著者の所属・活動拠点の国は、トルコです。

掲載誌:Journal of Ethnic Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:半固形の伝統料理で肉を減らすと

環境への負荷が小さい食生活への関心が高まるなか、料理に使う肉を減らしたときに味や香り、食感がどう変わるのかが注目されています。ただし、これまでの研究の多くはハンバーグのような固形の肉製品や肉の代替品を対象としてきました。一方、世界の食文化には、穀物や豆と肉を長時間煮込み、粥やシチューのようなまとまりのある半固形状に仕上げる料理が数多くあります。研究チームは、こうした料理で肉を減らしたときの感覚的な影響は体系的に調べられていないと指摘しています。

研究チームが取り上げたのは、トルコの伝統料理ケシケキです。小麦と肉を煮込んで練り上げた料理で、その伝統は2011年にユネスコの無形文化遺産に登録されています。著者らは、ケシケキを長時間煮込む穀物と肉の半固形料理の代表例と位置づけました。研究の目的は二つです。一つは、肉の量を5段階に変えたケシケキを、訓練を受けた評価者がどう感じるかを調べることです。もう一つは、それぞれの感覚的な特徴が、肉を通常量使ったものと比べてどのような位置関係にあるかを、図の上に配置して探索的に示すことです。

どのように調べたか

基準としたのは、硬質小麦200グラムに羊の首肉150グラム、水と塩を加えて約2時間煮込み、ほぐした肉を戻して木づちでよく打ち練る標準的なレシピです。これを肉100%の試料とし、肉の量を75%、50%、25%に減らしたもの、肉を入れないものを加えた計5種類を用意しました。肉以外の材料や調理器具、加熱条件、練り方はすべてそろえ、肉の減少を補う別の食材は加えていません。

評価には、料理の専門教育と豊富な実務経験をもつ料理人12人が参加しました。研究チームは、一般消費者の代表ではなく、伝統料理をよく知る専門家のパネルとして位置づけています。参加者は事前に約4時間の訓練を受け、「肉の香り」「肉の味」「繊維感」「粘り」「ざらつき」という五つの評価項目について、強さの判断をそろえました。

訓練の後には、肉100%、50%、0%の試料を使い、三つの試料から一つだけ異なるものを当てる「三点識別試験」などを行って、パネルの判断が一貫しているかを確かめています。この確認段階では、試料に無作為な番号だけを付け、配合や肉の量は伏せましたが、見た目は参加者に見える状態でした。

本番の評価では、5種類の試料を30グラムずつ、約30℃にそろえて同じ陶器の容器に盛り、評価者ごとに異なる無作為な順番で出しました。参加者は五つの項目の強さを7段階で採点しました。研究チームは、肉を減らした各試料と肉100%の試料との差を統計的に検定しました。あわせて、試料どうしの感覚的な近さを2次元の図に配置する多次元尺度法という手法も用いています。著者らは、この図を差を確定するためのものではなく、全体の傾向を眺めるための探索的な手段だと明記しています。

主な結果

事前の確認段階では、肉100%と50%、100%と0%の組み合わせで12人全員が異なる試料を正しく当てました。50%と0%の組み合わせでも12人中11人が正解し、いずれも偶然とはいえない水準でした。評価のそろい具合を示す指標も、パネル全体としては良好でした。一方、個々の評価者の単位で見ると、そろい具合はより低い値でした。

ところが本番の評価では、五つの項目のどれについても、肉を減らした試料と肉100%の試料との間に統計的に信頼できる差は見られませんでした。5種類全体を比べる検定でも、有意な差はありませんでした。

探索的な図の上では、肉75%の試料が肉100%の試料の近くに位置し、50%はその中間でした。25%と肉なしの試料は離れた位置にあり、肉なしが最も遠くに位置しました。研究チームは、肉が減るにつれて感じ方が少しずつ移っていく傾向とも読める一方で、項目ごとの検定では差が確認されていないため、差が確定したものとして扱うべきではないと述べています。

この研究が示すこと

著者らは、今回の専門家パネルの条件では、ケシケキの肉を段階的に減らしても、決められた五つの項目で通常量の肉を使ったものとの統計的に信頼できる差は生じなかったとまとめています。同時に、評価者が12人と少ないことや、扱った料理が一つだけであることを限界として挙げています。そのうえで、差が有意でなかったことは、味が同じであることや差が感じ取れないことを証明するものではないと強調しています。一般の消費者がどう受け止めるかも、今回は調べていません。

この研究の意義は、肉を減らす研究の対象を、固形の肉製品や代替肉から伝統的な半固形の煮込み料理へと広げた点にあります。穀物と肉が一体となった料理の構造が、肉を減らしたときの感じ方にどう関わるのかを考える手がかりとして、伝統料理が有用な研究対象になりうることを示しています。

原著論文の著者・所属:Ismail Dalan(Department of Gastronomy and Culinary Arts, Yeditepe University, Istanbul, Turkey)、Sibel Ozilgen(Department of Gastronomy and Culinary Arts, Yeditepe University, Istanbul, Turkey)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ismail Dalan, Sibel Ozilgen. Sensory effects of meat reduction in a traditional semi-solid dish (Keşkek): an exploratory trained panel study. Journal of Ethnic Foods 2026-10-12. DOI: 10.1186/s42779-026-00336-3. 原著ライセンス:CC BY.