著者の所属・活動拠点の国は、シンガポールです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
ビール粕をたんぱく質源として生かせるか
ビールを造る過程では、麦汁を取り出した後に「ビール粕(ブルワーズ・スペント・グレイン)」と呼ばれる残りかすが大量に出ます。論文によると、ビール100リットルあたり約20キログラムが生じます。主に大麦の殻などからなり、粗たんぱく質を約20%含みます。安価で量も多い食品副産物として、植物性たんぱく質源に活用することに関心が集まっています。
ビール粕は、穀物由来のたんぱく質としては、植物性の食事で不足しがちな必須アミノ酸のリシンを比較的多く含みます。一方で、硬い細胞構造などのため、たんぱく質が消化されにくいという課題があります。
そこで研究チームが注目したのが、テンペ作りに使われるカビ、リゾプス・オリゴスポルスによる発酵です。水分の少ない固体の状態で発酵させる方法で、これまでに遊離アミノ酸の増加などの組成の変化が報告されてきました。ただし、こうした改善が人の体内での変化につながるかは確かめられていませんでした。著者らは、発酵させたビール粕をビスケットに加えるとアミノ酸組成が良くなるか、また食後に血液中のアミノ酸がより多く増えるかを調べました。対象はメタボリックシンドロームの成人です。この人たちには食事管理で植物性たんぱく質の摂取が勧められることが多いため、新しい植物性たんぱく質源を評価する意義が大きいと著者らは説明しています。
3種類のビスケットを比べる
研究チームは3種類のビスケットを用意しました。小麦粉だけの対照ビスケット、小麦粉の30%を高温高圧で殺菌したビール粕に置き換えたもの、そして殺菌後に3日間発酵させたビール粕に置き換えたものです。
まず、それぞれのビスケットに含まれるアミノ酸の総量と、たんぱく質に組み込まれずに単独で存在する「遊離アミノ酸」の量を測りました。さらに、成人に必要な必須アミノ酸の量の基準と比べた「アミノ酸スコア」も算出しました。このスコアが1を下回るアミノ酸は基準に対して不足していることを示します。
次に、メタボリックシンドロームの成人15人(平均63歳)が参加する試験を行いました。参加者は、来院の間に1週間の間隔を空けて、3種類のビスケットを90グラムずつ食べました。どのビスケットをいつ食べるかは無作為に決め、参加者にも研究者にも分からないようにしました。食後120分間にわたって採血し、血液中のアミノ酸濃度の推移を調べました。著者らによると、この食後の血中アミノ酸の変化は、取り込まれたアミノ酸の量そのものを直接測るものではありません。食べたたんぱく質が消化・吸収され、血中に現れていく様子を捉える指標です。
組成は改善したが、食後の血中アミノ酸の総量には差が出なかった
ビール粕を加えたビスケットは、殺菌したものも発酵させたものも、対照よりアミノ酸の総量が多くなりました。発酵させたビール粕と殺菌しただけのビール粕のあいだでは、アミノ酸の総量に有意な差はありませんでした。違いが大きく表れたのは遊離アミノ酸です。発酵ビール粕入りビスケットでは、遊離アミノ酸の総量が対照や殺菌ビール粕入りより大幅に多くなりました。
アミノ酸スコアでは、3種類とも、基準を下回ったアミノ酸はリシンだけでした。そのリシンのスコアは、対照の0.57に対し、殺菌ビール粕入りで0.61、発酵ビール粕入りで0.81に上がりました。
ところが、研究の主な評価対象とされた食後の血液中のアミノ酸の総量と必須アミノ酸の量は、どのビスケットを食べても時間とともに同じように変化し、ビスケット間に差は見られませんでした。個々のアミノ酸の時間推移を探索的に見ると、システインでは、ビスケットの種類によって変化の仕方が異なるという統計的な結果が報告されています。
また、食後に血中濃度がどれだけ増えたかを面積やピークの高さなどで比べた解析では、食べたアミノ酸量で調整した後に、グルタミンやプロリンなど一部の個々のアミノ酸で差が見られました。しかし、多くのアミノ酸をまとめて検定したことを考慮した補正を行うと、これらの差は有意ではなくなったと著者らは報告しています。
なお著者らは、食後の血中アミノ酸の変化はもともとの臨床試験では副次的な評価項目だったと説明しています。参加者15人のこの試験で検出できるのは、中程度から大きな差に限られるとしています。
食品の組成と体内での反応は必ずしも一致しない
この研究では、ビール粕を発酵させるとビスケットの遊離アミノ酸が増え、不足しがちなリシンのスコアも上がることが示されました。一方、メタボリックシンドロームの人が食べた後の血中のアミノ酸総量や必須アミノ酸の増え方には、その違いが表れませんでした。著者らはこの結果を、たんぱく質の組成の改善と食後のアミノ酸の反応とのあいだに隔たりがあることを示すものと位置づけています。食品の成分分析で見られる改善が人の体内での反応にもそのまま表れるとは限らないことを、この研究は示しています。
原著論文の著者・所属:Zi Ning Leong(Department of Food Science and Technology, Faculty of Science, National University of Singapore, Singapore 117543, Singapore)、Yujing Xu(Department of Food Science and Technology, Faculty of Science, National University of Singapore, Singapore 117543, Singapore)、Jialin Chen(Department of Food Science and Technology, Faculty of Science, National University of Singapore, Singapore 117543, Singapore)、Yidan Chang(Department of Food Science and Technology, Faculty of Science, National University of Singapore, Singapore 117543, Singapore)、Gregory Chung Tsing Chan(Saw Swee Hock School of Public Health, National University of Singapore, Singapore 117549, Singapore)、Jung Eun Kim(Bezos Center for Sustainable Protein, National University of Singapore, Singapore 117542, Singapore; Department of Food Science and Technology, Faculty of Science, National University of Singapore, Singapore 117543, Singapore)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zi Ning Leong, Yujing Xu, Jialin Chen, et al. Protein Composition and Postprandial Aminoacidemia of Biscuits Fortified with Brewer’s Spent Grain and Fermented Brewer’s Spent Grain in Individuals with Metabolic Syndrome. Foods 2026-10-07. DOI: 10.3390/foods15193558. 原著ライセンス:CC BY.