著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Food Science & Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、肝臓に脂肪がたまり、肥満や糖尿病など心臓や代謝に関わる危険因子を伴う状態です。著者らによれば、MASLDは世界の成人の3分の1以上が抱えると推定される、ごく身近な慢性肝疾患です。食事はその発症や進行に関わる重要な環境要因の一つと考えられています。
体内の炎症を促しやすい食事の傾向を数値で表す道具として、栄養素などの構成から食事全体の炎症性を評価する「食事炎症指数(DII)」と、個々の食品の炎症性を食品成分データから評価する、より新しい「食品炎症指数(FII)」があります。ただし、FIIとMASLDの関係はまだ明らかになっていませんでした。また、インスリンが効きにくくなる状態である「インスリン抵抗性」はMASLDの中心的なしくみとされていますが、食事とMASLDの関係にどの程度関わっているかは体系的に評価されていませんでした。
そこで研究チームは、DIIとFIIの二つの指標を使って炎症を促しやすい食事とMASLDの関連を調べました。あわせて、インスリン抵抗性の指標がその関連をどの程度説明するかを検討しました。
どのように調べたか
研究チームは、米国の国民健康栄養調査(NHANES)の2001〜2018年のデータを用い、必要な情報がそろった成人1万3675人を分析しました。分析では、全米を代表する推計になるよう調査の抽出設計を考慮しています。食事の内容は、訓練を受けた調査員が前日24時間に食べたものを聞き取る方法で集められており、そこからDIIとFIIを算出しました。
MASLDの判定には、血液検査値や体格などから肝臓の脂肪蓄積を推定する指標(US-FLI)を使いました。この指標が基準値以上で、かつ心臓や代謝に関わる危険因子を一つ以上持つ人をMASLDとしています。ウイルス性肝炎や鉄の過剰、多量飲酒がある人は、肝臓の状態に別の影響が及ぶため除外されました。
インスリン抵抗性の指標には、BMIのほか、血中の中性脂肪と血糖値を組み合わせたTyG指数、さらにそれを腹囲、腹囲身長比、BMIなどの体格の情報と組み合わせた複合指標が使われました。年齢、性別、人種、収入、喫煙、運動量、肝機能、高血圧や糖尿病の有無、全身の炎症の指標などの影響を統計的に調整したうえで、関連の強さを推定しています。さらに、食事とMASLDの関連のうちどの程度がインスリン抵抗性の指標を経由していると見なせるかを、一定の仮定を置いた「媒介分析」で推定しました。
主な結果
対象者のうち2522人(28.45%)がMASLDと判定されました。各種の要因を調整した分析では、DIIもFIIも、値が高い(食事の炎症性が高い)ほどMASLDのオッズが高いという関連が見られました。DIIは1点上がるごとにオッズが約1.07倍、FIIは1点ごとに約1.04倍でした。それぞれの値で対象者を三つの群に分けると、最も高い群は最も低い群に比べて、DIIで約1.23倍、FIIで約1.26倍のオッズでした。関連は指数が高くなるにつれて強まる用量反応的な傾向を示し、明らかな非直線性は認められなかったと報告されています。
また、DIIやFIIが高いほど、調べたすべてのインスリン抵抗性の指標も高いという関連がありました。インスリン抵抗性の指標自体もMASLDと強く関連し、なかでもTyG指数と腹囲を組み合わせた指標や、腹囲身長比を組み合わせた指標(TyG-WHtR)で関連が特に強く見られました。
媒介分析では、食事の炎症性とMASLDとの関連のうち、TyG-WHtRを経由すると推定された割合が、FIIで61.5%、DIIで73.9%と、指標の中で最も大きくなりました。著者らは、この指標が代謝の乱れと内臓脂肪型の肥満という二つの側面を同時にとらえているためではないかと考察しています。
対象者を属性別に分けた分析では、全体とおおむね同じ傾向でした。ただし、現在喫煙している人や高血圧のある人では関連が弱まり、高血圧については統計的に有意な交互作用が認められました。
この研究が示すこと
著者らは、炎症を促しやすい食事がMASLDと有意に関連し、その関連の多くがインスリン抵抗性を通じて説明されると結論づけています。食事が引き起こす全身の炎症や代謝の乱れが、MASLDの成り立ちに関わっている可能性を示す結果です。
一方で、この研究は一時点の調査データに基づく横断研究であり、食事が先か病気が先かという時間的な因果関係は確かめられないと著者ら自身が述べています。測定されていない要因の影響が残る可能性や、肝臓の組織検査ではなく推定指標で判定したため初期の脂肪肝を見落としうる点も、限界として挙げられています。食事の炎症性、インスリン抵抗性、脂肪肝の三つを結びつけて全国規模のデータで示した点に、この研究の意味があるといえます。
原著論文の著者・所属:Zongbiao Tan(Department of Gastroenterology Renmin Hospital of Wuhan University Wuhan China)、Haodong He(Department of Gastroenterology Renmin Hospital of Wuhan University Wuhan China)、Yang Meng(State Key Laboratory of Ophthalmology, Zhongshan Ophthalmic Center Sun Yat‐Sen University, Guangdong Provincial Key Laboratory of Ophthalmology and Visual Science Guangzhou China)、Yu pu(Department of General Practice Renmin Hospital of Wuhan University Wuhan China)、Yanrui Wu(Department of Gastroenterology Renmin Hospital of Wuhan University Wuhan China)、Jixiang Zhang(Department of Gastroenterology Renmin Hospital of Wuhan University Wuhan China)、Weiguo Dong(Department of Gastroenterology Renmin Hospital of Wuhan University Wuhan China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zongbiao Tan, Haodong He, Yang Meng, et al. The Role of Insulin Resistance in Mediating the Association Between Proinflammatory Diets and Metabolic Dysfunction‐Associated Steatotic Liver Disease. Food Science & Nutrition 2026-08-01. DOI: 10.1002/fsn3.72203. 原著ライセンス:CC BY.