著者の所属・活動拠点の国は、ケニアです。

掲載誌:Journal of Food Innovation, Nutrition, and Environmental Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

ケニアの多くの地域では、子どものたんぱく質・エネルギー不足による栄養不良が今も大きな公衆衛生上の課題とされています。離乳期の子どもや学齢期の子どもの日々の食事は穀物が中心ですが、穀物はエネルギーが多い一方で、たんぱく質や微量栄養素が少ない傾向があります。研究チームが対象としたケニア東部のサラカ・ニシ郡は半乾燥地域で、世界保健機関(WHO)の区分では発育阻害の割合が「非常に高い」水準にあると論文は紹介しています。

穀物のたんぱく質には、リシンなど一部の必須アミノ酸が不足しがちという弱点があります。一方、豆類はリシンが豊富で、穀物に多いメチオニンが少ないため、両者を組み合わせると互いの不足を補い合えることが知られています。そこで著者らは、地元で手に入るパールミレット(トウジンビエ)、ソルガム(モロコシ)、キマメ(ピジョンピー)を使い、幼い子ども向けの補完食(離乳期に母乳などと併せて与える食事)に使える、たんぱく質の豊富な混合粉を作ることを目指しました。そして、キマメ粉とソルガム粉を加えることで、たんぱく質量、試験管内でのたんぱく質の消化されやすさ、保存中の品質の目安がどう変わるかを調べました。

どのように調べたか

材料の穀物と豆は、同じ地元の業者から一度にまとめて購入しました。ミレットとソルガムは洗浄・乾燥してそのまま粉にしました。キマメは、消化や栄養の吸収を妨げる成分(抗栄養因子)を減らすために一晩(12時間)水に浸け、30分ゆでてから乾燥させ、粉にしました。

混合粉の配合では、まずキマメ粉を全体の0、15、30、45、60%の5段階で加えました。残りの部分については、その0、20、40%をソルガム粉に置き換え、残りをミレット粉としました。このため、ソルガムの実際の割合はキマメの量によって変わります。研究チームは、この構造を考慮した統計手法で結果を分析しました。

作った混合粉について、たんぱく質の含有量を測りました。さらに、胃と腸の消化酵素(ペプシンとトリプシン)を試験管内で作用させ、たんぱく質がどれだけ分解されるかを示す「試験管内たんぱく質消化率」を調べました。保存試験では、紙で包んだ粉を密閉できるプラスチック容器に入れ、65日間保管しました。0、16、34、45、65日目に、酸の量の目安となる滴定酸度とpH、そして酵母とカビの数を測定しました。保管中の平均温度は約25.2℃、平均湿度は約55.5%でした。

主な結果

原料のたんぱく質含有量は、ミレットが約11.8%、ソルガムが約12.2%、キマメが約18.9%でした。キマメを加えるほど混合粉のたんぱく質量は増え、キマメなしの約11.8%から、キマメ60%では約16.0%に上がりました。試験管内たんぱく質消化率も、キマメなしの約35.0%から、キマメ60%では約46.3%へと統計的に有意に高まりました。一方、ソルガムの割合を変えても消化率に統計的に有意な差は見られませんでした。

ただし、混合粉の消化率は、キマメ粉単独について他の研究で報告されている値よりも低くとどまりました。著者らはその理由として、次の点を挙げています。ソルガムやミレットのたんぱく質がもともと消化されにくいこと。ミレットとソルガムは加熱せずに粉にしたため、抗栄養因子が残っていた可能性があること。たんぱく質とでんぷんや食物繊維との結びつきが、酵素の働きを妨げた可能性があること。

保存に関する指標では、キマメの割合が高いほど滴定酸度が上がり、pHが下がりました。著者らは、キマメに含まれるリンゴ酸などの有機酸が影響したと考えています。保存期間中は、滴定酸度が0日目から65日目にかけて約2倍に増え、pHは6.55から6.32へわずかに下がりました。研究チームは、このpHの変化は0.5未満と小さく、粉の品質への影響は小さいとみています。酵母とカビの数は、65日間を通じて東アフリカ共同体(EAC)がミレット粉に定める上限(1グラムあたり10の4乗個)を十分に下回りました。保存の途中で菌数が減ったり、後半にやや増えたりする変化も見られましたが、著者らはその仕組みは今回の測定では確かめられないとしています。

この研究が示すこと

この研究は、地元で手に入るキマメをミレット中心の粉に加えると、たんぱく質の量と試験管内での消化されやすさの両方が高まることを示しました。また、実験室での65日間の保存では、酵母とカビの数が基準内に収まっていました。著者らは、キマメが穀物ベースの補完食用の粉のたんぱく質の質を高める身近な材料になりうると結論づけています。

一方で論文は、いくつかの限界も明記しています。消化率は試験管内の値で、人の体内での消化や吸収をそのまま表すものではありません。保存中の品質は限られた指標でしか評価しておらず、脂質の酸化、風味などの官能評価、カビ毒は調べていません。また、結果は単一の包装を使った実験室条件でのものです。今回の成果は、身近な作物を組み合わせて補完食の材料を改良するための基礎的な手がかりといえます。

原著論文の著者・所属:Catherine Nzisa Mwangangi(Chuka University)、Jackin Njagi Nanua(Department of Food Technology , Chuka University , P.O. Box 109 -60400 , Chuka , Kenya)、Willy Kiboi(Department of Nursing , Chuka University , P.O. Box 109 -60400 , Chuka , Kenya)、Johnson Mwove(Department of Food Technology , Chuka University , P.O. Box 109 -60400 , Chuka , Kenya)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Catherine Nzisa Mwangangi, Jackin Njagi Nanua, Willy Kiboi, et al. Effect of Pigeon Pea and Sorghum Flour Supplementation on Protein Content, In Vitro Protein Digestibility, and Selected Storage Quality Indicators of Millet Flour Blends. Journal of Food Innovation, Nutrition, and Environmental Sciences 2026-09-04. DOI: 10.70851/jfines.2026.3(3).348.361. 原著ライセンス:CC BY.