自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもたちの中には、特定の食べ物しか受け付けない「極端な偏食」が見られるケースが少なくありません。こうした偏食は、成長に必要な栄養素の不足につながることが懸念されていますが、資源が限られた地域でどのような栄養支援が実際に行えるのか、そのデータはまだ十分ではありませんでした。今回紹介するのは、ベトナムでASDのある子どもたちを対象に、12週間にわたる複合的な栄養支援プログラムを試みた探索的なパイロット研究です。

この研究は、ベトナム・ゲアン省の5つの地域センターから集まった、ASDのある子ども56人(平均年齢59.0±22.3ヶ月、男児80.4%)を対象に行われました。比較対照群を置かない単群の試験で、参加した子どもたちには、養育者向けの栄養教育、一人ひとりに合わせた個別の食事指導、そして毎日の複数微量栄養素サプリメントの摂取という3つの要素を組み合わせた介入が12週間実施されました。介入の前後で、身長や体重などの体格指標、血液検査によるバイオマーカー、食べる際の行動(摂食行動)、食事内容が評価されています。

研究でわかったこと

まず注目すべき点として、56人全員が12週間の介入と予定された全ての追跡評価を完了し、完了率100%であったと報告されています。

体格の変化については、60ヶ月未満の子どもたちで、年齢に対する体重の指標(WAZ)の平均値が−0.66から−0.28へ、年齢に対する身長の指標(HAZ)の平均値が−1.18から−0.97へと、いずれも統計的に有意な変化が見られたとされています。60ヶ月を超える子どもたちでは、HAZの平均値が−0.87から−0.58へ、年齢と身長を考慮したBMIの指標(BAZ)が−0.20から0.06へ有意に変化したと報告されています。

血液検査の指標でも変化が見られ、血清亜鉛は10.29から11.72µmol/Lへ、フェリチンは31.74から34.79ng/mLへ、ヘモグロビンは122.73から124.77g/Lへと、いずれも有意な増加が示されました。一方で、栄養状態の指標の一つであるアルブミン値には変化が見られなかったとのことです。これらに加えて、摂食行動や、栄養価の高い食品の摂取量についても改善が見られたと報告されています。

さらに統計分析からは、介入前の時点で体格指標がより低かった子どもほど、WAZやHAZの伸びが大きいという関連が示されたとされています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、対照群を置かずに介入前後の変化を比較する「単群パイロット研究」であり、著者ら自身も「探索的」な位置づけであるとしています。そのため、観察された体格や血液指標の変化が、今回の栄養支援プログラムそのものによるものなのか、あるいは他の要因(自然な成長など)が関与しているのかを、この研究の結果だけから明確に判断することはできません。論文の結論部分でも、今回の結果を踏まえてランダム化比較試験によるさらなる検証が必要だと述べられています。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意して読むことが大切です。

まとめ

この研究では、ベトナムの地域センターを拠点とした、養育者教育・個別食事指導・微量栄養素サプリメントを組み合わせた12週間の栄養支援プログラムが、ASDのある子どもたち56人全員によって完了され、体格指標や血清亜鉛・フェリチン・ヘモグロビンといった一部のバイオマーカー、摂食行動や食事内容に短期的な改善が見られたと報告されています。今後、より厳密な研究デザインによる検証が期待される段階の知見といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:自閉スペクトラム症児への複合的栄養支援:ベトナムにおける探索的パイロット研究(ペディアトリック・リポーツ・2026年07月)