この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:JURNAL BIOLOGI TROPIS
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
「スタンティング(stunting)」とは、年齢に対して身長(乳児では寝かせて測る身長)が著しく低い状態を指します。世界保健機関(WHO)の成長基準では、年齢別身長のzスコアが中央値より−2標準偏差を下回る場合をスタンティング、−3標準偏差を下回る場合を重度のスタンティングと分類します。著者らは、これは慢性的な栄養不足や繰り返す感染によって成長が妨げられた状態を反映すると説明しています。
カルシウムは骨や歯の形成・ミネラル沈着(骨の硬さをつくる過程)に関わる必須のミネラルで、身長が伸びる成長を支えます。論文によれば、インドネシアでカルシウム摂取と幼児のスタンティングの関連を報告した研究はあるものの、生後6〜24か月という限られた月齢に絞り、スタンティングの「重症度」との関連を調べた証拠は乏しいとされています。そこで研究チームは、中部ロンボク県バグ保健センター管轄地域に住む生後6〜24か月の子どもで、カルシウム摂取量とスタンティングの重症度に関連があるかを分析することを目的としました。この地域が選ばれた理由として、2023年の県の栄養サーベイランスで、同管轄地域の身長/年齢データのある2,762人のうち310人がスタンティングに該当し、有病率が11.22%であったことが挙げられています。
調べ方
研究チームは、観察に基づく分析的研究として横断研究(ある一時点で原因側と結果側の情報をまとめて集めるやり方)を行いました。対象は同管轄地域の5つの村に住むスタンティングの子ども(生後6〜24か月)で、全数抽出により43組が参加しました。回答者は子どもの母親または養育者です。先天性心疾患やダウン症などの先天異常、調査時の急性疾患、37週未満の早産、低出生体重、慢性疾患などがある場合は除外されました。
カルシウム摂取量は24時間思い出し法(前日1日分に食べたものを聞き取る方法)を1回実施し、栄養計算ソフトNutriSurveyで解析して、インドネシア保健省の栄養所要量に照らして「欠乏」「不足」「良好」の3段階に分類しました。スタンティングの重症度はWHOの成長基準に基づく年齢別身長zスコアで判定しました。両者の関連は、カイ二乗検定にExact(モンテカルロ)法を用いて評価されています。
主な報告結果
参加した43人のうち、88.4%(38人)が12〜24か月で、6〜12か月未満は11.6%(5人)でした。栄養状態の内訳はスタンティングが67.4%(29人)、重度のスタンティングが32.6%(14人)でした。カルシウム摂取量は95.3%(41人)が「欠乏」に分類され、「不足」と「良好」はそれぞれ1人のみでした。また72.1%(31人)は主に動物性食品からカルシウムを得ていました。
カルシウム摂取量とスタンティングの重症度の間に統計的に意味のある関連は認められませんでした(p = 0.544)。「欠乏」に分類された41人の内訳は、スタンティング28人(68.3%)、重度のスタンティング13人(31.7%)でした。
著者らはこの結果の解釈について、回答者のほとんどが「欠乏」の1つのカテゴリーに集まったためデータのばらつきが小さく、統計的に関連を検出しにくくなった点を指摘しています。また、24時間思い出し法による一時点の測定は、成長に関わる長期的な摂取状況を必ずしも表さないとも述べています。さらに、身長の伸びにはエネルギー・タンパク質・ビタミンD・リン・亜鉛・マグネシウムの充足やホルモンによる調節も必要であり、カルシウム不足だけで成長が決まるわけではないと説明しています。先行研究については、関連を認めなかった報告と、関連を認めた報告の両方があることが紹介されています。
あわせて著者らは、動物性食品が主なカルシウム源だった子どもが多数を占めていたにもかかわらず、大半が摂取量「欠乏」だった点に触れ、食品の種類だけでなく摂取量や頻度、食事の多様性もあわせて考える必要があると述べています。
この研究が示すこと
この研究は、バグ保健センター管轄地域の生後6〜24か月の子どもという限られた集団で、測定されたカルシウム摂取量とスタンティングの重症度の間に統計的な関連がみられなかったことを報告したものです。著者らが強調しているのは、これはカルシウムが成長に不要であることを意味しないという点です。
むしろ、ほぼ全員がカルシウム摂取「欠乏」に分類され、3分の1近くが重度のスタンティングに該当したという事実そのものが、この地域の課題を示しています。著者らは、スタンティングは食事だけでなく、感染症、衛生環境、養育のしかた、家庭の社会経済状況などが絡み合って生じる長期的な栄養問題であるという考え方と、今回の結果は整合すると位置づけています。
著者:Nur Hikmah(Universitas Mataram)、Lina Nurbaiti(Universitas Mataram)、Amelia Ramdani Hasby(Universitas Mataram)、Ida Ayu Arnawati(Universitas Mataram)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nur Hikmah, Lina Nurbaiti, Amelia Ramdani Hasby, et al. The Association Between Calcium (Ca) Intake and Severity of Stunting Among Children Aged 6–24 Months in Working Area of Bagu Primary Health Care Center, Central Lombok Regency. JURNAL BIOLOGI TROPIS 2026-09-30. DOI: 10.29303/jbt.v26i4.13273. 原著ライセンス:CC BY.