著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Animals

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

品種改良や栄養・飼養管理の進歩で、採卵鶏の産卵期間は延びています。商業的な産卵サイクルは、90週齢かそれ以上に及ぶことも多くなりました。産卵期間を長くできれば、鶏の入れ替え費用が減り、資源も効率よく使えます。ただし、およそ60週齢を過ぎると産卵率や卵の品質が徐々に落ちることが知られています。とくに卵殻や卵白の質の低下が目立つとされています。

水素を多く含む水は、抗酸化作用や抗炎症作用の可能性から、主にヒトやマウスで研究されてきました。ただ、通常の水素水には、水素が溶けにくく抜けやすいという弱点があるとされます。研究チームが用いた「オリゴメリック超微細ナノ水素水(OUHW)」は、物理的な処理で作られた水です。この処理で水分子の集まり(クラスター)を小さくし、同時に極めて細かい水素の泡(ナノバブル)を生じさせています。以前の研究では、育成期の採卵系の鶏にOUHWを与えると、群れの体格のそろい具合、抗酸化能、腸の発達などが改善したと報告されていました。しかし、産卵中の高齢の鶏への影響は分かっていませんでした。

そこで本研究では、産卵後期の鶏にOUHWを飲ませました。そのうえで、産卵成績、卵の品質と栄養成分、血液や腸の代謝、腸のバリア機能、生殖の状態を調べました。

どのように調べたか

実験は中国の養鶏会社の鶏舎で行われました。体重と産卵成績が同程度の67週齢の採卵鶏288羽を、2つのグループに無作為に分けました。各グループは、24羽ずつの6反復で構成されています。対照グループには処理していない水道水を与えました。OUHWグループには、同じ水道水から作ったOUHWを与えました。飼育期間は77週齢までの11週間です。温度、湿度、照明、自由採食などの条件は、両グループで共通です。

期間中は、産卵率、卵の数や大きさ、汚れた卵や割れた卵の割合、飼料要求率を記録しました。飼料要求率は、卵を得るのにどれだけ飼料が必要かを示す指標です。値が低いほど効率が良いことを意味します。卵については、殻の厚さや強さ、卵白の高さ、ハウユニットを調べました。ハウユニットは、卵白の高さと卵重から求める卵の品質指標です。あわせて、卵のアミノ酸と脂肪酸の組成も分析しました。

実験の終わりには、血液中の生殖ホルモン、抗酸化に関わる指標、炎症に関わる物質、抗体を測定しました。血液中の代謝物も網羅的に分析しています。さらに、盲腸の発酵産物、腸と卵管の粘膜にすむ細菌の構成、腸と卵管の組織の形、卵巣と腸での遺伝子の働き方も調べました。

主な結果

両グループの飲水量は、1羽1日あたり300〜400mLで差がありませんでした。著者らは、OUHWが鶏の飲みやすさに影響しなかったと報告しています。生産成績では、OUHWグループは調べた3つの期間(1〜4週、5〜8週、9〜11週)のいずれでも、飼料要求率が低く、産卵率が高い結果でした。5週目以降は総産卵数も多く、糞で汚れた卵の割合も低くなりました。最後の期間には、割れた卵の割合も低下しています。なお、著者らはデータを期間ごとに分けて分析しています。そのため、処理の効果が期間によって変わるかどうかを正式に検定したものではないと述べています。

卵の品質では、8週目と11週目に卵白の高さとハウユニットがOUHWグループで高くなりました。殻の厚さは、4週目と11週目に厚くなりました。一方、殻の強さはどの時点でも差がありませんでした。6週目の卵では、グルタミン酸やグリシンなど一部のアミノ酸と、うま味に関わるアミノ酸の合計が多くなりました。逆に、バリンとイソロイシンは少なくなっています。脂肪酸ではDHAが増えましたが、α-リノレン酸の減少や一部の飽和脂肪酸の増加も伴っていました。そのため著者らは、これを単純な栄養価の向上とは解釈すべきでないとしています。こうした成分の変化は主に6週目に見られ、11週目には目立たなくなりました。

