著者の所属・活動拠点の国は、インド、アンティグア・バーブーダです。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
慢性的なストレスは、記憶や感情に関わる脳の領域「海馬」に影響を与え、さまざまな精神・神経の不調につながると考えられています。研究チームは、中鎖脂肪酸(炭素の鎖が中くらいの長さの脂肪酸)やポリフェノールを含むバージンココナッツオイル(VCO)に注目しました。VCOは別のストレスモデルなどで脳を守る方向の作用が報告されてきましたが、動けない状態に置くことで繰り返しストレスを与える「慢性拘束ストレス」モデルでの働きは、あまり調べられていませんでした。
そこで著者らは、ストレスを受けたラットにVCOを与える時期を、ストレスの前、ストレスと同時期、ストレスの後の3通りに分け、どの時期に与えたときに行動や脳の変化がどう違うかを比べました。あわせて、使用したVCOにどのような成分が含まれているかも分析しました。
何を調べたか
実験には成体の雄のラットを用い、何もしない対照群、ストレスのみの群、VCOのみの群、そしてストレスを受けつつVCOを前・同時期・後に与えた3群の計6群(各6匹)に分けました。ストレスは、狭い器具の中で1日6時間、21日間動けない状態にする方法で与えました。VCOは体重1kgあたり5mLを1日1回、21日間与えています。VCOは加熱や化学薬品を使わず、ココナッツミルクを静置して自然に分離させる方法で作られたものです。
評価は多方面から行われました。行動面では、砂糖水を好む程度(喜びを感じにくくなる状態の指標)、高い位置にある壁のない通路を避ける程度(不安に似た行動の指標)、8本の通路の先にあるえさを効率よく探せるか(空間の学習と記憶の指標)を調べました。さらに、血液中のストレスホルモン(コルチコステロン)、海馬での脂質の酸化の度合いや抗酸化に関わる物質・酵素、海馬の神経細胞の形も調べています。成分分析には、物質を分離して種類を見分けるガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)が使われました。
主な結果
ストレスのみの群では、対照群と比べて体重の増え方が小さく、ストレスに反応する副腎の相対重量が大きくなりました。また、砂糖水を好む割合が下がり、不安に似た行動が増え、迷路課題では記憶の誤りが増えて、正しく選ぶ割合が基準の85%に届きませんでした。これに対し、VCOを与えた3群ではいずれも、これらの変化が和らいでいたと報告されています。迷路課題では、VCOを与えた群はすべて基準に達しました。
血液中のコルチコステロンは、ストレスのみの群と比べて、前に与えた群で38.55%、同時期の群で21.33%、後に与えた群で25.56%低くなりました。前に与えた群の低下は、ほかの2群と比べても統計的に意味のある差でした。不安の指標でも、前に与えた群は同時期に与えた群より良い値を示しています。論文によると、VCOは脂質の酸化を抑え、抗酸化の指標を回復させ、海馬の神経細胞の形も元の状態に近づけていました。著者らは、全体として、ストレスより前にVCOを与えた場合に最も強い保護効果がみられたとまとめています。
成分分析では、中鎖脂肪酸の一つであるカプリル酸が最も大きなピークとして検出され、カプリル酸由来の成分やポリフェノール類も見つかりました。著者らは、カプリル酸を多く含むことが、酸化によるダメージや海馬の不調を抑える働きにつながっている可能性があると考えています。ただし、これは可能性として示されたもので、仕組みが確かめられたわけではありません。
この研究が示すこと
この研究は、ラットの慢性拘束ストレスモデルで、VCOを与えると行動・ホルモン・脳の変化が和らぐ結果が得られ、その程度は与える時期によって異なり、ストレスより前に与えた場合が最も大きかったことを示しました。著者らは、VCOをストレス対策としての食品の候補と位置づけていますが、今回の結果は雄のラットを対象にした実験によるもので、人での効果はこの研究では調べられていません。
原著論文の著者・所属:Rucha Sahebrao Dafale(Department of Physiology, Kasturba Medical College, Manipal Academy of Higher Education)、Gitika Bhasin(Division of Yoga, Center of Integrative Medicine and Research, Manipal Academy of Higher Education)、Shobha U. Kamath(Department of Biochemistry, Kasturba Medical College, Manipal Academy of Higher Education)、Ujjal Bose(Department of Pharmacology, College of Medicine, American University of Antigua)、Ramesh Babu MG(Department of Basic Medical Sciences, Manipal Academy of Higher Education)、Vasanthalaxmi K(Department of Physiology, Kasturba Medical College, Manipal Academy of Higher Education)、Dhiren Punja(Department of Physiology, Kasturba Medical College, Manipal Academy of Higher Education)、Manjula SD(Department of Physiology, Kasturba Medical College, Manipal Academy of Higher Education)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rucha Sahebrao Dafale, Gitika Bhasin, Shobha U. Kamath, et al. Timing-dependent neuroprotective effects of Virgin coconut oil against chronic restraint stress-induced neurobehavioral and hippocampal dysfunction: GC-MS profiling and in vivo evaluation. Frontiers in Nutrition 2026-10-02. DOI: 10.3389/fnut.2026.1936663. 原著ライセンス:CC BY.