著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究のねらい
全粒粉は、精製小麦粉を作る過程でほとんど取り除かれてしまうふすま(外皮)や胚芽を含み、食物繊維やミネラル、植物由来の成分を保っています。一方で、蒸しパンに全粒粉を使うと、ふすまが生地の水分を奪い合い、生地の骨格となるグルテンのつながりを妨げます。その結果、ふくらみにくく、硬く、断面のきめが不均一になりやすいことが知られています。
ここに果物由来の素材を加えると、食物繊維とポリフェノールが持ち込まれ、生地の状態はさらに複雑になります。ナツメ(Ziziphus jujuba)は糖、食物繊維、ミネラル、フェノール化合物などを含む果実です。著者らによると、これまでの研究の多くは、ナツメの形態を1種類だけ、あるいは小麦の種類を1種類だけに絞って調べていました。同じナツメでも、乾燥粉末として加えるか、あらかじめ水と混ぜたペースト状(パルプ)にして加えるかで結果が変わるのか、また普通の白い小麦と色の濃い小麦とで反応が違うのかは、ほとんど分かっていませんでした。
そこで研究チームは、小麦の種類、ナツメの加え方、添加量の三つの条件が全粒粉蒸しパンにどう影響するかを調べました。それぞれの単独の影響だけでなく、条件どうしの組み合わせによる影響も対象とし、見た目や食感といった物理的な品質と抗酸化性の間にどのような折り合いがあるかを明らかにすることを目指しました。
何をどう調べたか
材料には、白い小麦の品種「済麦22」と、色の濃い小麦(有色小麦)の品種「豫州黒麦2号」を使い、それぞれ粒ごと粉砕して全粒粉にしました。有色小麦は、色素であるアントシアニンなどのフェノール化合物を多く含むことが知られています。ナツメは市販の新疆産乾燥ナツメを使い、同じロットから粉末とパルプの両方を作りました。
ナツメは粉に対して5%、10%、15%の割合で加えました。どの配合でも加える水の総量は粉の重さの52%にそろえています。パルプの場合は、配合用の水の一部でナツメを撹拌してペーストにし、その水も総量に含めました。こうすることで、水の量の違いではなく、ナツメの加え方そのものの違いを比べられるようにしています。小麦2種類、加え方2種類、添加量3段階の組み合わせで、計12通りの蒸しパンを作りました。
評価項目は、重さあたりの体積(比容積)、高さと直径の比、表面の色、機器で測定した食感(硬さ、弾力性、まとまりやすさ、復元性など)、断面の見た目です。あわせて、アントシアニン量と、ABTSラジカル消去活性も測定しました。ABTSラジカル消去活性は、試験管の中で不安定な分子(ラジカル)をどれだけ打ち消せるかを見る化学的な指標で、抗酸化性の目安としてよく使われます。統計解析では、三つの条件それぞれの影響と、条件どうしの組み合わせによる影響(交互作用)を検討しました。
主な結果
まず、二つの全粒粉はでんぷん量こそ同程度でしたが、成分にははっきりした違いがありました。有色小麦の粉は、タンパク質、脂質、灰分、湿グルテンが多く、白い小麦の粉は食物繊維が多い結果でした。アントシアニン量は有色小麦の粉が白い小麦の粉の4倍を超えていました。著者らは、この二つを単に色が違うだけの粉ではなく、性質の異なる別々の生地素材とみなすべきだと述べています。
蒸しパンのふくらみを示す比容積は、試した範囲では変化が比較的小さいものでした。たとえば白い小麦に粉末を加えた系列では、1.59〜1.67 mL/gの狭い幅に収まっています。一方、高さと直径の比は条件による違いが出やすい結果でした。色については、有色小麦にナツメパルプを加えた組み合わせが、安定して濃い赤褐色を示し、一般的な蒸しパンから最も大きく離れた外観になりました。
食感への影響は、小麦の種類と加え方の組み合わせによって大きく異なりました。白い小麦に粉末を加えた場合、添加量が増えるにつれて硬さが1494.25 gから950.98 gへと下がり、弾力性と復元性は10%で最も高くなりました。有色小麦に粉末を加えた場合は、白い小麦より全体に硬く、弾力に乏しい傾向でした。有色小麦にパルプを加えた系列では、添加量が増えると硬さが下がる一方、弾力性、まとまりやすさ、復元性も低下しました。
アントシアニン量は主に小麦の種類で決まり、ナツメの添加量による違いは小さいものでした。著者らは、ナツメのアントシアニン含量は乾燥状態で100 gあたり6.39 mgで、添加量も5〜15%にとどまり、配合の大部分は小麦粉であることを、その理由として挙げています。これに対し、ABTSラジカル消去活性は、小麦の種類、加え方、添加量のいずれからも影響を受けました。白い小麦では、粉末で31.19%から42.28%へ、パルプで25.69%から43.12%へと、添加量とともに上昇しました。有色小麦の粉末では10%で54.81%まで上がった後、15%で51.32%とわずかに下がりました。最も大きく伸びたのは有色小麦にパルプを加えた系列で、5%の44.72%から15%の66.15%まで上がり、全配合の中で最高値になりました。
