著者の所属・活動拠点の国は、スペイン、イタリアです。

掲載誌:Animals

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:在来品種を「使いながら守る」方法を探る

鶏肉は世界で最も多く生産・消費されている動物性たんぱく質です。その生産は、少数の高度に改良された商業用の系統に支えられてきました。その一方で在来品種の利用は減り、鶏の生産全体を支える遺伝的な幅が狭まっていることが、長期的な持続性の面から懸念されています。在来品種は、丈夫さや環境への適応力、特徴ある肉質を備えた貴重な遺伝資源とされています。

スペイン南東部の在来品種「ムルシアナ」もそうした品種の一つですが、成長が遅く生産性が低いことが、経済的な競争力の妨げになっています。著者らによると、在来品種と商業鶏の交雑はほかの鶏集団では調べられてきたものの、ムルシアナでは前例がなく、著者らの知る限りスペインの他の在来鶏でも報告がありません。

そこで研究チームは、ムルシアナを中速成長の商業交雑鶏と掛け合わせると、在来品種より生産性が上がり、なおかつ在来品種らしい体のつくりや肉の性質の一部が残るのかを確かめようとしました。

何を調べたか:3つの遺伝的グループを同じ体重で比較

比較したのは、在来品種のムルシアナ、中速成長の商業交雑鶏(ハバードJA757)、そして両者の交雑第1世代(F1)の3グループです。交雑鶏は、ムルシアナの雄と商業鶏の雌を交配して得ました。この向きを選んだのは、体重の軽いムルシアナの雄のほうが、自然交配の際に雌がけがをする危険が小さいと考えられたためです。

試験には雄のみが用いられ、ムルシアナ54羽、交雑鶏54羽、商業鶏66羽が対象になりました。3グループは別々に飼育され、同じ年齢ではなく、あらかじめ定めた共通の目標体重に達した時点で出荷・処理されました。研究チームは、1日あたりの体重増加や飼料の効率といった成長の指標に加え、むね肉やもも肉の割合などの枝肉(食肉として処理した体)の特徴、肉の色、pH、保存や加熱で失われる水分、食感を機械で測った硬さ、もも肉のたんぱく質・脂肪の量や脂肪酸の組成を調べました。

主な結果:成長は大きく改善し、肉の性質は一部が在来品種寄りに

1日あたりの体重増加は、ムルシアナが最も小さく、交雑鶏が中間、商業鶏が最も大きいという結果でした。そのため目標体重に達した日齢は、ムルシアナが126日、交雑鶏が78日、商業鶏が53日でした。飼料の効率も、ムルシアナ、交雑鶏、商業鶏の順に良くなる傾向が見られましたが、記録が群単位で数が少ないため、統計的な差としては確認されていないと論文は説明しています。

枝肉の重さと歩留まり(体重に対して食肉として得られる割合)は、交雑鶏がムルシアナより高く、商業鶏より低い、ほぼ両親の中間の値でした。とくに差が大きかったのはむね肉の割合で、商業鶏が最も高く、交雑鶏はムルシアナより高いものの、商業鶏よりもムルシアナに近い値でした。脚の部位の割合は、逆に商業鶏で低くなりました。

肉の性質はより複雑でした。むね肉の保存中や加熱時に失われる水分は、ムルシアナが最も少なく、商業鶏が最も多く、交雑鶏はおおむね中間でした。加熱による損失では、交雑鶏はムルシアナに近い値でした。機械で測った硬さなどの食感の指標は、交雑鶏とムルシアナが同程度で、商業鶏ではより高い値でした。肉の色は部位によって傾向が異なり、交雑鶏が単純に両親の中間になるわけではありませんでした。

もも肉の成分では、脂肪の割合がムルシアナ、交雑鶏、商業鶏の順に高くなり、たんぱく質の割合は逆の順になりました。脂肪酸の組成では、多価不飽和脂肪酸の割合がムルシアナと交雑鶏で商業鶏より高く、n-6系とn-3系の脂肪酸の比はムルシアナと交雑鶏で商業鶏より低いと報告されています。

研究が示す意味:保全を補う一つの手段として

著者らは、交雑鶏はすべての特徴で両親の単純な中間になったのでも、商業鶏と同じ性質になったのでもなく、特徴ごとに異なる反応を示したとまとめています。成長の速さと枝肉の歩留まりは大きく改善した一方、体のつくりや食感、脂質に関わるいくつかの性質は、商業鶏よりムルシアナに近いまま残りました。

ただし著者らは、比較を同じ年齢ではなく同じ体重で行ったためグループ間で体の成熟度が異なること、飼料計画が商業鶏向けのものだったこと、交配の向きが一方向で雄だけを調べたことを、結果を解釈する際の注意点として挙げています。

論文は、交雑は純粋な在来品種の保全に代わるものではなく、在来品種を利用しながら守る取り組みを補う手段になりうると位置づけています。在来の遺伝資源を経済的に活かす道を探るうえで、生産性と在来品種らしさのバランスを具体的なデータで示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Laura Martínez-Martínez(Department of Agricultural Engineering, Universidad Politécnica de Cartagena Member of European University of Technology EUT+, Paseo Alfonso XIII 48, 30203 Cartagena, Spain)、Antonio Vallecillos(Department of Agricultural Engineering, Universidad Politécnica de Cartagena Member of European University of Technology EUT+, Paseo Alfonso XIII 48, 30203 Cartagena, Spain)、Juan Orengo(Department of Animal Production, Faculty of Veterinary Science, University of Murcia, 30100 Murcia, Spain)、Salvador Escobar(Technical Direction, Avícola Levantina S.A., Carretera F-14, Km1, El Jimenado, 30708 Murcia, Spain)、Achille Schiavone(Department of Agricultural Engineering, Universidad Politécnica de Cartagena Member of European University of Technology EUT+, Paseo Alfonso XIII 48, 30203 Cartagena, Spain; Department of Veterinary Sciences, University of Turin, Largo Braccini 2, 10095 Grugliasco, TO, Italy)、Eva Armero(Department of Agricultural Engineering, Universidad Politécnica de Cartagena Member of European University of Technology EUT+, Paseo Alfonso XIII 48, 30203 Cartagena, Spain)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Laura Martínez-Martínez, Antonio Vallecillos, Juan Orengo, et al. Crossbreeding a Mediterranean Local Chicken Breed with a Medium-Growing Commercial Hybrid as a Complementary Strategy for Conservation and Productive Valorization: Growth Performance, Carcass Traits, and Meat Quality. Animals 2026-08-14. DOI: 10.3390/ani16162541. 原著ライセンス:CC BY.