日本関連:この研究は海外機関を中心とする国際共同研究で、日本の研究機関に所属する共著者が参加しています。参加国はインドネシア、日本です。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
なぜ「壊さずに測る」方法が求められるのか
カイエンペッパー(キダチトウガラシ)は、特にアジアの多くの国で経済的に重要な園芸作物です。消費者は見た目だけでなく、果実に含まれる成分にも関心を寄せます。その代表が、赤い色のもとになるカロテノイドの一種「リコピン」と、果実が持つ抗酸化能(不安定な分子であるフリーラジカルを打ち消す働きの強さ)です。これらの成分量は、品種や熟し具合、栽培環境によって変わります。そのため、出荷される果実の品質をそろえるには、成分の監視が欠かせません。
ところが従来の分析では、果実をすりつぶし、薬品で成分を抽出してから測定します。手間と時間がかかり、測った果実は使えなくなります。インドネシア・パジャジャラン大学の研究チームは、果実に光を当てて反射光を読み取るだけで、これらの成分量を推定できるかを検証しました。この「可視・近赤外分光法(Vis-NIR)」は果実を壊さない測定法です。著者らによると、この分光法と機械学習の手法「サポートベクターマシン(SVM)」を組み合わせて、カイエンペッパーのリコピン量と抗酸化能を予測した報告は、これまでありませんでした。
どのように調べたのか
研究チームは、大学の実験農場で栽培した2品種(「マニック」と「ドンバ」)の果実を使いました。果実は色で分けた3つの熟度(緑・オレンジ・赤)で収穫し、各品種・各熟度15試料ずつ、計90試料をそろえました。黒い背景の上に置いた試料には、約381〜1065ナノメートルの波長範囲の光を上下左右と中央の5か所から当てて反射を測りました。5か所の平均を、その試料の代表的な「スペクトル」(波長ごとの光の吸収の様子)としました。
光を測った後の果実は乾燥させて粉末にし、従来の化学分析で実際の成分量を測りました。リコピンは溶媒で抽出し、分光光度計で定量しました。抗酸化能は、DPPHという試薬の色が抗酸化物質によって薄れる程度から求め、没食子酸という標準物質に換算して表しました。こうして得た「実測値」と光のスペクトルの対応関係をSVMに学習させ、光のデータから成分量を予測するモデルを作りました。スペクトルにはノイズや表面での光の散乱の影響が含まれます。そこで、モデル作成の前に複数の補正処理を試し、結果を比べました。
主な結果
研究チームはまず、スペクトルのデータで試料を品種と熟度の6グループに分けられるかを調べました。グループ分けには、判別分析(LDA)という統計手法を使いました。その結果、90試料のうち89試料が正しく分類され、全体の正答率は98.89%と報告されています。誤分類された1試料は、オレンジ色の「マニック」が赤い「ドンバ」と判定された例でした。著者らは、この2つのグループで色素の組成が似ていたためではないかと考えています。
成分量の予測では、補正処理のうち「直交信号補正(OSC)」を施した場合に、リコピン量・抗酸化能ともに最も良い結果が得られました。このモデルの作成には、極端に外れた値を示した試料を除いた60試料が使われています。モデルの性能は、データを10分割して順に検証用に回す「交差検証」で確かめました。リコピン量では、予測値と実測値の相関係数Rが、モデル作成時に0.99、交差検証で0.95でした。予測の信頼性を示す指標RPDは3.24でした。抗酸化能ではRが0.92と0.85、RPDは1.95で、リコピンより精度は控えめでした。
著者らは、リコピンの予測精度が高い理由として、可視光の領域が赤やオレンジの色素の吸収をとらえやすいことを挙げています。一方、抗酸化能はリコピンやカプサイシン、ビタミンCなど多様な成分が合わさった性質です。そのため信号が重なり合い、予測が難しくなったと考察しています。
この研究が示すこと
この研究は、果実に光を当てて得たスペクトルから、カイエンペッパーのリコピン量と抗酸化能をある程度の精度で推定できる可能性を示しました。品種や熟度の違いもスペクトルに反映されていました。著者らは、薬品を使わず迅速に測れるこの方法を、従来の破壊的な分析に代わる品質管理の選択肢として位置づけています。
ただし、著者ら自身が限界も明記しています。試料数と品種が限られ、すべての試料が1か所で採取されたこと。独立した別の試料群による検証を行わず、交差検証のみで評価したこと。外れ値として一部の試料を除外したため、モデルの頑健さや汎用性に影響しうること。著者らは、より多様な品種や産地を含む大きなデータで確かめるまで、このモデルをカイエンペッパー全般に当てはめることはできないとしています。今回の成果は、非破壊での品質評価に向けた有望な手がかりを示した段階の報告といえます。
原著論文の著者・所属:Ine Elisa Putri(Doctoral Program of Agricultural Science, Faculty of Agriculture, Universitas Padjadjaran, Sumedang, 45363, Indonesia)、Kusumiyati Kusumiyati(Department of Agronomy, Faculty of Agriculture, Universitas Padjadjaran, Sumedang, 45363, Indonesia)、Yuda Hadiwijaya(Yunosato Aquaphotomics Laboratory, Hashimoto, 648-0086, Japan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ine Elisa Putri, Kusumiyati Kusumiyati, Yuda Hadiwijaya. Phytochemical-based quality control of cayenne pepper using spectroscopic monitoring of lycopene content and antioxidant capacity. Scientific Reports 2026-10-23. DOI: 10.1038/s41598-026-75424-0. 原著ライセンス:CC BY.