アントシアニン量とABTS活性の間には正の相関が見られました(相関係数0.82)。ただし、両者は配合ごとにそろって変化したわけではありませんでした。このため著者らは、ここで測った抗酸化性を、アントシアニンだけによるものではなく、小麦とナツメの成分全体が合わさった反応として捉えるべきだとしています。また、抗酸化活性が高い試料ほど表面の明るさが低い、つまり色が濃い傾向もありました。
この研究が示すこと
研究チームは、全粒粉蒸しパンの品質と抗酸化性は、小麦の種類、ナツメの加え方、添加量の三つが組み合わさって決まると結論づけています。同じナツメでも、粉末で加えるかパルプで加えるかの効果は、どの小麦に、どれだけ加えるかによって変わりました。
測定したすべての項目で優れていた配合はありませんでした。有色小麦にパルプを加えた系列の中では、10%の配合で高さと直径の比の平均が最も高く、抗酸化活性も大きく上がりました。同じ系列でパルプを15%に増やすと抗酸化活性はさらに上がりましたが、弾力性などいくつかの食感の指標は下がりました。著者らは、形と抗酸化性の両方を考えるなら10%パルプが釣り合いのよい選択肢になるとしています。
ただし、この結論は今回試した5〜15%の添加範囲と、固定した加工条件のもとでの結果です。色や食感の違いが実際に食べる人にどう受け止められるかについては、官能評価による確認が必要だと著者らは述べています。この研究は、どのような製品を目指すかによって適した配合が変わるという、素材の組み合わせと品質の間のトレードオフを具体的に示したものといえます。
原著論文の著者・所属:Ruijing He(College of Food Science and Technology, Henan Agricultural University, Zhengzhou 450002, China)、Jingyi Zhang(College of Food Science and Technology, Henan Agricultural University, Zhengzhou 450002, China)、Mengqin Li(College of Food Science and Technology, Henan Agricultural University, Zhengzhou 450002, China)、Shunshun Lin(College of Food Science and Technology, Henan Agricultural University, Zhengzhou 450002, China)、Daowen Wang(National Wheat Engineering Research Center, College of Agronomy, Henan Agricultural University, Zhengzhou 450002, China)、Kunpu Zhang(National Wheat Engineering Research Center, College of Agronomy, Henan Agricultural University, Zhengzhou 450002, China)、Yan Ma(College of Food Science and Technology, Henan Agricultural University, Zhengzhou 450002, China)、Shanshan Qu(College of Food Science and Technology, Henan Agricultural University, Zhengzhou 450002, China)、Xiaoling Tian(College of Food Science and Technology, Henan Agricultural University, Zhengzhou 450002, China; Postdoctoral Station of Crop Science, College of Food Science and Technology, Henan Agricultural University, Zhengzhou 450002, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ruijing He, Jingyi Zhang, Mengqin Li, et al. Effects of Wheat Matrix and Jujube Incorporation Form on the Quality and Antioxidant Properties of Whole-Wheat Steamed Bread. Foods 2026-10-22. DOI: 10.3390/foods15213769. 原著ライセンス:CC BY.