著者の所属・活動拠点の国は、イギリス、スイスです。
掲載誌:Journal of Cancer Survivorship
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
子どもの頃にがんを経験して成人した人(小児がん経験者)は、一般の人より何十年も早く健康上の問題に直面することがあります。なかでも心臓や血管の病気(心血管疾患)は、がん以外の病気や死亡の重要な原因です。一部の抗がん剤や放射線治療が、長期的に心血管疾患のリスクを高めることが知られています。
一方、食事は本人が変えられる生活習慣の一つです。これまでの研究では、果物や野菜、全粒穀物、不飽和脂肪を多くとる地中海式のような健康的な食事は、小児がん経験者でも心血管疾患のリスクの低さと関連すると報告されています。ただ、栄養素や食品を一つずつ見るのではなく、人々が実際にどんな食品を組み合わせて食べているか(食事パターン)を調べた研究は、これまで米国の一つのコホート(追跡調査の対象集団)に限られていました。
そこで研究チームは、言語や文化が地域ごとに異なり、食習慣にも地域差があるスイスで、成人した小児がん経験者を対象に調査を行いました。目的は、どのような食事パターンがあるかを明らかにすること、どんな社会的背景や生活習慣がそのパターンと関係しているかを調べること、そして食事パターンと心血管疾患やその危険因子との関連を評価することです。
調べた方法
対象は、1976〜2005年に21歳未満でがんと診断され、診断から5年以上生存し、2017年の追跡調査時点で18歳以上だったスイスの小児がん経験者です。参加者は、過去4週間に112品目の食品をどのくらいの頻度と量で食べたかを答える質問票に、フランス語またはドイツ語で回答しました。妊娠中・授乳中の人や回答が不完全な人、摂取エネルギー量が現実的でない人を除き、802人が分析対象となりました。年齢の中央値は35歳で、半数が女性でした。
研究チームは食品を52のグループにまとめたうえで、一緒に食べられやすい食品の組み合わせを統計的に抽出し、さらに食べ方の似た人どうしをグループ分けしました。前もって「健康的な食事」の基準を決めて当てはめるのではなく、データから自然に現れる食べ方の型を見つける手法です。
心血管の状態は、同じ時期に回答された質問票の自己申告に基づき、心筋梗塞や脳卒中などの「心血管疾患あり」、高血圧・肥満・薬で治療中の糖尿病や高コレステロールなどの「危険因子あり」、どちらもない「リスクなし」の3つに分けられました。
主な結果
分析の結果、5つの食事パターンが見つかりました。魚介類や新鮮な果物・野菜が多く、加工肉・赤身肉や高脂肪の乳製品、酒が少ない「地中海風」(22%)、ファストフードや加工肉・赤身肉、酒が多い「欧米型・嗜好品中心」(38%)、高脂肪の乳製品や甘い食品、精製穀物が中心の「欧米型・甘味と脂肪」(26%)、加工肉・赤身肉や高脂肪乳製品、砂糖が多い一方で果物・野菜やファストフード、酒は少ない「控えめな嗜好品型」(9%)、果物・野菜と酒が多く、加工肉・赤身肉や魚介類が少ない「植物中心・飲酒多め」(6%)です。
地中海風のグループは、欧州食品安全機関の栄養摂取基準に最もよく沿っており、食物繊維やカルシウム、鉄、カリウムの摂取が良好でした。ただし、このグループでもビタミンDは低い水準にとどまっていました。
食事パターンは性別などの背景によって違いがありました。女性は植物中心・飲酒多め型(76%)や地中海風(65%)に多く、男性は欧米型・嗜好品中心に多く見られました(65%)。地中海風と比べた分析では、若い人ほど欧米型の2つのパターンや植物中心・飲酒多め型をとりやすく、フランス語圏やイタリア語圏に住む人は欧米型のパターンをとりにくい傾向がありました。また、学歴が高いことは植物中心・飲酒多め型と関連し、子どもがいることはこの型をとりにくいことと関連していました。居住地域の社会経済的な水準が高い人は、植物中心・飲酒多め型と欧米型・嗜好品中心の両方をとりやすく、他の人と同居している人は欧米型・嗜好品中心が多い傾向でした。喫煙者は、控えめな嗜好品型、植物中心・飲酒多め型、欧米型・嗜好品中心をとる人が多く見られました。
心血管の状態については、14%が心血管疾患を、11%が危険因子を報告し、75%はどちらもありませんでした。その割合は食事パターンの間で同程度で、地中海風と比べても、ほかのパターンと心血管疾患や危険因子との間に統計的に意味のある関連は見られませんでした。
この研究が示すこと
著者らは、関連が見られなかった理由として、参加者が比較的若く心血管疾患を持つ人が少なかったこと、心血管疾患は治療から何十年もたって現れることが多いこと、病気や危険因子が主に自己申告に基づき、未診断や未治療のものを捉えきれていない可能性があることを挙げています。また、ある一時点の調査であるため因果関係は判断できず、病気や危険因子が見つかった後に食事を改善した人がいる可能性もあります。著者らは、この分析は探索的なもので、慎重に解釈すべきだとしています。
この研究で確かめられたのは、スイスの成人した小児がん経験者の食べ方に5つの型があり、それが性別や年齢、地域、家族構成、喫煙などによって異なるということです。さらに著者らは、欧米型の2つのパターンがスイスの国民栄養調査で見つかったパターンと似ていることから、小児がん経験者も一般の成人と同じ食環境の中で食べている可能性を示唆しています。ただし、本研究で一般の成人を直接調べて比べたわけではありません。
