この研究は、ポーランドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:International Journal of Innovative Technologies in Social Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

子宮内膜症は、子宮の内側を覆う組織(子宮内膜の腺と支持組織)が子宮の外側で育ってしまう、慢性の炎症性でホルモンに左右される病気です。著者らによれば、生殖年齢の女性のおよそ10%にみられ、月経痛が強い人では30〜40%に及ぶと報告されています。慢性的な骨盤の痛み、月経痛、性交時の痛み、疲労感、抑うつ、腸の症状などが現れ、患者の最大50%が不妊という合併症を抱えるとされます。

著者らは、発症の正確な原因がまだ特定されておらず、免疫・ホルモン・環境・遺伝の要因が関わると考えられていると整理しています。そのため現在の治療は薬物療法と腹腔鏡手術が中心で、痛みを和らげることが主な目的となり、完全に治す方法はなく再発の可能性も残ります。この論文は、そうした背景のもとで「特定の食事法や栄養素が子宮内膜症の発症や進行にどう影響するか」について、近年の研究を見渡すことを目的としています。

どのように調べたか

この論文は新しい実験を行ったものではなく、既存の研究を集めて整理した文献レビューです。著者らはPubMedとGoogle Scholarという文献データベースを検索し、主に2016年から2026年に発表された論文を対象としました。さらに、重要な古い文献を拾うために参考文献リストを手作業でたどっています。

収集対象には原著論文、総説、メタアナリシス(複数の研究結果を統計的に統合した解析)、症例報告が含まれ、英語以外の言語で書かれた論文は除外されました。検索には「子宮内膜症」「食事と栄養」「サプリメント」「抗酸化物質」「ビタミンD」「地中海食」「抗炎症食」「低FODMAP食」「グルテンフリー食」「クルクミン」「N-アセチルシステイン」「オメガ3脂肪酸」などのキーワードが用いられています。

報告された主な内容

著者らは、食事が子宮内膜症に関わる経路として、病変部の慢性的な炎症、過剰な酸化ストレス(体内で発生する活性酸素と、それを打ち消す抗酸化の働きとのバランスが崩れた状態)、ホルモンのバランス、腸内細菌の構成への影響を挙げています。

食事法のうち、地中海食については特に有望な結果が紹介されています。野菜・果物・種実類・豆類を中心とし、飽和脂肪や赤身肉を控える食事法です。Cirilloらの研究では、子宮内膜症のある女性35人で骨盤の痛み、性交時痛、排便時痛の軽減がみられ、ビタミンB12・E、葉酸、亜鉛の値の上昇も観察されたと報告されています。著者らはこの効果を、炎症を抑える働きを持つオメガ3脂肪酸の多い摂取や、抗酸化物質を含む果物・野菜の摂取と結びつけて説明しています。

抗炎症食については、食事全体の炎症を起こしやすさを評価する指標(食事炎症指数、DII)を用いたLiuらの横断分析で、炎症を促しやすい食事をとることが子宮内膜症のリスク上昇と関連していたことが紹介されています。腸の症状をともなう患者向けには低FODMAP食が取り上げられ、Mooreらの後ろ向き研究では、4週間後に子宮内膜症が確認された女性の72%が消化器症状の改善を報告し、過敏性腸症候群のみの患者では49%だったとされています。グルテンフリー食についても骨盤痛や消化器症状に良い影響がありうるとされる一方、子宮内膜症とグルテンを結ぶ仕組みは説明されておらず、研究数も少ないと著者らは述べています。

栄養素では、抗酸化作用を持つビタミンCとEに関して、Aminiらのランダム化研究で、8週間の摂取後に酸化ストレスの指標が対照群より低下し、骨盤痛・月経痛・性交時痛の程度も軽くなったと報告されています。ビタミンDは免疫の調節や炎症性物質の抑制に関わり、子宮内膜や卵巣に受容体が存在することが示されていますが、痛みへの効果については改善を示した研究と差がなかった研究があり、結果は一致していないと整理されています。ターメリック由来のクルクミンや、抗酸化作用を持つN-アセチルシステイン(NAC)、オメガ3脂肪酸についても関連する研究が紹介され、NACでは痛みの有意な軽減を報告した試験が取り上げられています。一方でオメガ3と痛みの関係は結論が定まっていません。

逆に症状や進行を悪化させうる要因も示されています。著者らが引用する報告では、単純糖質・高度に加工された食品・飽和脂肪の多い炎症を促す食事は子宮内膜症のリスクを4倍に高め、赤身肉を1日2皿分より多く食べることはリスクを56%高めるとされています。アルコールは炎症を強め、血中のエストロゲン値の上昇に関わるとされる一方、カフェインの影響はまだよく分かっておらず、女性を対象とした研究では明確な関連は示されていないと述べられています。

この研究が示すこと

著者らは、食事の工夫は現時点では単独の治療法ではなく、あくまで治療を補助するものと位置づけられると結論しています。得られている結果は有望でも、データの一部は一致しておらず、効果をはっきり確かめるには十分に設計されたランダム化比較試験がさらに必要だとしています。

それでもこのレビューは、薬や手術だけでなく食事にも目を向ける全体的なアプローチが検討されつつある現状を示しています。研究が積み重なれば、患者に向けたより具体的な食事の指針を組み立てる土台になりうる、というのが著者らの見方です。

著者:Magdalena Cieślik-Porębska(Stefan Cardinal Wyszyński Provincial Specialist Hospital SPZOZ in Lublin, Lublin, Poland)、Agata Cieślik(Ludwik Rydygier Specialist Hospital in Krakow SPZOZ, Krakow, Poland)、Jadwiga Pelc(Independent Public Healthcare Institution of the Ministry of the Interior and Administration in Lublin, Lublin, Poland)、Agata Miecznikowska(Ludwik Rydygier Specialist Hospital in Krakow SPZOZ, Krakow, Poland)、Mateusz Gąbka(St. Anne's Hospital in Piaseczno, Piaseczno, Poland)、Agnieszka Cichocka(Stefan Cardinal Wyszyński Provincial Specialist Hospital SPZOZ in Lublin, Lublin, Poland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Magdalena Cieślik-Porębska, Agata Cieślik, Jadwiga Pelc, et al. THE IMPACT OF SELECTED DIETS AND NUTRIENTS ON THE DEVELOPMENT AND PROGRESSION OF ENDOMETRIOSIS: A LITERATURE REVIEW. International Journal of Innovative Technologies in Social Science 2026-09-24. DOI: 10.31435/ijitss.3(51).2026.6160. 原著ライセンス:CC BY.