この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Brazilian Journal of Microbiology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の狙い
ペットと暮らす人が増えるなかで、健康に配慮したペットフードへの関心が高まっています。その一つの方向として注目されているのが、生きた有用菌を食品に組み込む「プロバイオティクス」です。プロバイオティクスとは、適切な量を与えたときに宿主の健康に役立つ生きた微生物のことを指します。ただし、生きた菌を製品に入れる場合は、加工や保存の間に菌が死んでしまわないかという技術的な問題がつきまといます。
この研究で著者らが取り組んだのは、犬用のビスケットを菌の「運び手」として使えるかという課題です。小麦粉、ミレット(トウジンビエ、学名 Pennisetum glaucum)の全粒粉、そして両者を半々に混ぜた粉という3種類の生地を用意し、プロバイオティクス候補とされる2種類の乳酸菌(Lacticaseibacillus paracasei GV17 と Lactococcus lactis GV103)を単独または組み合わせて加えました。研究チームが立てた仮説は、ミレットを使った配合のほうが小麦粉の配合よりも菌の生存を守るのではないか、というものです。論文によれば、ミレットは食物繊維やミネラル、フェノール化合物を多く含む一方、ブラジルでは特に動物用飼料としてあまり活用されていない穀物だと位置づけられています。
どのように調べたか
著者らは、食塩・砂糖・重曹・リン酸塩・ひまわり油・水という共通の材料に、小麦粉のみ、ミレット粉のみ、両者の混合という3通りの粉を組み合わせて生地を作りました。厚さ0.8センチに伸ばし、直径3センチの円形に成形して170℃で15〜20分焼いています。焼く前に中央に小さなくぼみを作っておき、焼き上がったあとにそのくぼみへ乳酸菌の懸濁液を無菌的に置くという手順です。菌を高温にさらさないための工夫といえます。そのうえで、糊化させたコーンスターチの液を表面に塗って保護層とし、4℃の冷蔵で保存しました。冷蔵の選択は、菌の生存率をできるだけ高く保つための実験上の方針だと説明されています。
評価は二つの軸で行われました。一つはビスケットとしての性質で、表面の色(明度や赤み・黄色みの指標)、割れにくさを示す硬さ、そして水分・灰分・たんぱく質・脂質・繊維・炭水化物などの一般成分の分析です。もう一つは菌の生存で、保存開始から1、7、14、21、28日目に生きた菌の数を数えました。さらに、消化管を模した試験も行っています。これは pH 2 の胃液に似た溶液に120分、続いて胆汁酸や膵酵素を含むアルカリ性寄りの腸液に似た溶液に360分さらして菌数を測るものです。著者らはこの試験について、犬の消化管をそのまま再現したものではなく、消化管通過で受ける主な物理化学的ストレスに菌をさらして相対的な耐性を見るための試験管内のスクリーニングであり、犬の体内での生存を直接予測するものではないと明記しています。
報告された主な結果
ビスケットとしての性質は、使った粉の違いをそのまま反映しました。明度は小麦粉のみが最も高く(76.31)、混合(59.68)、ミレットのみ(43.19)と続き、ミレット配合は赤み・黄色みの値が高くなりました。硬さは小麦とミレットの混合が46.18 Nで最も高く、小麦粉のみ(26.65 N)とミレットのみ(23.17 N)はそれより約20 N低い値でした。成分では、たんぱく質は3配合で差がなく(12.36〜13.17%程度)、いずれも水分は14%未満でした。一方でミレットを含む配合は灰分・脂質・繊維が高く、繊維は小麦粉のみで0.95%、ミレットのみで5.76%、混合で3.45%でした。逆に炭水化物は小麦粉のみが55.95%で最も高く、ミレットのみ(40.23%)と混合(42.98%)を上回りました。
28日間の冷蔵保存では、菌の減り方が株と粉の組み合わせで異なりました。GV17を加えたビスケットは28日後に4.34〜5.32 log CFU/g、2株を併用したものは5.15〜5.55 log CFU/gでした。最も高い菌数を保ったのはGV103を加えた群で、小麦粉のみで7.23、ミレットのみで7.10、混合で6.24 log CFU/gと報告されています。著者らは開始時からの減少幅(生存能 δ)を指標に用い、−0.5 log を下回らなかったのは小麦粉+GV103(−0.45)、ミレット+GV103(−0.37)、ミレット+2株併用(−0.46)の3配合で、これらが保存中の生存維持に最も有効だったとしています。全体としては、GV103を含む配合、とくにミレット粉を使ったものが生存の成績で優れていたというまとめです。
消化管を模した試験では、胃相のあとで高い菌数を保ったのはミレット+GV17(10.16)、ミレット+GV103(10.20)、小麦粉+GV103(9.30 log CFU/mL)でした。配合によっては胃相で菌数が下がったのち腸相で回復する動きも見られ、著者らはこれを、損傷した細胞の修復や回復、培養できない状態から戻る細胞、条件が許す場合の生き残った菌の増殖などが組み合わさった結果として説明できると論じています。そして、ヒト向けの機能性食品で目安とされる水準を参照点として用いたうえで、試験したすべての配合が模擬消化管通過後に7.0 log CFU/mL を超える生菌数を保っていたと報告しています。GV103のミレット配合で安定性が高かった理由として、菌が食品中のデンプンを利用できる性質(細胞外α-アミラーゼを作る一部の乳酸菌の特徴)が関わっている可能性を挙げていますが、これは考察として示された解釈です。
この研究が示すこと
この研究が伝えているのは、焼き菓子という水分の少ない固形の食品でも、菌を加えるタイミングと保護のしかた、そして土台となる粉の選び方によって、生きた乳酸菌をある程度の期間保てるという点です。粉を変えれば色・硬さ・成分も一緒に変わるため、菌の生存だけでなく製品としての性質との兼ね合いで配合を考える必要があることも、同時に示されています。
