著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。
掲載誌:Colloids and Surfaces A Physicochemical and Engineering Aspects
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
Lactiplantibacillus plantarum(ラクチプランチバチルス・プランタルム)は、発酵食品や微生物を使った製剤に利用される乳酸菌です。こうした細菌を安定させる工夫は、これまで主に「どれだけ生き残ったか」という全体の生存数で評価されてきました。しかし著者らによると、ストレスを受けた細菌の集団は、活発に代謝している細胞、傷ついた細胞、休眠状態の細胞などに分かれます。そのため、培養して数えられる菌が残っていても、活発な細胞が保たれているとは限りません。
リポソームは、脂質でできた小さな袋状の粒子です。組成や表面の電荷を調整でき、水に溶けにくい化合物を取り込める性質があります。プロバイオティクスの分野では、主に菌を守る運び手や被覆材として研究されてきました。一方、菌の外側に寄り添うことで菌の生理状態を変えうるかどうかは、よく分かっていませんでした。そこで研究チームは、マイナスの電荷を持つ脂質DOPGでリポソームを作りました。このリポソームを菌と一緒に分散させ、冷蔵保存中に菌の状態がどう変わるかを調べました。
何を比べたか
比較した条件は3つです。1つ目は菌だけの対照です。2つ目は、何も載せていないDOPGリポソームと菌を混ぜたものです。3つ目は、脂溶性の化合物フルバスタチンを加えて調製したDOPGリポソームと菌を混ぜたものです。いずれも4℃で28日間保存し、時間を追って状態を調べました。
菌の状態の分類には、フローサイトメトリーを使いました。これは、細胞を1個ずつ流して蛍光を測る方法です。研究チームは2種類の染色を組み合わせました。一方は細胞内の還元活性を、もう一方は膜が壊れているかどうかを示します。これにより、菌を「活性」「損傷」「休眠」「死」の4つの状態に分けました。あわせて、色素を還元する能力をAlamarBlue法とMTT法で測りました。ストレス応答に関わる酵素であるグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)の活性も測定しました。さらに、リポソームと菌の配置を3つの方法で調べました。粒子の表面電荷を表すゼータ電位、粒子の大きさの分布、そして凍らせた試料を観察するクライオ電子顕微鏡です。
主な結果
菌だけの対照では、保存期間を通じて損傷細胞と死細胞が大半を占めました。活性細胞の割合は、1日目の1.33%から28日目には0.17%まで下がりました。同じ28日目に、死細胞は60.30%に達しました。
何も載せていないリポソームと混ぜた系では、保存中期に活性細胞が増えました。その割合は7日目に11.87%、14日目に20.93%でした。ただし28日目には活性細胞が2.87%に下がり、死細胞は81.03%に増えました。著者らは、中期の衰えを遅らせたものの、後期の低下は防げなかったとしています。
フルバスタチンを加えて調製したリポソームの系では、状態の分布が最も大きく変わりました。活性細胞は、1日目の7.62%から7日目に33.80%、14日目に31.79%まで増えました。28日目には2.57%に下がりました。それでも1ミリリットルあたりの活性細胞の数は3.54×10⁵個を保ち、他の2つの系を上回りました。
色素を還元する能力について、著者らはリポソームを含む系で還元能力が保たれたと報告しています。GST活性は、リポソームを含む2つの系で、保存期間を通じて対照より低い値でした。ゼータ電位はすべての系でマイナスでした。リポソームを含む系では最初の1週間、対照よりマイナスが強く、その後は同程度に近づきました。クライオ電子顕微鏡では、菌の表面やその近くに小胞のような構造が見られました。著者らはこれを、リポソームが菌を連続した膜で覆うのではなく、菌の周囲に不均一に存在する配置と一致すると解釈しています。
結果の意味と留意点
この研究は、生き残った菌の数だけでは見えない、菌集団内の状態の違いに注目しました。そのうえで、菌の外側にあるリポソームの有無と組成によって、冷蔵保存中の状態の分布が変わることを示しました。
一方で、著者らは解釈を慎重に限定しています。今回示されたのは、リポソームの配置と菌の状態変化との関連です。具体的な分子の仕組みや作用の標的を直接示したものではありません。リポソームに結びついたフルバスタチンの量や所在は確かめられていません。また、薬そのものの作用と、製剤の作り方による影響も区別できていません。フルバスタチンを加えた系は、活性細胞の増加では最も目立ちました。しかし還元能力とGSTの測定では、何も載せていない系を常に上回ったわけではありませんでした。さらに著者らは、GSTの低下は酸化ストレスそのものを直接測った結果ではないとも述べています。
原著論文の著者・所属:Natalia Burlaga(Institute of Chemical Technology and Engineering, Poznan University of Technology, Poznan, Poland; MiCo Scientific Sp. z o. o., Poznan, Poland)、Paulina Laufer(Institute of Chemical Technology and Engineering, Poznan University of Technology, Poznan, Poland)、Adam Grzywaczyk(Institute of Chemical Technology and Engineering, Poznan University of Technology, Poznan, Poland; MiCo Scientific Sp. z o. o., Poznan, Poland)、Wojciech Juzwa(Department of Biotechnology and Food Microbiology, Faculty of Food Science, Poznan University of Life Sciences, Poznan, Poland)、Ewa Kaczorek(Institute of Chemical Technology and Engineering, Poznan University of Technology, Poznan, Poland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Natalia Burlaga, Paulina Laufer, Adam Grzywaczyk, et al. Anionic DOPG liposomal biointerfaces modulate physiological heterogeneity in Lactiplantibacillus plantarum. Colloids and Surfaces A Physicochemical and Engineering Aspects 2026-10-29. DOI: 10.1016/j.colsurfa.2026.142228. 原著ライセンス:CC BY.