著者の所属・活動拠点の国は、ドイツ、アラブ首長国連邦です。

掲載誌:Dentistry Journal

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

妊娠中は、からだのホルモンや代謝、免疫の働きが大きく変わり、いくつかの栄養素の必要量が増えます。国際的な指針も妊娠中の十分な栄養摂取を重視していますが、ふだんの食事だけで妊娠期向けの基準値に届くのは簡単ではないとされています。

歯ぐきの炎症(歯周の炎症)は、出産年齢の女性に多い慢性の炎症です。妊娠中は歯肉炎が起こりやすく、すでにある歯周炎も続くことが多いと知られています。また、食事の内容が体の炎症や組織の状態に関わる可能性も指摘されています。ただし、妊婦の栄養摂取、歯周の状態、出産の経過を同じ集団でまとめて調べたデータは限られていました。

そこで研究チームは、出産直後の女性を対象に、食べ物から摂っている栄養素の量が妊娠期向けの基準値にどの程度届いているかを明らかにすることを主な目的としました。あわせて、個々の栄養素の摂取量と、歯ぐきからの出血の程度や出産時の妊娠週数との関連を探索的に調べました。

どのように調べたか

この研究は、ドイツのテュービンゲン大学で2018年7月から2021年1月に行われた先行研究のデータを使った二次解析です。先行研究は、早産(妊娠37週未満の出産)の女性と、正期産の女性を集めて歯周の状態などを比べたものでした。つまり参加者は出産の結果に基づいて選ばれており、一般の妊婦全体を代表する集団ではありません。

参加者は出産後1〜4日のあいだに歯科の診察を受けました。歯周ポケットの深さや、歯ぐきを器具で軽く探ったときの出血(プロービング時出血)、歯肉出血の指数などが記録されました。

食事は、ドイツの成人健康調査で使われている食物摂取頻度質問票を用いて調べました。これは、過去4週間に食べた53の食品群について、食べる頻度と1回の量を自分で記入する質問票です。回答時期の関係で、対象期間の大部分は妊娠後期にあたります。この回答から、食物繊維、ナイアシン、ビタミンC、ビタミンB12、葉酸、鉄、亜鉛、ヨウ素、カルシウムの9つの栄養素の1日あたり摂取量を推計しました。これらは、妊娠中の必要量や歯周組織との関わりを考えて、あらかじめ選ばれたものです。サプリメントの使用は体系的に調べておらず、推計値には含まれていません。

推計した摂取量は、ドイツ・オーストリア・スイスの栄養学会が共同で定めた妊娠期向けの基準値(D-A-CH基準値)と比べられました。栄養素の摂取量と歯ぐきの出血や出産時の妊娠週数との関連は、順位にもとづく相関係数で評価されました。

主な結果

食事の質問票を有効に回答したのは48人で、そのうち15人が早産、33人が正期産でした。歯周の診察データがそろっていたのは44人です。この44人のうち、歯周が健康と判定されたのは5人で、24人が歯肉炎、10人がステージIIの歯周炎、5人がステージIIIの歯周炎と分類されました。

食べ物からの摂取量が基準値を下回っていた人の割合は、葉酸と鉄で全員(100%)、ヨウ素で91.7%、食物繊維で79.2%、ナイアシンで77.1%でした。亜鉛では62.5%、ビタミンB12では58.3%、カルシウムでは50.0%、ビタミンCでは39.6%でした。報告されたエネルギー摂取量が極端に少ない7人を除いて計算し直しても、全体の傾向は変わらず、葉酸と鉄は引き続き全員が基準値を下回っていました。

一方、9つの栄養素の摂取量と、歯ぐきの出血の指標や出産時の妊娠週数との関連は、どれも小さいものでした。相関係数はおよそマイナス0.09から0.24の範囲にとどまり、統計的な不確かさを考えると、関連があるとはっきり言えるものはありませんでした。早産と正期産のグループで、栄養素の摂取量の分布にも大きな違いは見られませんでした。

この研究が伝えること

著者らは、妊娠に関わるいくつかの栄養素について、ふだんの食事だけでは基準値に届いていない人が多かったと報告しています。ただし、これはサプリメントを含まない食べ物からの推計値です。基準値を下回ったことが、そのまま個人の栄養不足や欠乏を意味するわけではない点も、著者らは強調しています。また、示された割合はこの研究の参加者に限ったもので、妊婦全体での割合を推定したものではありません。

個々の栄養素の摂取量と、歯ぐきの炎症や出産時期とのあいだには、明確な関連は見いだされませんでした。参加者が少ないこと、質問票を返さなかった人が多く、その人たちには早産が多かったこと、食事が自己申告であることなどから、著者らは結果を慎重に解釈する必要があるとしています。この研究は、妊娠中の食事と口の健康、出産の経過を同じ集団で合わせて見るための、仮説づくりに役立つ探索的な報告と位置づけられています。

著者:Valentin Bartha(Department for Conservative Dentistry, Medical Faculty Heidelberg, Heidelberg University, Im Neuenheimer Feld 400, 69120 Heidelberg, Germany)、Rebekka Wittlinger(Department of Conservative Dentistry, Tuebingen University, Osianderstraße 2, 72076 Tuebingen, Germany)、Alexandra Balzer(Institute of Medical Biometry, Heidelberg University, Im Neuenheimer Feld 130, 69120 Heidelberg, Germany)、Diana Wolff(Department for Conservative Dentistry, Medical Faculty Heidelberg, Heidelberg University, Im Neuenheimer Feld 400, 69120 Heidelberg, Germany)、Johan Peter Woelber(Faculty of Medicine Carl Gustav Carus, Policlinic of Operative Dentistry, Periodontology, and Pediatric Dentistry, TU Dresden, Fetscherstrasse 74, 01307 Dresden, Germany)、Marco M. Herz(Department of Conservative Dentistry, Tuebingen University, Osianderstraße 2, 72076 Tuebingen, Germany)、Sara Yvonne Brucker(Department of Women’s Health, Tuebingen University Hospital, Calwerstr. 7, 72076 Tuebingen, Germany)、Sahra Steinmacher(ART Fertility Clinics, Villa No. B22-25, Behind Marina Mall-Marina Village, Abu Dhabi, United Arab Emirates)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Valentin Bartha, Rebekka Wittlinger, Alexandra Balzer, et al. Nutrition, Periodontal Health and Birth Outcomes: An Exploratory Cross-Sectional Analysis of a Postpartum Case–Control Sample. Dentistry Journal 2026-10-14. DOI: 10.3390/dj14100669. 原著ライセンス:CC BY.