著者の所属・活動拠点の国は、ウクライナ、ノルウェーです。

掲載誌:Molecular Nutrition & Food Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ハムやソーセージなどの加工肉の多くには、水分を保つための添加物が使われています。代表的なのはリン酸塩、亜硝酸塩、そして食塩水を肉に注入する処理です。著者らによれば、これらは製品の重量をおよそ15〜30%増やし、ジューシーさや日持ちを高める一方で、たんぱく質を薄めて栄養価を下げることがあります。それでも、表示が不十分なため、一般の消費者にはあまり知られていないと論文は指摘しています。

これまでの総説は、個々の添加物や特定の病気を対象にしたものが中心でした。この総説はそれと異なり、リン酸塩・ナトリウム・亜硝酸塩をまとめて取り込むことを「累積的な曝露(さらされること)」として捉え、代謝、心臓や血管、がんなど複数の領域にまたがる影響を整理することを目的としています。

どのように調べたか

この研究は、新たな実験や調査を行ったものではなく、既存の研究を読み解いてまとめる「ナラティブ・レビュー(記述的総説)」です。研究チームは三つの主要な医学・科学文献データベースを使い、2000年1月から2026年1月までに英語で発表された査読付き論文を検索しました。対象には、人を対象とした疫学研究、動物や細胞を使った実験研究、複数の研究を統合したシステマティックレビューやメタ解析が含まれます。

著者ら自身、この方法には限界があると述べています。文献の選び方に偏りが入る可能性があること、人のデータの多くが観察研究であるため原因と結果の関係を確かめにくいこと、研究ごとの条件の違いから結果を直接比べにくいことです。

報告された主な内容

まず、添加物が体の中でどう働くかについてです。論文によると、加工肉に含まれる無機リン酸塩は腸での吸収率が80〜100%に達し、植物由来のリン(40〜60%以下)より吸収されやすいとされます。リンの摂りすぎは、ビタミンDの活性化やカルシウムの調節に関わるホルモンのバランスを乱すことや、血管の石灰化、心臓・血管の病気のリスクの高まりと関連づけられてきました。亜硝酸塩は、胃の酸性環境や腸内細菌の働きによって、肉のたんぱく質に由来する物質と反応し、「N-ニトロソ化合物」と呼ばれる発がん性をもつ物質群をつくります。細胞や動物の実験では、これが大腸の粘膜細胞のDNAを傷つけることが示されています。また、ナトリウムの摂りすぎは血圧を上げる仕組みを働かせ、心臓や腎臓への負担と関連するとされます。

一方で、ビタミンC(アスコルビン酸)などがニトロソ化合物の生成を抑えることも紹介されており、亜硝酸塩の影響は濃度だけでなく、配合や加工条件全体によって変わると著者らは述べています。

病気との関係では、加工肉の摂取は大腸がんの食事上の危険因子として最もよく記録されたものの一つであり、先進国の大腸がんの約10〜15%に関わると推定する疫学研究があると紹介されています。ただし論文は、世界保健機関の専門機関が加工肉を「グループ1」の発がん性分類に入れたことは、発がんの証拠の確かさを示すもので、たまに食べる人の個人のリスクが高いことを意味するわけではないと強調しています。リスクの上昇は主に、長期間にわたって日常的に食べることと関連しているとされます。また、慢性腎臓病の人ではリンを体外へ出しにくいため、リンの摂りすぎが特に問題になりうると述べています。

腸内細菌については、リンやナトリウムの多い食事が腸内細菌の多様性を下げたり、免疫のバランスを変えたりする可能性が示されていますが、その多くはマウスやラットの研究によるもので、人での直接的な証拠は限られていると論文は明記しています。

論文は、代替策として注目される培養肉(細胞を培養して作る肉)にも触れています。培養肉は生産条件を管理しやすく、添加物の使用を抑えたり最適化したりできる可能性があります。しかし、組織が未熟で水分を保ちにくいため、食感や安定性のために海藻由来の増粘剤などの保水剤がやはり必要になることが多いとされます。こうした増粘剤も体に対して完全に無害とはいえず、培養肉が添加物の総摂取を本当に減らせるかはまだ分かっていないと著者らは述べています。

規制面では、現在の基準が個々の製品ごとに添加物を評価しており、清涼飲料や乳製品、パンなど様々な食品からの合計摂取量を考慮していないと指摘しています。また、表示には含有量が示されないことが多く、消費者が自分の摂取量を把握しにくい点も問題として挙げています。

この研究が示すこと

この総説は、加工肉の保水用添加物を一つずつ切り離して見るのではなく、複数の添加物を様々な食品から同時に取り込むという、実際の食生活に近い視点で健康への影響を捉え直したものです。著者らは、ミネラルの代謝、酸化ストレス、血圧の調節、腸内細菌などを通じて影響が生じうるとしつつ、現時点の証拠の多くは観察研究や実験研究によるもので、明確な因果関係は確立されていないことを繰り返し強調しています。

また、影響の受けやすさは食生活全体や体質、持病によって異なり、心臓や腎臓に病気をもつ人は特に敏感である可能性があるとしています。推奨される食事パターンの範囲内で加工肉を適度に食べることは、一般の人にとっては許容されると広く考えられている点にも論文は触れています。そのうえで、合計の摂取量を考慮した評価や、より分かりやすい表示が、リスクの把握と食品選びの助けになりうると結んでいます。

原著論文の著者・所属:Oleksandr Kamyshnyi(Department of Microbiology Virology and Immunology I. Horbachevsky Ternopil National Medical University Ternopil Ukraine; Kyiv School of Economics Kyiv Ukraine)、Iryna Halabitska(Department of Therapy and Family Medicine I. Horbachevsky Ternopil National Medical University Ternopil Ukraine)、Magnar Bjorås(Centre of Healthy Embryology (CRESCO) Oslo Norway; Department of Clinical and Molecular Medicine Norwegian University of Science and Technology Trondheim Norway; Department of Microbiology Oslo University Hospital and University of Oslo Oslo Norway)、Ingrid Bjørnes Sæther(Department of Clinical and Molecular Medicine Norwegian University of Science and Technology Trondheim Norway)、Trygve Brautaset(Department of Clinical and Molecular Medicine Norwegian University of Science and Technology Trondheim Norway)、Iryna Kamyshna(Department of Medical Rehabilitation I. Horbachevsky Ternopil National Medical University Ternopil Ukraine)、Oleh Lushchak(Kyiv School of Economics Kyiv Ukraine)、Valentyn Oksenych(Department of Clinical and Molecular Medicine Norwegian University of Science and Technology Trondheim Norway)、Pavlo Petakh(Department of Biochemistry and Pharmacology Uzhhorod National University Uzhhorod Ukraine; Kyiv School of Economics Kyiv Ukraine)、Denis E. Kainov(Department of Clinical and Molecular Medicine Norwegian University of Science and Technology Trondheim Norway)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Oleksandr Kamyshnyi, Iryna Halabitska, Magnar Bjorås, et al. The Hidden Burden of Water‐Binding Additives in Meat Products: Biochemical, Clinical, and Psychosocial Implications. Molecular Nutrition & Food Research 2026-08-01. DOI: 10.1002/mnfr.70591. 原著ライセンス:CC BY.