著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
養殖魚の価値は、どれだけ早く大きく育つかだけでなく、身の栄養や食感、加工のしやすさといった「身質」にも左右されます。養殖飼料の主要なたんぱく源である魚粉は、価格の上昇や供給の制約が課題です。そのため、昆虫由来のたんぱく質などで置き換える試みが進んでいます。ただし置き換えが身質にどう影響するかは、魚種や原料、配合量によって異なると報告されています。また、これまでの研究は主に成長や飼料利用、消化などに注目してきました。
研究チームが取り上げたのは、養蚕業から得られる蚕のさなぎを脱脂して粉にした「脱脂蚕さなぎ粉」です。対象魚は、タマカイの雄とアカマダラハタの雌をかけ合わせた肉食性の海水魚で、高価格で取引される養殖ハタ類の交雑種です。著者らは、この魚について、脱脂蚕さなぎ粉が筋肉の構造、コラーゲン、うま味などに関わる成分、脂質の組成、抗酸化の状態にどう影響するかの知見が不足していると指摘しています。そこで、魚粉の置き換え割合を段階的に変えて、成長と身質を調べました。
何を調べたか
研究チームは360尾の魚を12の水槽に分けました。飼料中の魚粉の0%(対照)、25%、50%、100%を脱脂蚕さなぎ粉に置き換えた4種類の飼料を用意し、それぞれ3水槽ずつに8週間与えました。
試験後には、生存率、増重、飼料効率(体重を1増やすのに必要な飼料量)を計算しました。あわせて背側の筋肉について、次の項目を分析しました。たんぱく質・脂肪・コラーゲンなどの含有量、アミノ酸と脂肪酸の組成、加熱や冷凍・解凍で失われる水分の量、硬さや弾力などの食感に関わる値、顕微鏡で見た筋線維の様子、抗酸化に関わる酵素の働き、身質に関わる遺伝子の働きです。さらに対照、50%、100%置き換えの3群については、筋肉に含まれる多数の代謝物(体内の化学反応で生じる物質)を網羅的に測定しました。
主な結果
25%と50%を置き換えた群では、対照群に比べて最終体重や成長速度が高く、飼料効率も良くなりました。一方、魚粉をすべて置き換えた群では生存率が下がり、飼料効率が悪化しました。この群の成長は、対照群と有意な差がありませんでした。
筋肉の成分では、置き換えたすべての群でたんぱく質の含有量が増えました。甘味、うま味、苦味に関わるアミノ酸の合計量も増えました。コラーゲンは25%と50%の群で増え、50%の群が最も高い値でした。50%と100%の群では脂肪の含有量が減りました。脂肪酸では、置き換えた群で飽和脂肪酸などが減り、多価不飽和脂肪酸が増えました。n-3系脂肪酸とDHAは25%の群で最も多くなりました。また、置き換え割合が高くなるにつれてEPAは減りました。
加熱時に失われる水分と、筋肉を切断するのに必要な力は、置き換えたすべての群で対照群より小さくなりました。冷凍・解凍時に失われる水分は、50%の群で対照群より少なくなりました。硬さや弾力、歯ごたえなど、食感に関わる値の多くも50%の群で最も高くなりました。顕微鏡観察では、25%と50%の群で筋線維が密に整って並んでいました。一方、すべて置き換えた群では配列が緩み、線維の間のすき間が広がっていました。
抗酸化の面では、置き換えた群で抗酸化に関わる酵素の働きが高まりました。脂質の酸化の目安となる物質は、25%と50%の群で減りました。一方、すべて置き換えた群では大きく増えました。代謝物の分析では、群間の違いが主に三つの代謝と結びついていることが示されました。アミノ酸の利用、細胞膜を構成する脂質の再編、酸化還元に関わる代謝です。遺伝子の分析では、50%の群でコラーゲンや筋肉の形成に関わる遺伝子の働きが最も高くなりました。すべて置き換えた群では、ストレスへの反応を示す傾向がより強く見られました。
研究が示すこと
著者らの報告によれば、この交雑ハタでは、魚粉を脱脂蚕さなぎ粉に適度に置き換えると成長と身質の両方が良好になりました。特に50%の置き換えで、総合的に良い結果が得られました。一方、魚粉をすべて置き換えると、成長や身質、抗酸化の状態がむしろ損なわれました。著者らは、全量置き換えで成績が劣った理由について、昆虫に含まれるキチンだけでは説明できないと考察しています。栄養の消化や吸収のしやすさ、栄養バランスの変化、酸化ストレスの高まりなど、複数の要因が関わっている可能性があるとしています。この交雑ハタでは、脱脂蚕さなぎ粉で魚粉をどの程度置き換えるかによって成長や身質への影響が大きく変わることを示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Yongkang Feng(College of Fisheries, Guangdong Ocean University, Zhanjiang 524088, China)、Jian Chen(College of Fisheries, Guangdong Ocean University, Zhanjiang 524088, China; Zhanjiang Experimental Station, Chinese Academy of Tropical Agricultural Sciences, Zhanjiang 524013, China)、Qinglin Liu(College of Fisheries, Guangdong Ocean University, Zhanjiang 524088, China)、Yudong Zheng(College of Fisheries, Guangdong Ocean University, Zhanjiang 524088, China)、Zekai Xiao(College of Fisheries, Guangdong Ocean University, Zhanjiang 524088, China)、Beiping Tan(Aquatic Animals Precision Nutrition and High Efficiency Feed Engineering Research Center of Guangdong Province, Zhanjiang 524088, China; College of Fisheries, Guangdong Ocean University, Zhanjiang 524088, China)、Baogui Tang(College of Fisheries, Guangdong Ocean University, Zhanjiang 524088, China)、Shuang Zhang(Aquatic Animals Precision Nutrition and High Efficiency Feed Engineering Research Center of Guangdong Province, Zhanjiang 524088, China; College of Fisheries, Guangdong Ocean University, Zhanjiang 524088, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yongkang Feng, Jian Chen, Qinglin Liu, et al. Muscle Quality Responses of Pearl Gentian Grouper (Epinephelus fuscoguttatus ♀ × Epinephelus lanceolatus ♂) to Fishmeal Replacement by Defatted Silkworm Pupae Meal: Insights from Texture, Histology, Antioxidant Status and Metabolomics. Foods 2026-07-28. DOI: 10.3390/foods15152640. 原著ライセンス:CC BY.