著者の所属・活動拠点の国は、ポルトガルです。
掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文掲載ページ
研究の目的:ワイン造りの副産物をパンに生かせるか
パンは世界中で日常的に食べられ、炭水化物とエネルギーの重要な供給源です。一方、精製した小麦粉で作る一般的なパンには、ポリフェノールや食物繊維といった成分があまり含まれていないと論文は指摘しています。
ワイン造りでは、ブドウを搾った後に皮・種・果肉の残りからなる「搾りかす(ブドウ搾りかす)」が大量に出ます。著者らによると、これは処理するブドウの重さの約25%を占め、家畜飼料や堆肥などの付加価値の低い用途に回されることが多いものの、食物繊維や抗酸化成分を豊富に含んでいます。この副産物を食品の材料として活用することは、資源を循環させる「循環型経済」の考え方にも合う方法とされています。
これまでにも搾りかすをパンなどに加える研究はありましたが、種だけや皮だけ、あるいは1種類の搾りかすを使ったものが多く、赤ブドウと白ブドウの搾りかすを同じパンの配合で直接比べた例は少ないと著者らは述べています。そこで研究チームは、皮・種・果肉を分けずに丸ごと粉にした搾りかすを使い、赤と白の違いや加える量の違いが、パンの抗酸化能や栄養成分、色、硬さ、酸性度、そして食べた人の好みにどう影響するかを総合的に調べました。
どのようにパンを作り、調べたのか
使われたのは、ポルトガル・アレンテージョ地方で有機栽培された赤ブドウ品種「アリカンテ・ブーシェ」と白ブドウ品種「アリント」の搾りかすです。搾りかすは60℃で12時間乾燥させた後、粉砕してふるい、粉にしました。
パンは、小麦粉の5%、10%、15%(重量比)をこの搾りかす粉に置き換えて作り、搾りかすを加えない対照のパンと合わせて計7種類を用意しました。塩、酵母、水などほかの材料はすべて同じ量にそろえ、違いが搾りかす粉の種類と量だけになるようにしています。パン作りには業務用の発酵庫やオーブンが使われ、各配合について3回ずつ独立して製造されました。
できたパンについて、たんぱく質、脂質、糖、食物繊維、ポリフェノールの総量、抗酸化能、色、硬さ、pH(酸性度の指標)を測定しました。抗酸化能は、性質の異なる2種類の方法(DPPH法とORAC法)で評価しています。どちらも、試料が体に有害とされる「活性酸素」などに似た反応性の高い物質をどれだけ打ち消せるかを試験管内で測るものです。成分や抗酸化能の値は、水分を除いた重さ当たりで示されています。さらに、大学の学生・職員28人に、搾りかす入りの6種類のパンを食べてもらい、見た目や風味などを9段階で評価してもらいました。
主な結果:抗酸化能や食物繊維は増えたが、量が多いと食べやすさは低下
搾りかすを加えたパンでは、たんぱく質、脂質、食物繊維が対照より多くなりました。特に赤ブドウの搾りかすを15%加えたパンで値が高く、食物繊維は対照の4.46%から10.45%に、たんぱく質は4.40%から5.50%になったと報告されています。糖の量は搾りかすの種類で傾向が分かれ、赤では対照より低くなった一方、白では加える量が増えるほど多くなりました。
抗酸化に関わる指標は、3つの測定すべてで対照のパンが最も低い値でした。ポリフェノールの総量とORAC法による抗酸化能は、赤ブドウの搾りかすを15%加えたパンで最も高く、ORAC法の値は対照のおよそ6.7倍に達しました。一方、DPPH法では白ブドウの搾りかすを10%加えたパンが最も高い値を示しました。全体として、加える量が多いほど抗酸化能が高まる傾向がみられ、ポリフェノールの量が多いパンほど抗酸化能も高いという関係も確認されています。
一方で、パンの性質にも変化が表れました。赤ブドウの搾りかすを加えたパンは、外側も内側も目に見えて暗い色になり、白ブドウでは色の変化は比較的小さく抑えられました。パンの硬さは搾りかすを加えると増し、赤を15%加えたパンでは対照の約3倍の硬さになりました。著者らは、食物繊維やポリフェノールが多いことで、パンのふくらみを支えるグルテンの網目構造の形成や水分の分布が妨げられ、詰まった硬い生地になった可能性を挙げています。また、搾りかすを加えるほどpHが下がり、パンがより酸性に傾きました。
試食評価では、搾りかすを5%加えたパン、とりわけ赤ブドウの5%のパンが、見た目、色、香り、食感、風味、総合的な好ましさの多くの項目で最も高い評価を受けました。15%加えたパンは、赤・白どちらも一貫して最も低い評価でした。なお、この試食評価は一般的なパンとの好みの比較ではなく、搾りかす入りのパンそのものが受け入れられるかをみる目的で行われたため、対照のパンは含まれていません。
研究が示すこと
この研究は、ワイン造りで大量に出るブドウの搾りかすを丸ごと粉にしてパンに加えることで、パンのポリフェノール量や抗酸化能、食物繊維を高められることを示しました。同時に、加える量が多いと色が濃くなり、硬くなり、食べた人の評価も下がるという、栄養面の強化と食べやすさとの間の兼ね合いも明らかになりました。
