この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の狙い:遺伝的背景をそろえて「色の違い」だけを比べる

イネの種皮(果皮)には色の違いがあり、黒米はアントシアニン、赤米はプロアントシアニジンという色素成分を蓄えます。どちらも植物由来の抗酸化成分として知られ、機能性食品の素材として関心を集めてきました。このうち、両方の色素を同時に蓄える「二重着色米」はきわめてまれなタイプだと論文は説明しています。中国の533品種を調べた先行調査では、白米が85.4%、赤米が13.5%、黒米はわずか1.1%(6品種)で、そのなかで両方の色素を蓄えられるものは1品種だけだったと紹介されています。

これまでの比較研究には難しさがありました。比べる品種どうしの遺伝的な性質がもともと違うため、「果皮の色による違い」と「品種そのものの違い」を切り分けにくかったのです。そこで著者らは、黒米品種「華墨香5号(HMX)」をもとに、遺伝的によく似たまま果皮の色だけが異なる系統をそろえ、同じ条件で育てて比較する方針をとりました。

どのように調べたか

研究チームは、黒米HMXを母、赤米系統HHZ-Rcを父として交配し、HMXへの戻し交配とDNAマーカーによる選抜を重ねて、アントシアニンとプロアントシアニジンの両方を蓄える系統BRHMXと、プロアントシアニジンのみを蓄える赤米系統RHMXを作り出しました。さらに、HMXの宇宙飛行由来の突然変異体から、どちらの色素も蓄えない白米系統WHMXを得て自殖で安定化させました。ゲノム全体のSNP解析では、HMXとの遺伝的な似通いはBRHMXが98.04%で最も高く、WHMXが95.76%、RHMXが93.56%と報告されています。

4系統は2024年5月、中国・武漢の試験圃場に乱塊法で3反復ずつ植え付け、施肥や水管理、害虫防除を全区で同一にそろえ、同年9月下旬に収穫しました。粒の形や大きさ、デンプン・アミロース・タンパク質・アミノ酸・脂肪酸といった主要成分を測定したうえで、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)でアントシアニン、プロアントシアニジン、50種の可溶性フェノール酸を定量しました。抗酸化能は、ABTS法とFRAP法という2種類の化学的な測定法で評価しています。加えて、受粉後10日目の果皮と成熟種子を対象に網羅的な代謝物解析(メタボローム)と遺伝子発現解析(トランスクリプトーム)を行い、炊飯後の試料でも色素・総フェノール量・抗酸化能を測りました。

報告された主な結果

色素の量には明確な違いが出ました。HMXはアントシアニンを0.92 mg/g含む一方、プロアントシアニジンは検出されませんでした。BRHMXはアントシアニン0.74 mg/gとプロアントシアニジン3.21 mg/gの両方を蓄え、RHMXはプロアントシアニジン1.58 mg/gのみ、WHMXはどちらも含みませんでした。つまりBRHMXは、HMXのアントシアニン量の80.4%を保ちながら、プロアントシアニジンはRHMXより103%多かったと報告されています。

一方で、粒の長さや幅には4系統間で有意な差は認められず、総デンプン、アミロース、総タンパク質、17種のアミノ酸組成にも有意差はありませんでした。果皮の色の違いは、こうした主要な栄養成分には大きく影響しなかったという結果です。ただし脂肪酸組成には違いがみられ、BRHMXとRHMXではオレイン酸(C18:1)やリノール酸(C18:2)といった不飽和脂肪酸の割合が高く、WHMXではパルミチン酸(C16:0)の割合が高い傾向が示されました。著者らは、その仕組みについてはさらに調べる必要があるとしています。