一方で著者らは、株の由来や消化管試験の位置づけについて自ら限界を述べています。GV103は犬の腸内で優勢に定着する菌ではないこと、この株が犬の消化管でどこまで適合し残るかは生体での研究を待つ必要があること、そして犬に適したプロバイオティクスの投与量はまだ定まっていないことが明記されています。つまり本研究は、粉の違う生地が菌の運び手としてどう振る舞うかを試験管内と保存試験で比べた段階の報告であり、著者らはこの範囲で、開発したビスケットが乳酸菌を届ける手立てになりうる可能性を示したと結論づけています。
著者:Wendy Carla Dantas Rocha(Department of Technology and Inspection of Products of Animal Origin, School of Veterinary, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte, 31270-901, Minas Gerais, Brazil)、Isabel Luisa Ribeiro de Abreu Teixeira(Department of Technology and Inspection of Products of Animal Origin, School of Veterinary, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte, 31270-901, Minas Gerais, Brazil)、M. Campos(Department of Technology and Inspection of Products of Animal Origin, School of Veterinary, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte, 31270-901, Minas Gerais, Brazil)、Taynan Jonatha Neves Costa(Department of Food, Faculty of Pharmacy, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte, 31270-901, Minas Gerais, Brazil)、Isabella Maciel Costa(Department of Technology and Inspection of Products of Animal Origin, School of Veterinary, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte, 31270-901, Minas Gerais, Brazil)、Débora Cristina Sampaio De Assis(Department of Technology and Inspection of Products of Animal Origin, School of Veterinary, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte, 31270-901, Minas Gerais, Brazil)、Felipe Machado Trombete(Food Engineering, Federal University of São Joao del Rei, Sete Lagoas, 35702-031, Minas Gerais, Brazil)、Washington Azevedo da Silva(Food Engineering, Federal University of São Joao del Rei, Sete Lagoas, 35702-031, Minas Gerais, Brazil)、Érika Ramos de Alvarenga(Department of Animal Science, School of Veterinary, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte, 31270-901, Brazil)、Fabíola de Oliveira Paes Leme(Department of Veterinary Clinical and Surgical Medicine, School of Veterinary, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte, 31270-901, Minas Gerais, Brazil)、Verônica O. Alvarenga(Department of Food, Faculty of Pharmacy, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte, 31270-901, Minas Gerais, Brazil)、Bruna Maria Salotti de Souza(Department of Technology and Inspection of Products of Animal Origin, School of Veterinary, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte, 31270-901, Minas Gerais, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Wendy Carla Dantas Rocha, Isabel Luisa Ribeiro de Abreu Teixeira, M. Campos, et al. Lactic acid bacteria, potentially probiotic, in whole-grain pet biscuits: survival and technological potential of millet-based formulations (Pennisetum glaucum). Brazilian Journal of Microbiology 2026-09-10. DOI: 10.1007/s42770-026-02091-8. 原著ライセンス:CC BY.