著者らは、赤ブドウの搾りかすを5%加えたパンが、成分の強化と味や見た目のよさとのバランスが最もよかったとしています。捨てられがちな副産物を身近な主食の材料として生かす一つの方法を、具体的な配合の比較を通じて示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Daniela Freitas(Department of Technologies and Applied Sciences, Polytechnic Institute of Beja, Beja, Portugal)、Daniela Freitas(Earth Sciences Department, NOVA School of Science and Technology, Caparica, Portugal)、Ana Rita F. Coelho(Earth Sciences Department, NOVA School of Science and Technology, Caparica, Portugal)、Ana Rita F. Coelho(GeoBioTec Research Center, NOVA University Lisbon, Caparica, Portugal)、João Dias(Department of Technologies and Applied Sciences, Polytechnic Institute of Beja, Beja, Portugal)、João Dias(GeoBioTec Research Center, NOVA University Lisbon, Caparica, Portugal)、João Dias(MED – Mediterranean Institute for Agriculture, Environment and Development &CHANGE – Global Change and Sustainability Institute, University of Évora, Évora, Portugal)、Manuela Simões(Earth Sciences Department, NOVA School of Science and Technology, Caparica, Portugal)、Manuela Simões(GeoBioTec Research Center, NOVA University Lisbon, Caparica, Portugal)、Miguel Floro(Department of Technologies and Applied Sciences, Polytechnic Institute of Beja, Beja, Portugal)、Ana Coelho Marques(Earth Sciences Department, NOVA School of Science and Technology, Caparica, Portugal)、Ana Coelho Marques(GeoBioTec Research Center, NOVA University Lisbon, Caparica, Portugal)、Manuela Lageiro(Earth Sciences Department, NOVA School of Science and Technology, Caparica, Portugal)、Manuela Lageiro(GeoBioTec Research Center, NOVA University Lisbon, Caparica, Portugal)、Manuela Lageiro(INIAV, National Institute of Agricultural and Veterinary Research, Oeiras, Portugal)、Olga Amaral(Department of Technologies and Applied Sciences, Polytechnic Institute of Beja, Beja, Portugal)、Olga Amaral(GeoBioTec Research Center, NOVA University Lisbon, Caparica, Portugal)、Olga Amaral(MED – Mediterranean Institute for Agriculture, Environment and Development &CHANGE – Global Change and Sustainability Institute, University of Évora, Évora, Portugal)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Daniela Freitas, Daniela Freitas, Ana Rita F. Coelho, et al. Can incorporating grape pomace into bread sustainably enhance its antioxidant capacity?. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-10-01. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1984250. 原著ライセンス:CC BY.