著者の所属・活動拠点の国は、中国、タイです。
掲載誌:Food Science & Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
「花を野菜として食べる」土地の食材を調べる
中国南西部の雲南省には、「新鮮な花は野菜として扱う」という言い回しがあるほど、花を日常の食材にする文化が根づいています。市場や飲食店の調査では、野菜として食べられる花が140種も記録されています。一方で、伝統的に食べられてきた花の多くは、栄養成分の詳しいデータがありません。また、食べ物として受け入れられるかを左右する「味」についても、科学的な調査はほとんど進んでいませんでした。
そこで研究チームは、雲南、特にシーサンパンナ地方で食べられる頻度の高い4種の花を取り上げました。仏教の聖なる植物としても知られるバショウ科のムセラ・ラシオカルパ(地湧金蓮)、プルメリアの一品種、つる性植物のステファノティス・ボルビリス、ウコギ科の樹木トレベシア・パルマタです。研究の目的は、これらの花の栄養成分と味の特徴を明らかにし、地域で受け継がれてきた食の実践を、栄養と味の両面から捉え直すことです。
どのように調べたか
試料は、地元の人が実際に花を手に入れる市場や栽培園から集めました。収穫して食べる直前の段階のものを、地元の人に確認したうえで採取しています。栄養分析は中国の国家規格に沿って行い、食物繊維、たんぱく質、脂質、炭水化物、エネルギーに加えて、10種類のミネラル、ビタミン類、16種類のアミノ酸を測定しました。比較の基準には、世界で広く食べられている「花の野菜」であるブロッコリーを選びました。ブロッコリーの公表値は水分を除いた乾燥重量あたりの値に換算し、花の測定値と同じ基準で比べています。
味の測定には「電子舌」を使いました。電子舌は、酸味、塩味、うま味、甘味、苦味にそれぞれ反応するセンサーで溶液を測る装置です。人が試食する官能評価とは違い、客観的で再現性の高い測定ができます。地元ではこれらの花を、苦味を和らげ毒性の心配を取り除くために、さっと湯通ししてから料理するのが一般的です。そこで研究チームは、生の花と湯通しした花の両方を測定し、結果を比べました。
食物繊維とカリウムが豊富、湯通しで味の傾向も変化
論文によると、4種の花で最も目立った栄養上の特徴は食物繊維の多さでした。乾燥重量100グラムあたり36.8〜57.9グラムで、ブロッコリーの換算値19.05グラムを大きく上回りました。カリウムも全種でブロッコリーより多く、ナトリウムは4.5〜6.0ミリグラムと非常に少ない値でした。一方、たんぱく質、脂質、炭水化物、エネルギーはいずれもブロッコリーより低い値でした。種による違いも見られ、ステファノティスとトレベシアはたんぱく質とアミノ酸の総量が他の2種より多く、ステファノティスはビタミンCを多く含んでいました。アミノ酸全体に占める必須アミノ酸の割合は42〜57%でした。著者らは、4種とも必須アミノ酸の構成比が比較的好ましい水準にあると報告しています。
電子舌の測定では、生の状態でも湯通し後でも、4種すべてで塩味とうま味のセンサーの値が他の味より高く出ました。酸味と苦味のセンサーの値は全体に低く、種による差はありませんでした。湯通しすると、トレベシア、ステファノティス、プルメリアの3種では、うま味と塩味の値がそろって上がりました。これに対してムセラだけは、塩味の値が下がり、苦味と酸味の値が上がるという逆の傾向を示しました。生と湯通し後の測定データを統計的にまとめると、両者ははっきり分かれました。湯通しは味の構成を一貫して変える一方で、それぞれの花の味の個性は保たれていたと、研究チームは報告しています。
おいしさだけでは測れない花の価値
著者らは考察で、今回の4種が一般的な意味では「おいしい」花ではないことにも触れています。村人の証言でも電子舌の結果でも、味の魅力は乏しいとされ、特にステファノティスとトレベシアは苦味があって好まない人も多い花です。それでも、これらの花は大切な食べ物として食べ続けられてきました。研究チームはその理由を、味そのものより、伝統や季節の巡り、地域のアイデンティティといった文化的な意味にあると考えています。
この研究は、食物繊維やミネラルに富むという栄養面の特徴と、湯通しによる味の変化を、地元の食べ方に即して示しました。花を、文化的な意味を担いながら栄養も備えた食材として見直す手がかりを与えています。
原著論文の著者・所属:Qing Zhang(College of Ethnology and Sociology Minzu University of China Beijing China; Key Laboratory of Ecology and Environment in Minority Areas (Minzu University of China), National Ethnic Affairs Commission Beijing China)、Yan Li(College of Ethnology and Sociology Minzu University of China Beijing China)、Wenqi Wang(School of Chinese Materia Medica Beijing University of Chinese Medicine Beijing China)、Miaomiao Wang(College of Life and Environmental Sciences Minzu University of China Beijing China)、Zhuo Cheng(College of Life and Environmental Sciences Minzu University of China Beijing China)、Zhengjiang Xian(Longyang Sub‐Bureau of Baoshan Administration of Gaoligongshan National Nature Reserve Yunnan China)、Yingzai Zhou(Tengchong Sub‐Bureau of Baoshan Administration of Gaoligongshan National Nature Reserve Yunnan China)、Sarana Rose Sommano(Faculty of Agriculture Chiang Mai University Chiang Mai Thailand)、Chunlin Long(College of Life and Environmental Sciences Minzu University of China Beijing China; Institute of National Security Studies Minzu University of China Beijing China; Key Laboratory of Ecology and Environment in Minority Areas (Minzu University of China), National Ethnic Affairs Commission Beijing China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Qing Zhang, Yan Li, Wenqi Wang, et al. Flowers as Dishes With Cultural Flavors: Nutritional Profiles and Taste Characteristics of Four Edible Flower Species in Yunnan, China. Food Science & Nutrition 2026-08-01. DOI: 10.1002/fsn3.72253. 原著ライセンス:CC BY.