この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:AcTion Aceh Nutrition Journal
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜこの研究が行われたのか
スタンティング(stunting)とは、慢性的な栄養不足や感染症のくり返しによって、年齢に対して身長の伸びが十分でない状態を指します。世界的な公衆衛生上の課題であり、論文によると、インドネシア全国の割合は2018年の30.8%から2023年には21.5%へ下がったものの、WHOが「負担が大きい」とする20%の目安をなお上回っています。
著者らが注目したのは、生後6〜23か月という時期です。これは人生最初の1,000日に含まれ、身長の伸び、脳や神経の発達、免疫の働きを支えるために、動物性の食品からとるたんぱく質の必要量が最も高まる時期だと説明されています。動物性食品は必須アミノ酸をすべて含む良質なたんぱく質に加え、ヘム鉄・亜鉛・ビタミンB12といった、植物性食品だけでは十分に得にくい微量栄養素の供給源になります。
調査地である中部カリマンタン州のコタワリンギン・バラット県は、漁業が盛んな地域です。論文では2022年の漁獲量28,000トン、1人あたりの魚消費量が年間56.28kgから64.10kgへ増えたことが示されています。それにもかかわらずスタンティングが続いている——著者らはこの食い違いを、先行研究で「沿岸部の栄養パラドックス」と呼ばれてきた現象として位置づけ、沿岸地域を対象にした研究がこれまで少なかったことを研究の動機として挙げています。
何をどう調べたか
著者らは2025年3月から5月にかけて、クマイ郡の2つの沿岸の村で調査を行いました。一方は本土側の海岸に位置するスンガイ・バカウ村、もう一方は船で3〜5時間かかる小さな離島のスンガイ・チャバン村で、いずれも2023年に管轄保健センター内でスタンティングの割合が最も高かった村として選ばれています。
研究では、数値データを集めて分析したあとに聞き取り調査でその背景を掘り下げる「混合研究法(逐次説明的デザイン)」が採用されました。まず母子55組を対象に、身長・体長の計測で栄養状態を評価し、さらに半定量食物摂取頻度調査票(SQ-FFQ)という方法で、動物性食品20品目について過去1か月の食べる回数と推定量を母親から聞き取っています。続いて、スタンティングのある子どもの母親11人と、そうでない子どもの母親11人、合計22人に個別の詳しい聞き取りを行い、さらに村長、助産師、保健センターの栄養担当者、ポシアンドゥ(地域の母子保健活動)の活動員など21人を集めたグループ討論も実施しました。
統計解析にはマン・ホイットニーのU検定、フィッシャーの正確検定、二項ロジスティック回帰が用いられ、聞き取りの内容は主題分析で整理されました。なお著者らは、スタンティングの事例が11人と少なかったため、回帰分析に入れる変数を意図的に絞り、結果は探索的なものとして慎重に解釈すべきだと明記しています。
報告された主な結果
報告されたスタンティングの割合は20.0%でした。一方で、たんぱく質については98.2%の子どもがEAR(推定平均必要量)を満たしていました。つまり量の面では足りているという結果です。
それでも、たんぱく質摂取量には差がありました。スタンティングのある子どもの中央値は1日22.60gで、ない子どもの29.35gより低く、統計的に意味のある差(p < 0.001)が認められています。ロジスティック回帰では、たんぱく質摂取量が多いほどスタンティングのオッズが低い関連(OR = 0.268、95%信頼区間0.095〜0.754)が示されました。ただしこれは横断的な調査による関連であり、原因と結果の関係を示すものではないと著者ら自身が述べています。
食べている中身を見ると、よく口にされていたのはミルク(粉ミルク・UHT牛乳、1日平均74.55g)、卵(48.38g)、生鮮魚(36.15g)でした。特に生鮮魚は週7.4回、ほぼ毎日食べられていました。対照的に、鉄を多く含む食品はほとんど食べられておらず、鶏や牛のレバーは1日平均2.07g、週0.4回にとどまっていました。赤身肉やエビも週2回未満でした。一方で、超加工食品にあたるミートボール類は週3.2回、とくに12か月を過ぎた子どもで食べられていました。
聞き取りからは、促進する要因と妨げになる要因の両方が浮かび上がりました。地元の魚が毎日手に入ること、魚を食べる文化的な習慣、ポシアンドゥ活動員の支援などは後押しとなる要素です。他方で、母親の栄養に関する知識の不足(「たんぱく質が何なのか分かりません」という語りが紹介されています)、超加工食品が栄養価の高い食品に取って代わること、6か月より前の粉ミルク導入、天候による漁業収入の不安定さ、川の水や雨水に頼る不十分な水・衛生環境などが障壁として挙げられました。地理的に孤立したスンガイ・チャバン村の方が、スンガイ・バカウ村よりスタンティングの割合が高かったことも報告されています。
なお、完全母乳育児とスタンティングの関連については、割合の差(スタンティング群36.4%対非スタンティング群70.5%)はあったものの、統計的に有意な水準には達しませんでした(p = 0.076)。著者らはこれを、対象者数が少なく検出力が限られていた可能性によるものとして説明しています。
この研究が伝えていること
著者らの結論は、沿岸地域の子どもにおいてたんぱく質の量が足りているだけでは、身長の順調な伸びが保証されるとは言えないというものです。魚が豊富にあることと、子どもがその栄養を実際に受け取れることの間には隔たりがある——研究では、これを「入手可能性と利用の差」として捉えています。
そのうえで著者らは、食事の質、養育者の栄養に関する理解、そして衛生環境の改善が、こうした地域でスタンティングを減らす取り組みの重要な構成要素になりうると述べています。栄養を「どれだけ食べたか」だけでなく「何を、どんな状況のもとで食べられているか」という視点から見ることの意味を示した研究だといえます。
著者:Novy Cahyani(Faculty of Health Sciences, Universitas Brawijaya, Jalan Puncak Dieng Eksklusif, Kunci, Kalisongo, Malang, East Java)、Nia Novita Wirawan(Faculty of Health Sciences, Universitas Brawijaya, Jalan Puncak Dieng Eksklusif, Kunci, Kalisongo, Malang, East Java)、Widya Rahmawati(Master’s Program in Nutrition Science, Faculty of Health Sciences, Universitas Brawijaya, Malang, East Java, Indonesia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Novy Cahyani, Nia Novita Wirawan, Widya Rahmawati Animal-source food consumption and stunting among children aged 6–23 months in coastal Kotawaringin Barat, Indonesia. AcTion Aceh Nutrition Journal 2026-09-16. DOI: 10.30867/action.v11i3.3281. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。