著者らは、若い時期に関連が見えないことを理由に食事の評価を軽視すべきではなく、食事を心血管リスク管理の一部として位置づけ、長期的なフォローアップの中で食事相談を重視すべきだと述べています。
原著論文の著者・所属:Ruijie Li(Children's Health & Exercise Research Centre (CHERC), Public Health and Sport Sciences, Faculty of Health and Life Sciences, University of Exeter, Exeter, EX1 2LU, UK)、Raquel Revuelta Iniesta(Children's Health & Exercise Research Centre (CHERC), Public Health and Sport Sciences, Faculty of Health and Life Sciences, University of Exeter, Exeter, EX1 2LU, UK)、Alan R. Barker(Children's Health & Exercise Research Centre (CHERC), Public Health and Sport Sciences, Faculty of Health and Life Sciences, University of Exeter, Exeter, EX1 2LU, UK)、Angeline Chatelan(Department of Nutrition and Dietetics, Geneva School of Health Sciences, HES-SO University of Applied Sciences and Arts Western Switzerland, Rue Des Caroubiers 25, Carouge-Geneva, 1227, Switzerland)、Lorenz M. Leuenberger(Graduate School for Health Sciences, Institute of Social and Preventive Medicine (ISPM), University of Bern, Mittelstrasse 43, Bern, 3012, Switzerland; Paediatric Routine Data, Child and Adolescent Health, Institute of Social and Preventive Medicine (ISPM), University of Bern, Mittelstrasse 43, Bern, 3012, Switzerland)、Yara Shoman(Childhood Cancer Research Group, Institute of Social and Preventive Medicine (ISPM), University of Bern, Mittelstrasse 43, Bern, 3012, Switzerland; Paediatric Routine Data, Child and Adolescent Health, Institute of Social and Preventive Medicine (ISPM), University of Bern, Mittelstrasse 43, Bern, 3012, Switzerland)、Ben D. Spycher(Childhood Cancer Research Group, Institute of Social and Preventive Medicine (ISPM), University of Bern, Mittelstrasse 43, Bern, 3012, Switzerland)、Fabiën N. Belle(Childhood Cancer Research Group, Institute of Social and Preventive Medicine (ISPM), University of Bern, Mittelstrasse 43, Bern, 3012, Switzerland. [email protected]; Paediatric Routine Data, Child and Adolescent Health, Institute of Social and Preventive Medicine (ISPM), University of Bern, Mittelstrasse 43, Bern, 3012, Switzerland. [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ruijie Li, Raquel Revuelta Iniesta, Alan R. Barker, et al. Dietary patterns and cardiovascular risk in adult survivors of childhood cancer: findings from the SCCSS-Nutrition Study. Journal of Cancer Survivorship 2026-10-31. DOI: 10.1007/s11764-026-02145-8. 原著ライセンス:CC BY.