この研究は、ウクライナの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Eastern-European Journal of Enterprise Technologies

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

小麦粉を使った焼き菓子は子どもから高齢者まで幅広く親しまれていますが、その多くは精製された高級小麦粉を原料としています。精製の工程では、小麦粒からふすま(外皮)と胚芽が取り除かれます。研究チームによれば、この部分にこそ食物繊維やミネラル、ビタミン、生理活性物質の大半が含まれており、精製によって粉とその製品の栄養価・生物学的価値は大きく低下します。

そこで注目されるのが、小麦粒のすべての部分を残した全粒粉です。ただし著者らは、これまでの研究の多くがパンやショートドウ(もろい食感の)ビスケットを対象としており、ハードドウビスケット特有の製法——生地を繰り返し圧延(ローリング)し、休ませる工程——については十分に検討されてこなかったと指摘します。精製小麦粉を全粒粉に完全に置き換えたとき、生地の性質と製品の品質がどう変わるのかは未解明のままでした。本研究の目的は、この点を明らかにすることです。

何を調べたか

著者らは、石臼挽きの全粒小麦粉と精製小麦粉をまず粉の段階で比較しました。水分、灰分、酸度、グルテン(小麦のたんぱく質が水と結びついてできる粘弾性のある網目構造)の量と質、水分を保持する力(水結合能)、粒の大きさなどを測定しています。

次に「動物ビスケット」のレシピを対照試料とし、そこに含まれる精製小麦粉をすべて全粒粉に置き換えた試作品をつくりました。生地については水分と密度を、製品については水分、膨潤度、アルカリ度、硬さ、密度、そして焼き上がりの寸法と官能(見た目・香り・味など)の評価を行っています。官能評価は15名のパネルによる5点尺度で実施されました。

主な報告結果

粉の比較では、全粒粉は精製粉に比べて酸度・灰分・水結合能が高く、粒径も大きい一方で、湿グルテンの量とその水和能力は低いことが確かめられました。グルテンの質でみると、精製粉は第1グループ(良好)、全粒粉は第2グループ(まずまず)に分類されています。

生地づくりでは、対照と同じ水量では全粒粉生地のたんぱく質・炭水化物複合体の水和が足りず、その後の圧延や成形に必要な性質をもつ生地にならなかったため、水分量を引き上げることが技術的に妥当な措置とされました。結果として生地水分は対照の23.5%に対し全粒粉試料で26.1%、密度は1,250kg/m³に対し1,280kg/m³となっています。

焼き上がったビスケットでは、水分が5.55%から6.2%へ、密度が450.5kg/m³から603.5kg/m³へ、硬さが0.02kg/mm²から0.025kg/mm²へと増加しました。一方でアルカリ度はわずかに低下し、膨潤度は172.5%から156.0%へ減少しています。寸法の測定からは、精製小麦粉を全粒粉に完全に置き換えても製品が形状の安定性を保っていたことが示されました。

この研究が示すもの

全粒粉に切り替えると、粉の性質の違いを反映して生地の含水量を調整する必要があり、ビスケットはやや密で硬く、膨潤しにくくなります。それでも形は崩れませんでした。著者らはこれらの結果をもって、石臼挽き全粒粉をハードドウビスケットの製造に用いることが技術的に成り立つと結論づけています。

精製粉を前提に組まれてきたレシピを、粒のすべてを使う原料へ置き換える道筋を、生地の段階から製品の段階まで具体的な数値で示した点に、この研究の意味があります。

著者:Ганна Володимирівна Коркач、Ольга Василівна Макарова、Олена Миколаївна Котузаки、Вікторія Юріївна Толстих、Владислав Володимирович Іванов

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ганна Володимирівна Коркач, Ольга Василівна Макарова, Олена Миколаївна Котузаки, et al. Determining the effect of whole-grain flour on dough properties and the quality of hard dough biscuits. Eastern-European Journal of Enterprise Technologies 2026-08-28. DOI: 10.15587/1729-4061.2026.369682. 原著ライセンス:CC BY.