著者の所属・活動拠点の国は、ポルトガルです。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

伝統料理を栄養の視点で見直す

ポルトガルの食文化は、地域の気候や産物、世代を超えて受け継がれた知恵を映しています。研究チームによると、北部は牧畜や厳しい気候に結びついた重めの料理、中部は豆類・魚・穀物が目立つ料理、南部は地中海の影響を受けたオリーブオイルや野菜、魚中心の軽めの料理が特徴とされます。一方、料理書の多くは作り方の記録が中心で、伝統料理にどのような栄養が含まれるのかを地域どうしで比べたデータは限られていました。

そこで著者らは、本土の北部・中部・南部の伝統料理を栄養成分の面から比較し、それらを組み合わせた一食分の献立が、バランスのとれた食事の目安とどの程度合うかを調べました。肥満や心血管疾患が公衆衛生上の大きな課題となっているなかで、伝統料理の栄養の特徴を把握することは、文化に根ざした食生活を考える手がかりになると著者らは位置づけています。

60品のレシピから栄養を計算

研究はパイロット研究(小規模な予備的研究)として行われました。ポルトガル料理の定番とされる料理書や老舗の料理雑誌から、各地域20品ずつ、計60品の伝統レシピを選びました。内訳は、各地域とも前菜6品(うちスープ2品)、主菜8品(肉料理4品・魚料理4品)、デザート6品です。選定では統計的な代表性よりも、その地域を象徴する料理であることを重視したと著者らは説明しています。

実際に料理を作って成分を分析したのではなく、レシピに書かれた材料と分量から栄養価を計算しています。「大さじ」などの家庭用の計量単位はグラムに換算し、主にポルトガルの食品成分表を用いて、100グラムあたりのエネルギー、たんぱく質、炭水化物、糖類、食物繊維、脂質、飽和脂肪酸、ナトリウムを求めました。そのうえで地域間の差が統計的に意味のあるものかを検定しました。

さらに、前菜・主菜・デザートを1品ずつ組み合わせた献立を、各地域でエネルギーが最も低い組み合わせと最も高い組み合わせの2通り作りました。これを1日2000キロカロリーのうち昼食が3割を占めると想定した基準(昼食600キロカロリーなど)と比べています。なお、これらの献立は各料理の100グラムあたりの値を組み合わせた理論上のもので、実際の一人前の量や食べ方を再現したものではないと著者らは断っています。

地域差が明確だったのは前菜、献立には偏りも

統計的に意味のある地域差が見られたのは前菜だけでした。100グラムあたりのエネルギーは北部が約202キロカロリーで、中部の約126キロカロリーより有意に高い値でした。ナトリウムは北部が約482ミリグラムと、中部・南部(南部は約136ミリグラム)のいずれよりも明らかに多く、著者らはジャガイモとチョリソのスープ「カルド・ヴェルデ」など、塩漬け肉や加工肉を使う料理が多いことを理由に挙げています。食物繊維は、豆や野菜を使うスープが多い中部が南部より有意に多いという結果でした。

主菜とデザートでは、数値にある程度のばらつきはあったものの、どの栄養項目にも統計的に意味のある地域差はありませんでした。著者らはこれを、3地域の主菜とデザートの栄養組成がおおむね似ていることを示すものと解釈しています。傾向としては、南部の料理はオリーブオイルや魚に由来する脂質が中心で、脂質の質の面でより好ましい特徴がみられたと述べています。

献立の比較では、どの地域でもエネルギーが最も高い献立が昼食の基準を大きく上回り、北部で182%、中部で188%、南部で171%に達しました。北部の高エネルギー献立は脂質が基準の360%、飽和脂肪酸が419%、ナトリウムが149%と多い一方、食物繊維は40%にとどまりました。南部の献立は、肉・魚・卵を組み合わせることが多いためか、たんぱく質が基準の2〜3倍を超えていました。反対に、中部の低エネルギー献立はエネルギーが基準の43%しかなく、全体として栄養が不足ぎみでした。多くの献立で、炭水化物と食物繊維が基準を下回っていたことも特徴です。

文化を守りながら栄養のバランスを整える

著者らは、伝統料理は文化的に大きな価値をもつ一方で、組み合わせて一食にするとエネルギーの過剰や栄養の偏りが生じやすいと結論づけています。そのうえで、脂質や塩分を減らし、野菜・豆類・全粒穀物を増やすといった、料理の個性を損なわない段階的な工夫が大切だと述べています。また、ポルトガル料理は地中海式の食事と歴史的につながりがあるものの、高エネルギーの料理を一度にいくつも食べる習慣や、塩漬け肉の多用といった点では、現代の指針が示す地中海食のモデルから離れていることも指摘しています。

この研究は、伝統料理を共通の方法で地域ごとに比較し、複数の食材を組み合わせた料理の栄養データを示した点に意義があります。用いた基準値は比較のための目安であり、個人に必要な量を示すものではないと著者らは注意を促しています。伝統の味と健康的な食事をどう両立させるかを考えるうえで、出発点となる基礎資料といえます。

原著論文の著者・所属:Mariana Lourenço(Applied Nutrition Research Group (GENA), Nutrition Lab, Egas Moniz Center for Interdisciplinary Research (CiiEM), Egas Moniz School of Health & Science, 2829-511 Caparica, Portugal)、Paula Pereira(Applied Nutrition Research Group (GENA), Nutrition Lab, Egas Moniz Center for Interdisciplinary Research (CiiEM), Egas Moniz School of Health & Science, 2829-511 Caparica, Portugal)、Marta Neves(Nutrialma<sup>®</sup>—Consultoria em Nutrição, 1250-008 Lisboa, Portugal)、Manuel Bicho(Ecogenetics and Human Health Research Group, ISAMB—Institute of Environmental Health, Associate Laboratory TERRA, Lisbon School of Medicine, University of Lisbon, 1649-028 Lisboa, Portugal; Institute of Scientific Research Bento da Rocha Cabral, Calçada Bento da Rocha Cabral 14, 1250-012 Lisbon, Portugal)、Ana Valente(Applied Nutrition Research Group (GENA), Nutrition Lab, Egas Moniz Center for Interdisciplinary Research (CiiEM), Egas Moniz School of Health & Science, 2829-511 Caparica, Portugal; Ecogenetics and Human Health Research Group, ISAMB—Institute of Environmental Health, Associate Laboratory TERRA, Lisbon School of Medicine, University of Lisbon, 1649-028 Lisboa, Portugal)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mariana Lourenço, Paula Pereira, Marta Neves, et al. Nutritional Evaluation of Traditional Portuguese Recipes from Three Different Regions: A Contribution to Food Composition Databases. Nutrients 2026-08-01. DOI: 10.3390/nu18152486. 原著ライセンス:CC BY.