著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

一つの品種に三つの香り

緑茶の香りには、栗のような香り、豆のような香り、花のような香り、青々とした爽やかな香りなど、さまざまなタイプがあります。こうした違いは、産地や品種、栽培方法、加工方法などが組み合わさって生まれると考えられています。

研究チームが注目したのは、中国湖南省湘西地域に由来する在来の茶の品種「黄金茶」です。もともとは野生の資源でしたが、選抜と増殖を経て地域の茶産業を支える品種になりました。著者らによると、黄金茶の生葉から作った緑茶は香りの幅が広く、大きく「花のような香り」「栗のような香り」「青々とした香り(グリーン)」の三タイプに分かれます。同じ品種から似た加工条件で異なる香りのお茶が生まれるため、香りの成り立ちを化学的に調べるのに適した対象だと研究チームは位置づけています。

この研究の目的は、三つの香りタイプの黄金茶緑茶について揮発性成分(空気中に漂い、香りのもとになりうる物質)を比較し、それぞれのタイプを特徴づける候補成分を絞り込むことでした。

香りの評価と成分分析

研究チームは、湖南省吉首市の茶市場で2025年3〜4月に集めた70点の黄金茶緑茶について、訓練を受けた5人の評価者が中国の国家規格に沿って香りを評価しました。その中から、栗のような香り12点、グリーン8点、花のような香り6点の計26点を代表的な試料として選びました。総合的な香りの評点は91〜95点で、いずれも品質の高いお茶でした。花の香りのタイプには、蘭やスイカズラ、バラを思わせるものなど複数の花の香りが含まれていました。

成分の分析には、お湯に浸した茶葉の上部にたまる香り成分を細い繊維に吸着させて集め、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)で成分を分離・同定する方法を用いました。含有量は、加えた基準物質との比較で求める「半定量値」として示されています。

さらに、多くの成分の違いをまとめて見る統計手法(主成分分析や、グループの判別に役立つ成分を選び出す判別分析)を使いました。加えて、成分の量を「人がその匂いを感じ始める濃度(閾値)」で割った「相対的な匂い活性値(rOAV)」を計算しました。量が多くても匂いを感じにくい成分もあれば、ごく微量でも強く香る成分もあるため、この値が1を超える成分を香りに寄与しうる候補とみなしています。

香りのタイプごとに異なる成分の顔ぶれ

研究チームは、三タイプに共通する111種類の揮発性成分を同定し、アルコール類、アルケン類、アルデヒド類、エステル類、ケトン類、硫黄を含む化合物など10のグループに分類しました。成分全体の量は花の香りのタイプで最も多く、栗の香りのタイプで最も少ないという結果でした。グループ別の割合では、花の香りのタイプでエステル類(36.3%)、栗の香りのタイプで硫黄を含む化合物(33.42%)、グリーンのタイプでアルコール類(32.95%)がそれぞれ最も多くなっていました。

統計解析では、成分の組成によって三つの香りタイプがはっきり分かれることが示されました。判別に重要な61成分を選び出したうえで、rOAVが1を超え、さらにタイプ間の差が統計的に有意だった26成分を、香りタイプを見分ける目印となる候補成分として挙げています。

花の香りのタイプでは、ジャスモン、リナロールとその酸化物、インドール、β-イオノンなど、花の香りを持つとされる成分を含む10成分が特徴的でした。研究チームは、リナロールやその酸化物については、加工時の加熱(殺青)温度が低いほど多くなるという先行研究にも触れています。栗の香りのタイプでは、ヘプタナール、ノナナール、デカナール、ペンタナールなどのアルデヒド類と、豆のような香りとされる2-ペンチルフランの計7成分が目立ちました。著者らは、ペンタナールがこのタイプの緑茶で重要な香り成分として示されたのは初めてだとしています。グリーンのタイプでは、ゲラニオール、ヘキサナール、リモネン、サリチル酸メチルなど9成分が最も多く、単一の際立った香りではなく、穏やかに混ざり合った香りの印象を形づくっていると著者らは考えています。

研究が示すことと注意点

この研究は、同じ品種から生まれる緑茶の香りの違いが、香り成分の組み合わせと量のバランスの違いと結びついていることを、成分分析と統計の両面から示しました。三つの香りタイプそれぞれについて、見分ける手がかりとなる候補成分の一覧を提示した点が主な成果です。

一方で著者ら自身は、今回の候補成分は分析値と計算に基づくもので、実際に人の鼻で嗅ぎ分ける実験や、成分を混ぜ合わせて香りを再現する実験による確認は行っていないと述べています。また、試料が市販品に限られ、グループごとの数も少なく不均等であること、含有量が絶対量ではなく半定量値であることも挙げ、これらの成分は確定した香りの主役ではなく、統計的に裏付けられた有力な候補として受け止めるべきだとしています。黄金茶緑茶の香りの違いを理解するための、出発点となる手がかりを整理した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Hao Huang(Hunan Tea Research Institute, Hunan Academy of Agricultural Sciences, Changsha 410125, China; Yuelushan Laboratory, Changsha 410128, China)、Yufei He(Hunan Tea Research Institute, Hunan Academy of Agricultural Sciences, Changsha 410125, China; Yuelushan Laboratory, Changsha 410128, China)、Xi Zhao(Hunan Tea Research Institute, Hunan Academy of Agricultural Sciences, Changsha 410125, China; Yuelushan Laboratory, Changsha 410128, China)、Penghui Yu(Hunan Tea Research Institute, Hunan Academy of Agricultural Sciences, Changsha 410125, China; Yuelushan Laboratory, Changsha 410128, China)、Ni Zhong(Hunan Tea Research Institute, Hunan Academy of Agricultural Sciences, Changsha 410125, China; Yuelushan Laboratory, Changsha 410128, China)、Bowen Xiang(Jishou Tea Industry Development Service Center, Jishou 416000, China)、Jing Ning(Hunan Tea Research Institute, Hunan Academy of Agricultural Sciences, Changsha 410125, China; Yuelushan Laboratory, Changsha 410128, China)、Na Li(Hunan Tea Research Institute, Hunan Academy of Agricultural Sciences, Changsha 410125, China; Yuelushan Laboratory, Changsha 410128, China)、Huaisheng Huang(Hunan Tea Research Institute, Hunan Academy of Agricultural Sciences, Changsha 410125, China; Yuelushan Laboratory, Changsha 410128, China)、Xinggang Zhong(Hunan Tea Research Institute, Hunan Academy of Agricultural Sciences, Changsha 410125, China; Yuelushan Laboratory, Changsha 410128, China)、Qincao Chen(College of Agriculture, Jiangxi Agricultural University, Nanchang 330045, China)、Hongfa Zheng(Hunan Tea Research Institute, Hunan Academy of Agricultural Sciences, Changsha 410125, China; Yuelushan Laboratory, Changsha 410128, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hao Huang, Yufei He, Xi Zhao, et al. Unraveling the Diversity of Characteristic Aroma Components in Huangjin Green Tea Across Different Flavor Categories. Foods 2026-07-28. DOI: 10.3390/foods15152650. 原著ライセンス:CC BY.