽出では、搾りかす由来の抽出物が対応する果汁粉末よりも高い水準のフェノール酸やフラボノール、アントシアニンを含んだと報告されています。溶媒の種類による違いもあり、酸性化したエタノールはフラバン3オール類の回収に、エタノール系の溶媒はアントシアニンの回収に有利だったと報告されています。

この整理が示すこと

著者らの論旨は一貫しています。クランベリーの搾りかすは、有用成分が抜き取られた後の残りかすではなく、組成的に特徴のあるひとつの素材だということです。果皮と種子に由来する成分が留まることで、A型プロアントシアニジンを中心とするポリフェノール、構造の多様なペクチン質多糖を含む食物繊維、そして不飽和脂肪酸とトリテルペノイドに富む脂質画分という、三つの異なる性格を持つ画分が同じ材料のなかに共存しています。

同時にこの総説は、報告値の幅の大きさを繰り返し注意点として挙げています。品種や成熟度だけでなく、搾汁前に果実を破砕したかどうか、乾燥をどう行ったか、どの溶媒でどう抽出し、何を基準に数値を表したか——こうした履歴の違いが、同じ「クランベリー搾りかす」という名前の下に大きく異なる数字を生んでいます。搾りかすを原料として扱おうとするとき、組成は固定された性質ではなく、加工の経路そのものに形づくられるものだという視点が必要になる、ということを、この整理は示しています。

著者:Ali Ali Redha(Department of Molecular Food Chemistry and Food Development, Institute of Food and One Health Gottfried Wilhelm Leibniz University Hannover Hannover Germany)、Tuba Esatbeyoglu(Department of Molecular Food Chemistry and Food Development, Institute of Food and One Health Gottfried Wilhelm Leibniz University Hannover Hannover Germany)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ali Ali Redha, Tuba Esatbeyoglu. Cranberry Pomace Valorization: Composition, Extraction, Bioactivity, and Food Applications. Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety 2026-09-01. DOI: 10.1111/1541-4337.70637. 原著ライセンス:CC BY.