日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Journal of Food Bioactives

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:食品由来ペプチドと腸内細菌の代謝物

食品のたんぱく質を分解した素材や発酵食品には、「ピログルタミルペプチド」と呼ばれる特殊な形のペプチドが広く含まれています。これは、端にグルタミンをもつペプチドが酵素を使わずに変化してできるもので、消化酵素で分解されにくい性質が報告されています。その一つであるピログルタミルロイシン(pyroGlu-Leu)について、これまでの研究で、マウスの実験的な大腸炎を和らげたり、腸内細菌のバランスの乱れ(ディスバイオシス)を改善したりすることが報告されてきました。ただし、その過程で腸内細菌がどのような代謝物を介して関わっているのかは分かっていませんでした。

研究チームは以前、米たんぱく質の分解物(RPH)がpyroGlu-Leuを含むピログルタミルペプチドを含むことを報告しています。今回の研究は、このRPHが、高脂肪食によって腸内細菌のバランスが乱れたラットで、腸内細菌の構成や、腸内細菌が作る代表的な代謝物である短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)にどう影響するかを調べることを目的としました。

何を調べたか

実験では、雄のラットを1群4匹ずつ5群に分けました。通常の餌を与える群、脂肪由来のエネルギーが45%の高脂肪食を与える群、高脂肪食に加えてRPHを体重1kgあたり1日20mgまたは100mg飲み水に混ぜて与える群、高脂肪食に加えて合成したpyroGlu-Leuを体重1kgあたり1日1mg与える群です。5週間飼育したのち、盲腸の内容物に含まれる代謝物を質量分析という手法で調べ、ふんに含まれる細菌の遺伝子を解析して腸内細菌の構成を比べました。

著者らによると、今回の高脂肪食ではラットの体重やエネルギー摂取量に有意な差は出ず、肝臓や腎臓の働きを示す血液検査値にも、一部の項目を除いて大きな変化はみられませんでした。つまり、肥満や重い肝機能障害は起こらず、腸内細菌のバランスが軽く乱れた状態のモデルだったと論文は説明しています。

主な結果:短鎖脂肪酸は戻らず、N-アセチルアミノ酸は回復

盲腸内容物の分析で、研究チームは短鎖脂肪酸に加えて、アミノ酸にアセチル基が結びついた「N-アセチルアミノ酸」と呼ばれる複数の化合物(グリシン、アラニン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニンのN-アセチル体)を見つけ、量を測定しました。

高脂肪食は、短鎖脂肪酸とN-アセチルアミノ酸の両方を有意に減らしました。RPHやpyroGlu-Leuを与えても、プロピオン酸や酪酸の量は有意には回復せず、酢酸がRPHの高用量群でわずかに増えた程度でした。一方、N-アセチルグリシン、N-アセチルアラニン、N-アセチルイソロイシンは、RPHの両用量とpyroGlu-Leuのいずれでも有意に回復しました。N-アセチルロイシンとN-アセチルフェニルアラニンも同様の傾向を示しましたが、有意な回復はRPHの低用量群のみでした。

腸内細菌全体の構成は、高脂肪食の群とRPHやpyroGlu-Leuを与えた群の間で有意な違いはみられませんでした。ただし、高脂肪食で増えたプロテオバクテリアという細菌のグループは、RPHの高用量で増加が抑えられました。個々の細菌の種類レベルでもいくつかの変化がみられましたが、多数の比較を考慮した補正を行うと有意差は残らず、著者らは探索的な所見と位置づけています。

さらに、細菌の量と代謝物の量の関係を調べると、短鎖脂肪酸とN-アセチルアミノ酸は多くの細菌と同じ向きに関連していましたが、関連の強さは異なっていました。短鎖脂肪酸を作ることで知られる細菌を含むいくつかの科では、短鎖脂肪酸よりもN-アセチルアミノ酸のほうが強い正の関連を示しました。

この研究が示すこと

著者らはこれらの結果から、N-アセチルアミノ酸は腸内細菌に由来する代謝物であり、食品成分による腸内細菌への働きかけに対して短鎖脂肪酸よりも敏感に反応し、腸内細菌と宿主の代謝のやりとりを早い段階でとらえる指標になりうると考えています。一方で、なぜこうした違いが生じるのかという仕組みや、N-アセチルアミノ酸が体内で果たす役割はまだほとんど分かっていません。また、各群4匹という小さな規模で、細菌のデータは相対的な割合のみで解析されているなどの限界も論文で挙げられています。

この研究は、腸内環境の変化を見るうえで、よく知られた短鎖脂肪酸だけでなく、これまで注目されてこなかった代謝物にも目を向ける意味があることを示した報告といえます。

著者:Satoshi Miyauchi(Department of Food and Nutrition , Tokyo Kasei University , 1-18-1 Kaga , Itabashi-ku , Tokyo 173 8602 , Japan)、Shiro Kajiwara(Bansyu chomiryo Co., Ltd. , 948 , Nozato , Himeji , Hyogo 670 0811 , Japan)、Asai Tomoko(Division of Applied Biosciences , Graduate School of Agriculture , Kyoto University , Kitashirakawa Oiwake-cho , Sakyo-ku , Kyoto 606 8502 , Japan)、Yasutaka Shigemura(Department of Food and Nutrition , Tokyo Kasei University , 1-18-1 Kaga , Itabashi-ku , Tokyo 173 8602 , Japan)、Kenji Sato(Division of Applied Biosciences , Graduate School of Agriculture , Kyoto University , Kitashirakawa Oiwake-cho , Sakyo-ku , Kyoto 606 8502 , Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Satoshi Miyauchi, Shiro Kajiwara, Asai Tomoko, et al. Pyroglutamyl peptide–rich rice protein hydrolysate restores cecal N -acetyl amino acids in high-fat-diet–fed rats, outperforming short-chain fatty acids as early microbial markers. Journal of Food Bioactives 2026-10-09. DOI: 10.26599/jfb.2026.95035455. 原著ライセンス:CC BY.