血液では、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、エストラジオールがOUHWグループで高くなりました。プロゲステロンには差がありませんでした。抗酸化酵素の活性などの抗酸化指標は高まり、酸化ダメージの目安とされるMDAは低下しました。炎症を促す物質(IL-1β、IL-6、TNF-α)は低くなりました。炎症を抑える物質(IL-10)は高くなっています。代謝物の分析では、両グループで差のある30種類の代謝物が見つかりました。その中には、脂肪酸のエネルギー利用に関わるアシルカルニチン類も含まれます。著者らはこれを、代謝異常の証拠ではなく、脂質やエネルギー代謝の調節を示すものと解釈しています。

腸でも変化が見られました。空腸では、炎症を抑える物質と粘膜の抗体(分泌型IgA)が増えました。腸のバリアに関わる遺伝子(Occludin、Claudin-1、Mucin-2)の働きも高まりました。卵管でも、炎症を促す物質が減っています。盲腸では、腐敗産物とされるp-クレゾールが減り、酢酸とイソ吉草酸が増えました。ただし、イソ吉草酸の増加は、消化されなかったタンパク質の発酵が進んだ結果の可能性があります。このため著者らは、これを良い変化とはみなせないと注意を促しています。

一方で、腸の絨毛の高さなど、組織の形には差がありませんでした。盲腸内細菌の全体的な構成にも、大きな変化はありませんでした。卵巣では、ステロイドホルモンの合成に関わるStAR遺伝子の働きが高まっていました。このほか、変化した一部の腸内細菌と血液中の代謝物との間に相関が見られました。

この研究が示すこと

著者らは、OUHWが腸や卵管の組織の形を変えるのではなく、機能面に作用している可能性を示しました。具体的には、抗酸化、炎症の抑制、代謝の調節、バリア関連遺伝子の働きです。さらに、腸内細菌、その代謝物、鶏自身の代謝の結びつきが関わっているのではないかとも述べています。ただし、これらは今回の11週間の実験条件で観察された関連であり、因果関係はまだ明らかになっていません。

論文は、商業生産での有効性、経済性、長期的な安全性を評価していないと明記しています。別の鶏群や飼育条件での再現性も評価していません。そのため、実際の採卵鶏生産で役立つかどうかは確立していないとしています。本研究は、産卵後期の鶏に与える飲み水の違いが、産卵成績や体内のさまざまな指標の変化と結びつきうることを示した報告です。

原著論文の著者・所属:Baowei Wang(College of Food Science and Engineering, Qingdao Agricultural University, Qingdao 266109, China; Qingdao Huihe Biotechnology Co., Ltd., Qingdao 266109, China)、Guangpeng Chu(College of Food Science and Engineering, Qingdao Agricultural University, Qingdao 266109, China)、Mengxiao Yang(College of Animal Science and Technology, Qingdao Agricultural University, Qingdao 266109, China)、Zhigang Fan(Qingdao Londs Technology Equipment Co., Ltd., Qingdao 266109, China)、Yuanzhao Wu(Qingdao Londs Technology Equipment Co., Ltd., Qingdao 266109, China)、Binghan Wang(College of Food Science and Engineering, Qingdao Agricultural University, Qingdao 266109, China; Qingdao Huihe Biotechnology Co., Ltd., Qingdao 266109, China)、Wei Lu(Qingdao Londs Technology Equipment Co., Ltd., Qingdao 266109, China)、Shijie Fan(Beijing Huadu Yukou Poultry Industry Co., Ltd., Beijing 101206, China)、Ruilei Liu(Beijing Huadu Yukou Poultry Industry Co., Ltd., Beijing 101206, China)、Guiqin Wu(Beijing Huadu Yukou Poultry Industry Co., Ltd., Beijing 101206, China)、Mingai Zhang(College of Animal Science and Technology, Qingdao Agricultural University, Qingdao 266109, China)、Wenlei Fan(College of Animal Science and Technology, Qingdao Agricultural University, Qingdao 266109, China)、Tiejun Chen(College of Food Science and Engineering, Qingdao Agricultural University, Qingdao 266109, China)、Jing Wang(Feed Research Institute of Chinese Academy of Agricultural Sciences, Beijing 132011, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Baowei Wang, Guangpeng Chu, Mengxiao Yang, et al. Effects of Oligomeric Ultrafine-Nano Hydrogen Water on Laying Performance, Egg Quality, Nutrient Composition, and Intestinal and Reproductive Responses in Late-Laying Hens. Animals 2026-08-24. DOI: 10.3390/ani16172658. 原著ライセンス:CC BY.