著者の所属・活動拠点の国は、パキスタンです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:地元の海藻を総合的に調べる

肝臓の慢性的な病気には「酸化ストレス」が深く関わっていると考えられています。酸化ストレスとは、体内で生じる反応性の高い酸素分子(活性酸素)が増えすぎ、細胞や組織を傷つける状態のことです。研究チームは、こうした肝障害への対策として、海藻など海洋由来の天然素材に関心が高まっていることに注目しました。

対象としたのは、アオサ属の緑藻Ulva lactucaです。海藻の成分は、生育する海域の水温や塩分、栄養条件などによって変わるとされます。しかし、パキスタン産の海藻については、栄養成分、含まれる化合物、体への作用をまとめて調べた研究がほとんどありませんでした。そこで著者らは、パキスタン・カラチの沿岸で採取したUlva lactucaを対象に、栄養成分の分析から動物実験までを一続きで行い、肝臓を守る作用があるかを評価しました。

何を調べたか:成分分析と動物実験の二段階

研究は二段階で進められました。第一段階では、乾燥させて粉末にした海藻について、水分、灰分(ミネラル分の目安)、たんぱく質、脂質、食物繊維などの基本的な栄養成分を測定しました。さらに、メタノール、エタノール、水の3種類の溶媒で成分を抽出し、それぞれの抽出物について調べました。具体的には、含まれる化合物を質量分析という手法で特定し、ポリフェノールの一種であるフェノール類やフラボノイドの総量を測定しました。あわせて、抗酸化の強さを2種類の試験で評価しました。

第二段階では、オスのラット24匹を6匹ずつ4群に分けました。4群は、健康な対照群、肝障害を起こしたまま治療しない群、肝臓の保護に使われる標準薬シリマリンを与えた群、Ulva lactucaの抽出物を与えた群です。肝障害は、四塩化炭素(CCl4)という化学物質を注射して起こしました。この物質は体内でフリーラジカルを生み、酸化ストレスによる肝障害を引き起こすことが知られています。海藻の群には、抽出量が最も多かったメタノール抽出物が4週間与えられました。その後、体重、血中の脂質、肝機能の指標、炎症や酸化ストレスの指標を測定し、肝臓の組織も顕微鏡で観察しました。

主な結果:成分の特徴とラットでの変化

栄養成分では、粗繊維が約39%と最も多く、たんぱく質は約11%、脂質は約3%と報告されています。抽出物からは、没食子酸、カフェ酸、シリンガ酸などのフェノール類と、ケルセチンやケンフェロールなどのフラボノイドが検出されました。抽出物どうしを比べると、フェノール類の総量は水とエタノールの抽出物で多く、フラボノイドはエタノール抽出物で最も多くなりました。抗酸化試験では、ラジカルを消去する力はエタノール抽出物が最も高く(77.7%)、還元力は水抽出物が最も高い結果でした。

ラットの実験では、海藻抽出物を与えた群は、肝障害を起こしたまま治療しない群に比べ、肝臓の傷つき具合を示す血中酵素(ALTやAST)やビリルビンが低くなりました。血中の脂質の指標にも改善が見られました。炎症の指標であるインターロイキン6も、治療しない群の3.82 pg/mLに対し、海藻群では2.07 pg/mLでした。酸化ストレスについても差が見られました。脂質が酸化されたときにできるマロンジアルデヒドは、治療しない群の6.60 nmol/mLに対し、海藻群では2.60 nmol/mLで、健康な群の1.82 nmol/mLに近い値でした。一方、体の抗酸化酵素であるカタラーゼやスーパーオキシドジスムターゼは、治療しない群より海藻群で高い値でした。

肝臓の組織観察では、治療しない群に脂肪の変化や炎症細胞の集まりが見られました。海藻群では、肝細胞の並びが健康な群に近い状態まで回復していたと報告されています。ただし、軽い変性や炎症細胞の浸潤は海藻群にも残っていました。

この研究が示すこと

著者らは、パキスタン産のUlva lactucaが抗酸化作用を持つ成分を含み、ラットの化学物質による肝障害モデルで肝臓を守る作用を示したと結論づけています。そのうえで、酸化ストレスに関わる肝機能の低下に向けた機能性素材の候補になりうるとしています。

ただし、これは比較的短い期間の障害モデルを使ったラットでの結果です。著者ら自身も、線維化や肝硬変のような進んだ状態への効果は今回の研究では評価していないことを、限界として挙げています。この研究は、これまで十分に調べられていなかった地域の海藻について、成分と動物での作用をまとめて示した基礎的な報告といえます。

原著論文の著者・所属:Noohela Khan(Department of Food Science and Human Nutrition, University of Veterinary and Animal Sciences, Lahore 38040, Pakistan)、Waqas Ahmed(Department of Food Science and Human Nutrition, University of Veterinary and Animal Sciences, Lahore 38040, Pakistan)、Muhammad Asif Ali(Department of Food Science and Human Nutrition, University of Veterinary and Animal Sciences, Lahore 38040, Pakistan)、Imtiaz Rabbani(Department of Physiology, University of Veterinary and Animal Sciences, Lahore 38040, Pakistan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Noohela Khan, Waqas Ahmed, Muhammad Asif Ali, et al. Evaluation of the Antioxidative and Hepatoprotective Activity of Ulva lactuca in a CCl4-Induced Liver Injury Model. Foods 2026-07-30. DOI: 10.3390/foods15152695. 原著ライセンス:CC BY.