フェノール類と抗酸化能では、BRHMXが最も高い値を示しました。総フェノール量はBRHMXが4系統中で最多で、RHMX、HMXが続き、WHMXが最も低い水準でした。定量した50種の可溶性フェノール酸のうち31種でBRHMXが最も多く、WHMXは35種で最も少ない値でした。抗酸化能はBRHMXがHMXに比べABTSで1.25倍、FRAPで1.51倍高く、RHMXはHMXよりABTSで21.68%、FRAPで53.54%低い値でした。WHMXはHMXのABTS活性の17.48%、FRAP活性の9.12%にとどまりました。なお、ここで示されているのは試験管内での化学的な抗酸化能の指標です。

成熟種子の代謝物解析では、確度の高い1599種の代謝物が8つの大分類に整理され、シキミ酸・フェニルプロパノイド系の化合物が32.08%と最も大きな割合を占めました。系統間で差のあった代謝物のうちフラボノイド類は25.95〜35.71%を占め、フラボノイド生合成・フラボノール生合成・アントシアニン生合成の経路が、すべての比較で一貫して有意に集積していました。著者らは、代謝物と遺伝子発現の統合解析から、果皮の発達初期にアントシアニン合成経路とプロアントシアニジン合成経路のあいだで代謝の流れが振り分けられている可能性を示唆しています。これは示唆であり、確定した結論として述べられているわけではありません。

炊飯による変化も測られました。アントシアニンはBRHMXで48.65%、HMXで51.09%減り、プロアントシアニジンはBRHMXで67.29%、RHMXで67.72%減少しました。総フェノール量はBRHMX、HMX、RHMX、WHMXでそれぞれ60.93%、24.07%、58.43%、39.43%減少し、ABTS抗酸化能も48.85%、29.59%、60.94%、89.17%と低下しました。FRAP抗酸化能はBRHMX、HMX、RHMXで47.20%、10.20%、55.10%減少し、WHMXの7.97%の低下は有意ではありませんでした。全体として、加熱調理によって有効成分と抗酸化能は減るものの、減り方の大きさは系統によって異なったと報告されています。

この研究が示すこと

遺伝的背景をそろえた系統を使ったことで、果皮の色の違いが何に影響し、何には影響しないのかを切り分けて示せたのが、この研究の要点です。黒米と赤米の両方の色素を併せ持つBRHMXは、粒の形や主要な栄養成分を大きく変えることなく、フェノール類の量と化学的な抗酸化能において4系統中で最も高い値を示しました。著者らは、この新しい二重着色米系統が、従来の黒米と赤米に結びつけられてきた特徴をあわせ持つものであり、全粒米製品の開発に向けた有用な遺伝資源になると結論づけています。

著者:ZiJin Weng(National Key Laboratory of Crop Genetic Improvement, Hubei Hongshan Laboratory, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China)、Wenjun Wei(National Key Laboratory of Crop Genetic Improvement, Hubei Hongshan Laboratory, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China)、董发明(National Key Laboratory of Crop Genetic Improvement, Hubei Hongshan Laboratory, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China)、Yilong Yao(National Key Laboratory of Crop Genetic Improvement, Hubei Hongshan Laboratory, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China)、Yanhua Li(National Key Laboratory of Crop Genetic Improvement, Hubei Hongshan Laboratory, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China)、Qinglu Zhang(National Key Laboratory of Crop Genetic Improvement, Hubei Hongshan Laboratory, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China)、Xu Li(National Key Laboratory of Crop Genetic Improvement, Hubei Hongshan Laboratory, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China)、Yuqiong Zhou(National Key Laboratory of Crop Genetic Improvement, Hubei Hongshan Laboratory, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China)、林拥军(National Key Laboratory of Crop Genetic Improvement, Hubei Hongshan Laboratory, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China)、Hao Chen(National Key Laboratory of Crop Genetic Improvement, Hubei Hongshan Laboratory, Huazhong Agricultural University, Wuhan 430070, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):ZiJin Weng, Wenjun Wei, 董发明, et al. Dual-Pigmented Rice: A Dual-Pigmented Whole Grain with Enhanced Nutritional and Antioxidant Properties. Foods 2026-10-02. DOI: 10.3390/foods15193530. 原著ライセンス:CC BY.